復讐の咆哮。六人の初連携戦と、勇者を超える者たち
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「……グルルルゥゥゥッ!!」
名もなき廃村の左側――まだ鳥居の結界が覆いきれておらず、魔骨のスパイク防壁も建設途中である森の境界線から、地鳴りのような恐ろしい咆哮が響き渡った。
「ヒィィッ! ま、魔物だぁぁっ!!」
「デカいぞ! 丸太みてえな腕だ!!」
作業をしていた村人たちが、血の気を引かせて悲鳴を上げる。
木々を薙ぎ倒して姿を現したのは、体高が三メートルに迫る異形の獣だった。
鋼鉄のように黒光りする体毛に、熊と猪を掛け合わせたような悍ましい巨躯。
それは、一ヶ月前に蒼汰たち四人を死の淵まで追いやった災害級の魔物、『凶暴熊猪』だった。
「……なるほど。初日に僕たちが倒した個体より、ふた回りほどデカいな。
怒り具合から推測するに、あいつの『番』か」
騒ぎを聞きつけて広場から駆けつけた理人が、眼鏡のブリッジを押し上げながら冷静に分析する。
番を殺された恨みを晴らすためか、あるいは村の防壁に突き刺さっている「同族の骨」の匂いに引き寄せられたのか。
魔物は血走った双眸をギラつかせ、ヨダレを撒き散らしながら村人たちを睨みつけていた。
「俺が……俺が皆を守るんだ! うおおおおっ!!」
昨日、萌音の力で『重装歩兵(Lv1)』に覚醒したばかりのジョーが、大工班が作った分厚い木の板を盾代わりに構え、震える足で前に出ようとした。
だが、その肩を、横から力強い手がガシッと掴んで引き止めた。
「いいガッツだ、自警団長。でも、お前はまだレベル1のひよっこだ。
あんな規格外の化け物の相手は、俺たちに任せておけ」
「た、多目さん……!」
蒼汰が、ニッと不敵に笑ってジョーの前に出る。
その後ろには、理人、楓菜、そして乃亜が、微塵の恐怖も感じさせない自然体で並び立っていた。
少し離れた安全な場所から、刀真と萌音が息を呑んでその背中を見つめている。
非戦闘職である彼らには、ただ見守ることしかできない。
「行くぞ、お前ら! 一ヶ月前の俺たちとは違うってこと、あのデカブツに教えてやろうぜ!」
「おうっ!」
蒼汰の号令と共に、四人が一斉に動いた。
「まずは私から! こっちだよ、デカブツ!!」
楓菜が、常人には目で追えないほどの異常なスピードで地面を蹴った。
ホーンラビットや大鹿の肉を食べ続けたことで定着した『素早さ』の特性。
彼女は文字通り風のように木々の幹を三角飛びで駆け上がり、魔物の頭上の枝へと一瞬で到達した。
「ガァァァッ!?」
突然視界から消え、頭上から声がしたことに魔物が混乱して上を向く。
「もらったぁっ!」
楓菜が放った魔骨の矢が、空気を裂いて魔物の右目に正確に突き刺さった。
「ギャルルルゥゥゥッ!!」
激痛に狂い、魔物が前足を振り上げて楓菜のいる木をへし折ろうとする。
だが、その動きはひどく鈍かった。
「……三秒。完璧な循環速度だ」
理人が、手元のストップウォッチ代わりの砂時計を見ながら冷たく呟く。
「楓菜の矢尻には、僕が抽出した『特製・極大麻痺毒』を塗布してある。
番の死の匂いで興奮し、血流が加速している今のあいつなら、毒の回りは通常時の三倍だ」
理人の言葉通り、魔物は全身を痙攣させ、ズズンッ!と重い音を立てて膝をついた。
「ナイスサポート、理人くん! じゃあ、次は私が!」
後方に立つ乃亜が、両手を胸の前で組み、祈りを捧げる。
「清らかなる水よ……穢れを祓い、守りの衣となれ!」
乃亜の『浄化』の力が、霧雨のような淡い光となって前衛の蒼汰と楓菜を包み込む。
魔物が苦し紛れに撒き散らす毒素を含んだ瘴気や、鼻をつく血の匂いが一瞬で浄化され、蒼汰たちの呼吸を極限まで助け、疲労を回復させていく。
「へへっ、空気が美味え! 乃亜のバフも理人のデバフも、最高にキマってるぜ!」
蒼汰は、腰に提げていた刃こぼれだらけの鉄剣を抜いた。
彼の視界の端にだけ浮かぶUI、『満腹度ゲージ』は現在【95%】を示している。
(追放された初日は、残り38%のカロリーを全部燃やしてギリギリだった。でも、極上のかまど飯と肉を毎日腹いっぱい食ってる今の俺なら……半分以下の消費で十分お釣りがくる!)
「トドメだ。俺のカロリー、半分持っていけ……っ!」
蒼汰が体内のカロリーを一気に『代謝熱』へと変換し、鉄剣の刀身に纏わせる。
ゴオォォォォッ!!
初日の戦闘とは比べ物にならない、数千度の青白い陽炎が剣から噴き出した。
限界突破を果たした彼の熱量は、かつての「全力」を遥かに凌駕する凄まじい威力を孕んでいた。
「一撃で終わらせる!」
蒼汰が地面を爆発するように蹴り、麻痺で動けない魔物の懐へと飛び込む。
閃光のような一太刀が、魔物の分厚い首へと叩き込まれた。
――だが、その瞬間。
バキィィィィンッ!!
魔物の分厚い皮と肉を極大の熱で両断した直後、蒼汰の凄まじい踏み込みの勢いと、自らが発する超高温に耐えきれず、限界を迎えていた安い鉄剣の刃が粉々に砕け散ったのだ。
ドゴォォォォンッ……!!
巨大な頭部が地面に落ち、遅れて胴体が地響きと共に倒れ伏す。
切断面は蒼汰の熱によって完全に焼き焦がされ、一滴の血すら流れていなかった。
戦闘開始から、わずか一分足らず。
一ヶ月前は四人がかりで死にかけ、奇跡的に勝利した災害級の魔物を、彼らは文字通り「赤子の手をひねるように」圧倒してしまった。
「ふぅーっ。お疲れ! ……って蒼汰、剣折れちゃってるじゃん!」
楓菜が木から軽やかに飛び降り、蒼汰の手元を見て目を丸くする。
「ああ。完全に寿命だな。切れ味は最高だったんだが、俺の踏み込みの勢いと熱に、鉄の材質が追いつかなくなっちまった」
蒼汰は短くなった柄を見つめ、「今までありがとな、相棒」と優しく呟いた。
「怪我がなくてよかったよ。でも蒼汰くんの力、この前と比べ物にならないくらい強くなってるね」
乃亜が駆け寄り、ホッと胸を撫で下ろす。
「僕の毒も楓菜の射撃も完璧だった。これが、一ヶ月間この森で生き抜いてきた僕たちの連携だ」
理人が得意げに眼鏡を押し上げた。
死闘の直後とは思えないほど和やかな、互いの健闘を称え合う温かい会話。
だが、それを見守っていた周囲の者たちは、完全に言葉を失っていた。
「……す、すげえ」
盾を構えたまま固まっていたジョーが、震える声で呟いた。
「森の王を……あんな巨大な森の王をたったの一撃で……。これが、多目さんたちの本当の力……!」
「うおおおおおっ!! 多目様万歳! 英雄様バンザーイ!!」
村人たちが我に返り、割れんばかりの歓声と拍手が広場を包み込んだ。
その熱狂の渦の外で、刀真と萌音は、背筋に冷たい汗をかきながら立ち尽くしていた。
恐怖ではない。
圧倒的な強さと、それを支える『信頼の絆』に対する、純粋な畏怖だった。
「……なぁ、萌音。お前、視えたか? あいつらのレベル」
刀真が、喉を鳴らして隣の少女に問いかける。
「ううん……。やっぱり、私の『管理者権限』でも、四人のレベルは真っ白で、何も視えなかった」
「……やはりそうなのか」
刀真は、折れた剣の柄を持つ蒼汰の背中を見つめながら、王宮での記憶を反芻していた。
彼は見習い細工師として、神宮寺たち勇者パーティの討伐訓練に強制的に同行させられたことが何度もあった。
レベル50を超えた勇者たちの戦闘は、確かに派手だった。
システムがオートで補正をかけてくれるチートスキルを乱発し、光と爆発で力任せに敵を粉砕する戦い方だ。
だが、今目の前で繰り広げられた四人の戦闘は、それとは根本的に違った。
地形を利用した位置取り。
相手の生態を熟知した毒の運用。
仲間の息遣いすら把握した完璧なタイミングの連携。
そして、武器がへし折れるほどの異常な熱量と身体能力。
「……俺は、神宮寺たちの戦いを何度も一番近くで見てきた。
あいつらは『システムに動かされている』だけだ。
でも、多目たちは違う。自分たちの肉体と、仲間への絶対的な信頼だけで戦ってる」
刀真が、無意識のうちに強く拳を握りしめた。
「……強さは、同等じゃない。もし今、多目たちが神宮寺たちと殺し合い(デスマッチ)をしたとしたら……システムに甘え切ってる勇者どもは、多目の一手目で首を飛ばされるぞ」
「うん。……蒼汰くんたちは、レベルなんていう枠組みに収まる人たちじゃない。
強くて、優しくて……本当の『英雄』だよ」
萌音もまた、誇らしげな笑顔で四人の姿を見つめていた。
「おーい! 刀真、北条さん! お前らもこっち来いよ!」
蒼汰が振り返り、大きく手を振る。
二人が駆け寄ると、理人が倒れた魔物の胸ぐらをナイフで裂き、中からドクンと脈打つような、特大の『赤い魔石』を取り出したところだった。
「初日に倒した個体よりもさらに大きく、魔素の純度も高い。
……これなら文句なしだ。蒼汰、これで鳥居の結界を完全に復活させられるぞ」
理人が魔石を太陽の光にかざして笑う。
「……多目。いや、蒼汰」
歓喜の輪の中で、刀真が蒼汰の前に歩み出た。
彼の目は、先ほどの熊猪の巨大な死体と、蒼汰が持つ折れた鉄剣の柄を真っ直ぐに見据えていた。
「お前のその折れた剣……もう、ただの鉄じゃお前の力に耐えられない。
お前ら四人は、すでに初期装備の限界を遥かに超えちまってるんだ」
「刀真……?」
「さっきの熊猪の骨、俺に全部預けてくれないか?」
刀真が、かつてないほどの熱を帯びた瞳で四人を見渡した。
「蒼汰だけじゃない。楓菜ちゃんの弓も、乃亜ちゃんの杖も、理人の道具も……全員の武器を、俺が新調する。
あの最高ランクの魔骨と鉄を融合させた『魔骨鋼』で、お前ら四人の規格外の力に絶対負けない、最強の専用武器を俺に打たせてくれ!」
「……刀真」
蒼汰は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに目尻を下げ、折れた鉄剣の柄を放り投げた。
「ああ、頼む。お前が打ってくれる武器なら、絶対に折れない最強の相棒になるって信じてるぜ」
「私も! もっと強くてしなる弓、お願いね刀真くん!」
「よろしく頼むよ、錬魔刀匠」
かつて王宮で「無能」と嘲笑された少年たちは、互いの長所を認め合い、補い合いながら、王国の勇者すら凌駕する最強のパーティへと進化を遂げていた。
強大な魔石と、新たな武器の素材を手に入れた彼らの逆転劇は、いよいよ誰にも止められない速度で加速していくのだった。
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