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【萌音覚醒】村人たちの才能鑑定と、見えない声を聞く青年

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 翌朝。


 名もなき廃村を包む空気は、これまでにないほど澄み渡っていた。


「……信じられない。頭の中が、こんなに静かななんて」


 空き小屋の毛布の上で目を覚ました萌音は、朝日の中で自分の掌を見つめて呟いた。


 王宮にいた頃、常にこびりついていた「思考の霧」が完全に晴れている。


 それどころか、視覚や聴覚といった五感が、まるですべてのノイズを排除したかのように鋭敏に研ぎ澄まされていた。


「おう、起きたか。顔色、見違えるほど良くなったな」


 入り口から、バケツを持った蒼汰が顔を出した。


 その後ろには、すでに活動を始めている理人や乃亜、楓菜の姿もある。


「……うん。多目くん、みんな、おはよう。……あのね、なんだか不思議なの。

 力が、体の奥から溢れてくるみたいで」


 萌音が立ち上がり、小屋の外へと足を踏み出した、その瞬間だった。


「――っ!?」



 彼女は思わず、その場に立ちすくんだ。

 視界が、一瞬だけ黄金色に発光したかと思うと、目の前を歩いている村人たちの頭上に、今まで見たこともない『半透明のウィンドウ』が浮かび上がったのだ。


「え、なにこれ……?」


 萌音は自分の目を擦った。だが、そのウィンドウは消えるどころか、より鮮明に情報を表示し始める。


【名前:ジョー】【状態:良好】

【現在ジョブ:村人 Lv2】

【真なる適性(隠しジョブ):重装歩兵(自警団長)】


【名前:ケント】【状態:良好】

【現在ジョブ:村人 Lv3】

【真なる適性(隠しジョブ):代官(地方行政官)】


「ど、どうした萌音。変な顔して」


 蒼汰が不思議そうに覗き込んでくる。だが、萌音の瞳には、蒼汰の頭上だけは何のウィンドウも、レベルの数字も表示されていない「真っさらな空白」として映っていた。


「多目くん……。私のスキル、たぶん進化してる。ううん、『管理者権限』っていう名前に変わってる……! 

 みんなの本当の才能と、レベルの数字が全部文字になって視えるの!」


「なんだって!?」


 理人が、持っていた薬草の束を落としそうな勢いで詰め寄ってきた。


「管理者権限だと……!? おい、萌音。詳しく説明しろ。僕たちのレベルはいくつだ?」


「それが……。梶原くんも、多目くんも、乃亜ちゃんも楓菜ちゃんも……四人だけは、レベルの数字が全く視えないの。ただの真っ白な空間があるだけで」


「……ふむ」


 理人は眼鏡を押し上げ、不敵な笑みを漏らした。


「やはりな。僕たち四人は王宮の水晶に『無能』と判定された。


 それはつまり、この世界の『レベルシステム』という枠組み自体に登録されていない、測定不能のイレギュラーだということだ。

 ……対して、村人たちはどうだ?」


「えっとね、ほとんどの人がレベル1か2。

 村長のゲンさんはレベル5で、この村で一番高いのは息子のケントさんのレベル3かな。

 ……勇者のみんなは、王宮で見た時レベルはわからなかったけど、一般の騎士より遥かに強かったと思う」


「なるほど。一般人の限界値が10程度。

 勇者たちはかなり上のレベルまで、レベルアップできると推測できる。

 そして僕たちは、レベルという上限すら存在しない未知数、か」


 理人は納得したように頷くと、広場で作業をしているジョーとケントを指差した。


「萌音。君のその権限で、彼らの『隠しジョブ』を解放することはできるか?」


「……やってみる。なんか、こうすればいいって感覚で分かるの」


 萌音は、薪を運んでいたジョーの前に歩み寄った。


「ジョーさん、ちょっと止まってください」


「ん? 萌音さん、どうしたんだい?」


 萌音はジョーの目を見つめ、確信を込めて宣言した。


「ジョーさんの本当の力は、ただの村人じゃない。

 あなたは、仲間を守る盾……『重装歩兵』です!」


 ――ピロォォォンッ!


 萌音の脳内で、どこか懐かしいシステム音が響いた。


 直後、ジョーの体を眩い光の粒子が包み込む。


「うおっ!? なんだ、体が熱い……!」


 ジョーが驚いて叫ぶ。


 萌音の視界では、彼の頭上のプレートが【重装歩兵:Lv1】へと書き換わっていた。


「ジョーさん、おめでとう。今、あなたの才能のスイッチが入ったよ」


「重装歩兵……? よく分からねえけど……。

 なんだか、今までよりずっと『重心の落とし方』がしっくりくる気がする。

 こう……地面に根を張るみたいな感覚が、本能で分かるっていうか……!」


「才能の『種』が芽吹いた、というわけか」


 理人が冷静に分析を付け加える。


「ジョー。君は今、レベル1のひよっこ兵士だ。才

 能は解放されたが、技を磨きレベルを上げるのは君自身の努力次第だぞ。

 ……蒼汰、こいつを鍛えてやれ」


「おう! 自警団長さんの誕生だな。今日から防壁作りと並行して、俺の特訓メニューを追加してやるよ!」


「ええっ!? 多目さんの特訓!? ひ、ひぃぃっ!」


 続いて萌音は、兄のケントにも声をかけた。


「ケントさんは、『代官』……行政の天才です!」


 再び光が走り、ケントのジョブが【代官:Lv1】へと昇格する。


「……あっ。理人先生、今朝の肉の配給の計算、あれ間違ってます。正確にはあと三キロ増やさないと、作業員の午後のスタミナが持ちません」


 ケントが突然、理人の手元のメモを指差して断言した。


「ほう。一瞬でそこまで読み解くか。合格だ」


 理人が満足げに笑う。


「お前は今日から村の在庫管理と事務をすべて担え。

 レベルを上げれば、将来はこの辺り一帯を治める名官僚になれるだろうよ」


 萌音の管理者権限によって、次々と村人たちの「天職」が判明していく。


 手先が器用な若者が『裁縫師』として、足の速い娘が『伝令役』として、それぞれレベル1からのスタートを切った。


「萌音、すごいな! これなら、家とか防壁を直せる『大工』や『左官屋』のやつも見つかるんじゃないか!?」


 蒼汰が期待を込めて尋ねる。だが、村全体をゆっくりと見渡した萌音は、少し困ったように眉を下げて首を振った。


「……ううん。残念だけど、今この村にいる六十人の中に、建築系の隠しジョブを持ってる人は一人もいないみたい。

 専門的な『大工』とかは、いつか外から……他の村から難民の人とかを受け入れた時に、探すしかないかも」


「そっか。まあ、そんな都合よく全部の職種は揃わないよな」


 蒼汰が苦笑した、その時だった。


「あっ……!」


 萌音の視線が、村の隅にある堆肥たいひ置き場の近くにうずくまっている一人の青年に釘付けになった。


 ボサボサの髪に、どこか気弱そうな印象を受ける青年。


 名前はニルス。村の中でも特段目立たず、いつも一人で土や草をいじっている変人扱いされている若者だった。


「どうした、萌音。あいつに何かあるのか?」


「……ええっと。ニルスさんの頭の上に出てる適性、今まで見た誰よりも異常なの」


 萌音が、震える声でそのジョブを読み上げた。


「【真なる適性:発酵師(醸造家)】……。スキル欄に、『見えない小さな菌の声が聴こえる』って……!」


「……何だと?」


 今まで傍観していた理人の目が、カッと見開かれた。


 理人は脱兎のごとくニルスの元へ駆け寄った。


 ニルスは理人が森で集めてきて実験的に放置していた『謎の豆』の山に顔を近づけ、ブツブツと語りかけていた。


「……うん、うん。わかってるよ。君たち、お腹が空いてるんだね。

 もっと空気を混ぜてあげるから。……あ、こっちは少し温度が高い? 

 よしよし、冷ましてあげるからね……」


「おい、ニルス!!」


 理人が肩を掴むと、ニルスは「ひっ!」と短く悲鳴を上げて飛び上がった。


「り、理人先生……! ご、ごめんなさい! 勝手に触って!

 でも、この小さな透明な子たちが、『もっと美味しいものになれるのに!』って泣いてる声が聴こえて……」


「謝るな!! お前は……お前は天才だ!!」


 理人が、ニルスの両肩をガシッと掴んで激しく揺さぶった。


「いいか!? 菌の繁殖と発酵を完全な状態でコントロールできる能力……それは即ち、食の革命だ!!

 お前がいれば、この豆から『味噌』や『醤油』といった極上の調味料を創り出すことができるんだぞ!!」


「みそ……? しょうゆ……?」


 キョトンとするニルスの横で、萌音が彼に向かって「発酵師」のクラスチェンジを宣言した。


 ――ピロォォォンッ!


 光が引いた後のニルスは、何かに取り憑かれたような真剣な眼差しで豆の山を見つめていた。


「……わかる。わかります、理人先生! 

 この子たちの望む環境を整えれば、今まで味わったこともないような『芳醇な香り』が生まれる……! 僕、やってみます!」


「おおおおおおおっ!!」


 蒼汰、乃亜、楓菜の三人が、天を仰いで歓喜の雄叫びを上げた。


「味噌汁! 醤油をかけた焼き肉!! 

 俺たち、異世界で最強の和食が食えるようになるのか!!」


「私、乃亜ちゃんが持ってきてくれた種籾でお米がいっぱいできたら、絶対にニルスさんに『日本酒』も造ってもらう!」


「お酒は二十歳になってからだよ楓菜ちゃん! 

 でも、醤油のおにぎりなら、毎日焼いて食べたい……っ!」


 ただの変人だと思われていた気弱な青年が、突如として村の食卓の未来を激変させる『超重要人物(SSR)』へと昇格した瞬間だった。


「……私、ずっと王宮で『役立たずの穀潰し』って言われてた」


 大騒ぎする仲間たちと、自分の才能を知って涙を流して喜ぶ村人たちを見つめながら、萌音は胸に手を当てて、静かに微笑んだ。


「でも、ここなら……私にも、できることがある。

 みんなの『本当の価値』を見つけてあげる、最高のマネージャーになれるんだ」


「おう! 頼りにしてるぜ、北条マネージャー!」


 蒼汰が親指を立ててウインクする。


「さてと。村人たちの役割も決まったし、種籾もある。

 ……あとは、刀真。お前が『鉄』を打てるようになれば、俺たちの反撃準備は完了だ」


「ああ、任せとけ」


 刀真が、村の広場を見据えて力強く拳を握りしめた。


「まずは、俺の工房を作る。ただの細工師じゃない……この村の命を支える、最高に頑丈な『魔骨鋼』の武器と農具を、俺の命を削ってでも打ち上げてやるよ!」


 絶望の逃避行の末に合流した二人のクラスメイト。


 彼らの覚醒により、名もなき廃村はついに、復興への本格的な第一歩を踏み出したのだった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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