テスカトリポカ
〜信龍の処遇決定から3日後(前回の話から5日後)のとある場所〜
「これが自由!なにする?」
「とりあえず飯でも食おうぜ」
「イヤッホー!」
俺達は付き人を解任されてから、久しぶりの自由を満喫した。
そんなこんなで夕方になった。
「なんだ?」
「あ?マジか?」
神楽からの一通のメッセージを確認し、サイトにアクセスする。
格闘技団体“テスカトリポカ”のサイトだ。
「抽選やばくない?」
「なんでさ?え?なんでなんで?」
俺達は動揺を隠せなかった。
神楽の事だ、またなにか手を回したのだろう。
「明後日だってさ」
「随分とまた急だねぇ」
でもあそこは毎日殺し合いをしてるから、別に不思議では無い。
でもここまで抽選が殺到するということは、なにか一大イベントのひとつでも起こすということなのだろう。
現に俺達に招待状が来た。
「とりあえず、観戦しますか」
〜2日後の地下格闘技場・テスカトリポカの控え室〜
今日は死ぬかもしれない。私の対戦相手は、ボクシングの元ヘビー級の世界チャンピオンのトーマス・ミラー。
そして、優の対戦相手はプロレスの同じくヘビー級の強者、ケニー・スミス。
殺しに来てんだろ、最悪。
〜テスカトリポカ・会場のVIP席〜
「うへっ、久しぶりに来たけどよ。熱気がやばいな」
「飛び入りの新ファイターが云々」
「で、信常さん。なんでアンタがここにいるんです?」
「なに?居たら悪いの?」
「いや、別に」
〜テスカトリポカ・リング〜
『今宵、この試合を見れるお前達は超〜ラッキーだぜぇ!!』
『ボクシング!元ヘビー級世界チャンプに挑戦状を叩きつけたクレイジーなファイターが居るからだァ!!』
『今宵、新入りのファイターをその拳で粉砕するかぁ!?』
『赤コーナー!ロックブレイカー!トーマス・ミラー!!』
『そして、青コーナー!初出場の新ファイター!』
『村雨ぇ〜!中村〜!遥ァ!!』
『あぁっと!オッズは圧倒的にトーマス有利だ!』
『しかし、リングの上で何が起こるかは分からない!』
「………」
何故か落ち着いてる自分がいる、これから処刑されるも同然だと言うのに、なんかどうでもいい。
リングの中に入ると、金網が降りてくる。
檻の中に猛獣を2匹、か。
『さぁ!運命のゴングだぁ!!』
ゴングが鳴り響く、と同時に試合が終わった。
『ああっと!?何が起きたんだ!?トーマスが痙攣!レフェリー試合を止めたァ!!』
観客がどよめいてる、カラクリは単純、相手の延髄に渾身の回し蹴りを浴びせた。それだけだ。
『しょ、勝者は!中村遥だぁ!』
〜テスカトリポカ・控え室〜
「鮮烈だったな」
「ギャンブルよ、下手すれば私が殺されてたわ」
「そうか」
「死なないでね」
「分かってる」
今度は優の番。勝つと、私は信じてる。
〜テスカトリポカ・リング〜
───殺す。
『鮮烈な試合の次は、またしても飛び入りのファイターの登場だ〜!』
『その前にコイツを紹介するぜぇ〜!』
『赤コーナー!プロレス界の破壊神!ケニー・スミス〜!!』
『そして青コーナー!夕立〜!佐久間優〜!』
『さあ!オッズが締めくくられた!やはりケニーが優勢だ!』
『はたして再び大番狂わせが起こるのかぁ!』
『今!運命のゴングだぁ!!』
ゴングが鳴ると同時に、延髄に手刀を叩き込んだ。
後はお察しの通りだ。
『再び大番狂わせが起きたぁ!!信じられない!』
『しかしこれは現実だぁ!』
『勝者は!佐久間優だぁー!』
〜テスカトリポカ・控え室〜
「ただいま」
「おかえり」
「お互い悪運尽きないわね」
「………ん?足音?」
扉が開いた、神楽だ。
「お見事です。えぇ、実に」
たおやかな表に騙されてはいけない、同胞。星の嬰児の失敗作でなければ、私達は一生関わらなかっただろう。
「2人とも合格です」
私と遥、共に合格か。
「貴女達の口座にファイトマネーを振り込んでおきました」
「確認する。遥」
「ええ」
スマートフォンで口座を確認したら10億円が振り込まれていた。
「」
「」
頭が真っ白になった。普通なら一度にこんな額振り込めないぞ。
「流石は神楽、と言うべきかな?」
「そう思ってくださって構いません」
「次がメインイベントです」
「観客席のVIPへ案内します。」
黒服同行の元、観客席に案内された。
〜テスカトリポカ会場・VIP席〜
「導師殿!」
「「あ」」
「お前達、さっきの………」
2人の男が声を揃える、片方は白髪のオールバックロン毛。もう片方は暗い緑色のおでこまで伸ばしたぱっつんの男。
そして猫背で目のクマが凄い黒ずくめの女。目も濁ってる。
「村雨よ」
「夕立だ」
男2人は感心したように見つめる。
「陸奥守だ」
「安房守」
「信常、織田信常」
「神楽から聞いたよ。信雄の末裔?だっけ」
「うん」
「導師は何故ここに?」
「オーナーがVIP席に居て、おかしなことでも?」
「いえ全く」
「そろそろメインイベントが始まりますよ」
そうだ。その“メインイベント”とは何なのか。
「メインイベント?それに、この形式は………まさか?」
緑が驚いたように神楽に問いかける。
「え?マジか?マジなのかー!?」
「マジです」
白髪が絶句している。そんなにやばいイベントなのか?
〜テスカトリポカ・控え室〜
「………やはり貴方でしたか。師よ」
「あの時と変わんないな、師匠」
道着を着た老人はただ一言。
「そろそろか」
「「!」」
齢を重ねても一寸の衰えを見せない。果たして師はアレを制覇出来るのか。
出来る。私と京花はそう断言する。
さあ、間もなくメインイベントの開幕だ。