奇襲Ⅳ
進んだ先には、まるで口裂け女のように横に大きく開いた洞窟の入り口が待っていた。どうやら鬼も闇の中では目が見えないのか、松明や篝火の用意がされている。
「ひい、ふう、み……外にいるだけで四体か」
「いや、奥にもう二体いますね。ここからだと足しか見えませんが」
入り口で六体。見張りとしては多くもなく、少なくもなくといったところだが、この人数からすると有り難くない数だ。いきなり、暗殺して静かに潜入という手が取りにくくなってしまう。
「俺の魔弓で全方位攻撃したいところだが、そんなことをやればもっと奥の敵に気付かれるだろう。出来るだけ早く射っても、手前の三匹をいけるかどうか……。二匹なら確実にいける」
「もう少し先に進んでも奥までには届かない。俺でも手前の奴に近づいてやれるか……」
正司は一応と持っていた吹き矢の筒を手でなぞるが、自信無さげだ。どうあっても、手前の四体を倒すのが限界と思える。
「いや、アリスなら奥の二体を一瞬で叩きのめせるんじゃない?」
「まぁ、音が出ないように少し加減しなきゃいけないけど……出来ると思うよ」
本人は大したことではないと思っているが、周りの者からすると、それは頭痛がしてくる返事だ。
「そうだった。こいつ力が強い上に早いんだった」
「た、確かに大鬼を吹き飛ばした時も、どこからともなく現れたように思えたが……。まさか、本当に目にも止まらぬ速さで走って来ていたのか?」
武士たちも流石に頬を引き攣らせる。自分の腰より少し高い程度の幼女が、とんでもない身体能力をもっていることに、改めて恐怖と頼もしさを感じているようだ。
当の本人は、その視線を気にすることなく拳をパキポキと鳴らして、前を見据える。
「じゃあ外にいる四体の奥二体をおじさんが、手前を他の人たちが、念のために中は私が飛び込んでいくってことでいい?」
「……もう一回言っておくが、俺はまだ三十にもなってないからな」
「「え゛……!?」」
「……何か?」
「「いや、なんでもない」」
武士の二人が、ぎょっとした顔で隆三を見る。彼らも隆三の恰好と貫禄から大分年上に見ていたようだ。しかし、魔法石の照り返しで僅かに見えた隆三の不機嫌な顔を見て、すぐに何も言わなかった体をとる。
「で、合図は?」
「私が出した方がいいでしょ。何せ、一番奥に飛び込むのが出遅れたら失敗は確実だもん」
「で、お前の動きに俺たちが合わせろって?」
ただでさえ早いのに、この暗闇の中では視認するのが遅れるだろう。せめてハンドサインか何かを出してくれれば辛うじて理解できるかもしれないが。
『じゃあ、ここは私の出番ですね』
勇輝のポケットからチビ桜が顔を出す。
「うわっ? 小人!? お姉ちゃんって、そういう種族だったの?」
『違うよ。これは魔法で作った分身みたいなもの』
勇輝がチビ桜を手に持ってアリスの前に持って行くと、左右へと顔の位置を変えて様々な方向からチビ桜を見つめる。
「はへー、こっちの国の魔法って変わってるね。それでお姉ちゃんがどう役立つの?」
『それはね。こうするの』
軽くポンッと音がするとチビ桜が巻いて抱えていた紙が白い煙を出す。するとその中から、もう一人のチビ桜が飛び出して来た。
『『うーん。まだこの感覚は慣れないなぁ』』
二人のチビ桜が同時に全く同じ言葉を話す。それを見た瞬間、隆三は感心した声を挙げる。
「なるほどな。片方を小娘が、もう片方を正司たちが持っていればズレずに突入できるってことか。弓の俺は最悪、少し遅れた程度なら間に合うからな」
そう言うと隆三は作戦決定と言わんばかりに、魔弓に番える矢を筒からとる。他のみんなも意見は同じようで、武士たちや正司も刀を抜いて武器に不備はないかを確かめた。
「確実に喉を潰せ、そうすれば生きていても仲間を呼ばれることはないからな。それじゃあ、また後で会おう」
その言葉を皮切りに隆三、アリス、そして勇輝を含む正司たち五人はそれぞれ最適な位置へと移動を開始した。
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