潜伏Ⅷ
そんな隆三のことなどお構いなしに、ギルド職員が言葉を紡ぐ。
「そういえば、後から仲間が遅れてくるから伝えてほしいことがあるとも言っていました。紺色っぽい外套を羽織った刀使い……あぁ、もしかして、あなたですか?」
「え、俺?」
勇輝は急に指名されてドキリとする。
「えぇ、確かこのようなことを言っていました。『私の色を追え』と」
「……なるほどねぇ」
アリスは自分の魔眼のことを知っている。つまり、勇輝にだけわかるような道しるべを用意しておくから追ってこいと言っているのだろう。村の戦力はここの地域を治めている大名が出すのが通常だが、村人の救出には間に合わないだろう。現状、鬼以外の魔物からの攻撃にも弱い状態で村は守備の戦力を割くわけにはいかない。
そう考えると、この時点でほぼ確実に勇輝たちは赤鬼退治に向かうことが決定したようなものだ。
「……とりあえず、救難信号の一つくらいは上げてくれ。ギルドなんだから、いくら混乱しているとはいえ、それくらいはやっておいてくれないと困る。俺たちだけで行くのは――――」
隆三はそう言いながら周りを見た。
敵の戦力を小鬼百体、大鬼一体と仮定してみると僅か三名で突破するのは些か不安ではある。己と正司の実力は大体把握しているが勇輝の力は未知数であると、正直に告げる。
先日の戦闘を見ていれば、それなり以上に戦えることはわかっているが、把握できない戦力は時に状況をひっくり返してしまうことも往々にしてある。
勇輝の戦い方は出会ってから劇的に変化していることを考えても、連れて行く危険性と戦力としての信頼性はどちらに傾くか微妙なところだ、と言うのが彼の意見である。
「兄ちゃん。あっちの国ではデカい敵と戦ったことは?」
「赤鬼にも大鬼にも出会ったことないけど、オークなら二匹同時に戦ったことが……」
あまりいい思い出のない戦いだ。風上にいたせいで位置がばれ、そこから森の中を全力疾走で逃げ、女の子を逃がすために一人で囮になった。倒れた相手の足が偶然当たっただけで悶絶しそうな痛みが走るくらいだ。本気の拳や蹴りなどひとたまりもないだろう。
「……オークか。まぁ、戦うだけならあいつらはノロイから何とかなるだろう。戦ったのがオーガだったら喜んで連れて行くんだが、俺と正司だけだとそれはそれでキツいからな」
「ユーキさん。一応、一人で戦って二体のオークを倒したんでしょ? 多分、正司さん勘違いしてるよ?」
「は? 一人で倒しきったのか? そりゃ、話が変わってくるぞ」
正司が感嘆の声を挙げる。攻撃を避けるという点ならばオークは楽な部類だが、接近して仕留めるという点では非常に面倒だ。運が悪ければ一撃必殺。身体強化をそれなりにしている者でも昏倒しかねない。
「うむ。いずれにせよ、あの子娘を助けに向かわねば恥をかくのは俺だ。正司には付き合ってもらうとして、兄ちゃんを巻き込むわけには……」
「あれ? 私と巴さんは?」
「おいおいおい、相手は赤鬼だぞ? 女を連れて行ってみろ。真っ先に餌食になるに決まってるだろう。二人はここで留守番だ。それとも何だ。赤鬼の子でも孕む危険を冒してまで行くって言うのか?」
正司の脅しに桜の顔が蒼褪める。彼女の中には今までたくさんの魔物を倒してきた勇輝も一緒にいるからという漠然とした安心感があったのだろう。しかし、目の前ではっきりと告げられた可能性は、桜の意思に罅を入れるには十分な威力だった。
「正司、そこまでにしておいて。私ならともかく、彼女はそういう暗い話には慣れていないのはわかっているはず」
「だからだよ。安易な人助けは自分の命を危険に晒す。ギルドでも言われただろう。『冒険の最中に冒険をするなかれ』だ。逆に言えば、それをするには相当な意志や理由がないと大変な目に合うってことだ」
二人が言い合う中、隆三はそれを止めずに勇輝へと問いかけた。
「勇輝。お前はどうする? この子を守るために村にいてもいい。あの子を助けるために俺たちと来てもいい。決めるのはお前だ」
今まで兄ちゃんと気軽に呼んでいた隆三が真剣な瞳で勇輝を見つめる。それを前に勇輝は口ごもった後、一瞬だけ桜を見た。
「俺は――――」
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