潜伏Ⅲ
そんな時、ふと桜が呟いた。
「でも追い払ってしまったのなら、その人たちは当分戻ってきたり、集まったりできないんじゃないのかな?」
「どうだろうな。ああいう悪いことを考える奴らほど、諦めが悪いと思うよ。一度吸った甘い蜜の味を忘れられないからね」
何せ利益のために人間に害を為す魔物を売り捌くに飽き足らず、魔物になってしまった元人間を探し出してまで捕まえる。果ては国に被害を与えかねない化け物級の魔物を封印から解き放とうと考える奴らだ。到底、簡単に諦めるとは思えない。
特にその件には、ヤバそうな組織まで絡んでいるかもしれないのだから、警戒するに越したことはないだろう。
「あぁ、よくわかってるじゃないか。そういうことをする奴らは、下っ端を捕まえても損害はないし、頭を捕まえれば首が挿げ替わるだけ。全員を捕まえない限り、いたちごっこするしかないんだ」
正司は苦虫を噛みつぶしたような面持ちでため息をつく。今まで国を守る任務を遂行する中で、似たようなことがあったのだろう。巴も同じ考えだったようで無言で頷いた。
対してアリスは楽観的なのか、相変わらず笑顔を浮かべたまま足を伸ばしている。
「でも、あの子たちは臭いも覚えちゃったと思うし、次に近付いてきて縄張りに入ろうものなら迎撃すると思うよ」
「敵さんも馬鹿じゃないさ。一度は後れを取ったが、二度目は対策してくるだろう。元々、封印塚に手を出そうとするような奴らだ。ただの狼の群れに何度も負けるほど馬鹿じゃない。尤も、そいつらが恐れていたのは狼より、お前さんだと思うけどな」
正司の言葉に意外そうな顔を浮かべるアリスだったが、アリスの剛力はかなりのものだ。軽く手を突き出すだけで小鬼が数体吹き飛ぶとなれば、本気でやれば大木の一本や二本折れても不思議ではない。そんな相手に夜の暗い視界の中で遭遇した敵からすれば、狼を従えた鬼が既に復活していたと勘違いした可能性もある。
「むしろ、その方が都合がいいか。作戦を練り直すのに時間がかかるか。或いは諦めてくれるかもしれないからな」
隆三も腕を組んだままやるせない感じを背中からにじませる。
こちらから積極的に動くには情報も人手も少なすぎる。それはこの国の事情に疎い勇輝でも簡単に察することができた。
「こ、ここの封印塚は国が厳重に守ってるんですよね? だったら、任せておいても問題はないはずでしょう?」
「そうだな。実際、ここに封印塚があることは誰だって知ってるからな。それにここより危険な塚は他にもある。そちらが狙われないかの方が俺は心配だ」
隆三が不意に北の方へと目を向けた。そちらの方角に何があるかはわからないが、もしかすると、他の封印塚があるのかもしれない。そう勇輝は感じ取った。
「……この国、外より内の方が危険じゃない?」
「否定できないところがきついな。まぁ、そこの兄ちゃんが一匹倒してくれただけでも万々歳ってところだな」
「へぇ、そうなんだ」
アリスの目線が勇輝へと向く。その顔に驚きの色はない。むしろ、当然だろうというような気配すらある。
「(何だよ。あの土蜘蛛を倒せるのが当然なくらいヤバい魔眼ってことか?)」
魔眼の正体を知っているらしいアリスの言動一つ一つに何か意味があるのかと勘繰ってしまう。そんなことを考えていると、桜から不安そうに声を掛けられる。
「勇輝さん。何か心配なことでもあるの?」
「え? 俺、変な顔してた?」
「うん。何か怖い顔してたよ。こーんな感じで」
「ぷっ!?」
そう言って両手の人差し指で眉根を寄せて皺を作る。どうやら、自分が思っている以上に深刻そうな顔をしていたようだ。しかし、桜の作った顔がどこか面白く感じて思わず吹き出してしまう。
「な、何で笑うの!? 心配してたのに」
「ごめんごめん。そんな顔してたんだって冷静に考えたら笑えてきちゃってさ」
軽く謝る勇輝だが、桜はほっぺたを膨らませていかにも怒ってますという雰囲気を作っていた。それを見ていた他のメンバーから小さな笑いが起こる。どこか重い空気だった馬車の中が、少しばかり楽になったように思われた。その時、御者台の方から声が上がった。
「あ、あの! 前の方! 何か煙が上がってませんか?」
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