魔王の力Ⅳ
教えてはならない、知ってはならない。そう言った類のものは何か。
勇輝は思考を巡らせるが、パッと思いつくようなものは何もない。ただ一つ言えることは、「知ってしまったことは忘れることができない」ということだ。
「埒が明かない。こうなったら、奥の手だな……」
勇輝は心刀へと心の中で呼び掛ける。出番が来た、と。
「すいません、リブラ枢機卿。先に一つ謝っておかなければいけないことがあります」
「何でしょう? あなたは今まで、たくさんの手助けをしてくださいました。そんなあなたが謝罪しなければならないことがあるとは……」
「先程見せていただいた読めない本ですが、少しだけ傷をつけてしまったんです」
他の枢機卿たちは、こんな時に下らないことを、という視線を勇輝に向ける。それはリブラ枢機卿も同じだったらしく、戸惑いの表情を浮かべていた。
しばしの間があった後、リブラ枢機卿は勇輝に先を促した。
「俺の刀なんですけど、マックスさんが持っている聖剣と同じように意思があるんです。『切ったものがどんなものか』とかを何となく理解できるらしいんですよ」
「……まさか!?」
「はい。そのまさか、です。あの本に本来書かれていた内容。全部ではないですけど、こいつは少しわかってるらしいんですよ」
勇輝の発言に周囲が騒めく。それは聖剣も同じで、大きな舌打ちをして声を張り上げた。
『その雰囲気、やっぱり意志をもつ魔剣の類か! そうなんじゃないかと思ってたんだ。このガキ、俺様とこいつが離れている隙にとんでもねえことしてくれたな!? いったい、何を知りやがった! 言え! いや、やっぱ言うな! 内容がヤバければ話したら良いか悪いかくらいは判別できるだろ!』
あまりにも騒ぐ者だから、聖剣が鞘から浮いてカタカタと音を立てる。それをマックスが無理矢理柄を抑えて、押し込んだ。
唖然とする枢機卿たちを前に、マックスが語気を強める。
「あなたたちが知っていて、俺が知ってはならない。その理由を話して納得させてくれれば、問題はありません。俺が他の人に話ように思えるからですか? それとも、聞いた話の恐ろしさに耐えられないと思っているんですか?」
意地の悪い質問だ。肯定すれば、他国の皇太子をばかにしたことになりかねない。否定すれば、言わずもがなだ。
枢機卿たちの表情が次第に凍り付いていく。それはリブラ枢機卿も例外ではなかった。想定外の脅しにも近い反撃に狼狽えているのが、手に取るようにわかる。
「……ですが、何かしらの理由があって言えないということもあり得ます。だから、彼の剣に本の内容ではなく、言えない理由があるかどうか聞いてみたいのです。それなら、良いでしょうか?」
「はい。きっと、我々と同じ意見に辿り着いているはずです」
勇輝は自身に集中する視線に緊張をせずにはいられなかった。何せ、心刀はここに至るまで理解した内容を話そうとはしなかった。それは枢機卿たちと同じ意志をもっているという疑惑を生むには十分だった。
『そうだな。確かに、これは誰にも言わない方が無難な内容だ』
今度は勇輝たちの表情が凍り付く番だった。まさか、仲間だと思っていた味方に後ろから攻撃された気分だ。しかし、心刀までもが伝えるべきでないと判断したのならば、それに従うべきだろう。
何とも言えない空気の中に、誰の物ともわからぬ安堵のため息が混ざる。だからこそ、次に放たれた心刀の言葉に誰もが驚愕するしかなかった。
『まさか、世界中に散らばっているダンジョンの中に、魔王の体の一部が紛れ込んでるなんて誰が思いつくかって話だ』
――絶句。
この場にいた誰もが、言うべきではないといった心刀自身が、それを破ってまで口にしたことを理解できずにいた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




