魔王の力Ⅲ
アルトの護衛であるソフィアが、近くを離れるなどあり得ない。当然、批難の矛先は彼女に向く。
「黒騎士隊長としての任を放棄したと言われれば、否定する言葉を私は持ちません。ただし、私たち側――これは聖女であるアストルム様も含みますが――枢機卿側に不信感を抱いているが故の行動であるとご理解いただきたい」
「……聞きましょう。私たちはあなたたちの、ひいては世界の存続のために全力を尽くし、互いに協力して来たと思っています」
リブラ枢機卿は声を荒げるでもなく、冷静にソフィアの言葉に耳を傾けていた。
「きっかけは勇輝殿の言葉からでした。我々、黒騎士隊を始め、一定以上の戦闘力を有した騎士や神官は、かつて魔王と共に襲って来た魔物たちについて講義を受けています。当然、ファンメル王国で出現したバジリスクについても同様です。しかし、魔王に関する情報が一切ない中でバジリスクを『魔王の右腕』と称することができたのか。まだ、我々、現場の人間には伝えられていない情報があるのではないか、と考えたわけです」
ソフィアもまた、淡々とリブラ枢機卿に対して、今回の行動の経緯を説明する。
勇輝としては、話を切り出した元凶でもあるので、自らその説明を行うべきだと思っていたのだが、事前にこの事態を予測していたソフィアによって止められていた。あくまで、アルトたちは提案を受けただけで、それを実行に移したのは自分たちの意思である、と。
「加えて、勇輝殿たちからも疑問を抱かざるを得ない話を聞きました。神殿内に記録として残されている歴史書ですが、明らかに魔王に関する記述が抜け落ちています。歴史書の編纂は、各月を枢機卿が一人ずつ担当することになっているはず。最悪の場合――」
「過去の枢機卿たちですら、勇者と聖女を裏切っていた。あなたたちはそう考えたわけですね。なるほど、私がそちらの立場ならば同じことを考えていたかもしれません」
ソフィア個人ではなく、勇輝やマックスたちにも視線が向けられる。そこに怒りの感情はなく、どちらかといえば哀しみが目の奥に宿っているような気がした。
「……確かに、枢機卿側がもっている情報として、『魔王』に関して開示していないものがあるか、と問われれば、『ある』と言うしかありません。尤も、それを話すことはできませんが」
「そこなんだよな。聖剣もあんたらも、明らかに何かを知ってるのに、頑なに話そうとしねぇ。それで信用してくれっていうのは都合が良すぎないか? こっちは前線で命を張らなきゃいけないんだぜ?」
ウッドの抗議の声に、リブラ枢機卿は口を真一文字に結んで、わずかに目を伏せた。勇輝たちを納得できる言葉を探しているようだが、聡明なリブラ枢機卿がここまで言葉を紡がずに考え込む姿は、短期間の付き合いしかない勇輝でも異常だと思えるほどに長かった。
「……エトナ様。あなた様は、魔王に関する情報を伝えた方が良いと思いますか?」
『俺様は反対だね。ここにいる奴らが平気でも、何かの拍子に他の奴にバレた時のリスクがデカすぎる。こいつも悪い奴じゃないんだがな』
リブラ枢機卿の問いに間髪入れずに聖剣は答えた。当然、勇輝たちからすると、やはり何かを隠していたか、と納得してしまう。
問題は何を隠しているか、だ。試練のダンジョンでも巨人に言われたが、知らない方が良いこともあるという言葉から想像するに、よほど魔王が強大な敵なのだろうということは察することができる。
その中で、桜が小さく手を上げて疑問を口にした。
「もしかして、他の一般の方が知るとパニックになって収拾がつかなくなることを心配している、とかですか?」
「それもありますが、話はそこまで単純ではないのです。だからこそ、言葉を慎重に選ぶ必要があります。歴代の枢機卿たちも同じように悩み、そして、未だにその言葉が見つかっていません」
国のトップ十二人。それらが代替わりをしながらも何百年と見出せない答え。その意味がどれほど重いのか。想像以上の難しさ――言い換えるならば闇の深さ――を感じてしまう。
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