深まる疑念Ⅴ
翌朝、体調が回復した勇輝が神殿から出た瞬間に見たのは、雲一つない青空。ずっと見ていると吸い込まれてしまうのではないかと錯覚を起こしそうになる。
桜と手を繋ぎ街へと繰り出すが、不思議と寒さを感じないのは、着ている服の効果だけではないだろう。
「前は石像や噴水巡りだったから、何を見て回る?」
「そうだなぁ。昨日、ベッドに寝てた時に考えたんだけど、こっちの国の魔法の本とか桜は読んでみたくないか? だから、俺としては適当にまだ見てない石像とかを探しながら、本屋さんがあったら立ち寄ってみようと思ったんだけど」
元々、桜はファンメル王国にまで留学するような努力家だ。当然、魔法への興味というのは勇気と同じか、それ以上にあるのは間違いない。
「それ、素敵。聖教国だから、ファンメル王国よりも光属性魔法のことが詳しく書かれてるかも……!」
幸いにも、勇輝の提案は桜に刺さったらしい。内心、デートまで魔法のことを考えるのはどうかと思ったのだが、気に入って貰えて、勇輝は胸を撫でおろす。
繋いだ手が緊張で汗ばんでいないかと不安になっていた勇輝も、やっと笑みを浮かべることができた。
「じゃあ、この前、曲がった道を逆に行ってみる? 困ったら現地の人に聞いてみるってことで」
「あぁ、そうだな。帰るときは迷わなくて済むから、行けるところまで行ってみよう」
以前はどんな店があるかすら観察せずに進んでいたので、二人の足取りは自然とゆっくりになる。
その中で気になったことは、飲食店や武器・防具屋などに混じって、結構な頻度で石像を作っている建物が見受けられることだ。
よく見てみると芸術家が多いというわけではなく、何かしらの仕事をしながら、合間やプライベートで石像を作っているように見えた。
「何か、店の奥とかに石像っぽいのがあるところが多いな」
「あれじゃないかな? 定期的に石像のコンテストがあって、優秀な物は広場とかに飾られるって」
「あぁ、そういえば、そんなことをアルトたちが言ってたな。一部の人だけかと思っていたけど、結構、たくさんの人が参加してるみたいだ。すごい情熱だな」
勇者と思われる像もあれば、聖女と思われる像もある。中には、そのどちらも作られていたり、三人目――恐らく黒騎士隊の隊長――もいる大作まで存在していた。
「星神様の信仰だけじゃなく、勇者信仰や聖女信仰もあるみたいだな。いずれ、アルトやマックスさんの像も作られるのかな?」
「もしかしたら、レナさんたちパーティーも入れた超大作とか見てみたいかも」
絵を描くならまだしも、石像を作るというハードルを余裕で越えて来る人々の潜在能力とやるきに脱帽だ。そういった創作系の技能に乏しい勇輝は、敬意すら抱いてしまう。
いつのまにか店の観察から石像の観察に移り変わっていく。それから何件か回ったところで、魔道具店の店主に声を掛けられた。
「あぁ、あんたら、儂の作った勇者の像に興味があるんか?」
「あ、はい。実はこの街に来るのは初めてで、広場だけじゃなくてお店の中にも像があるものですから、気になってしまって」
桜が申し訳なさそうに答えると、しゃがれた声で店主は笑う。
「そうか、そうか。確かに、他の国の人から見れば珍しいかもしれんな。これは十年位前に儂が作った奴なのだが、惜しくも入賞を逃してしまってな。それでも心血を注いで作った作品だから、壊すのも倉庫で埃を被らせておくのも忍びなくて、こうして、儂と一緒に店番をしてもらっとるのよ」
店主は勇者の足を手で叩く。まるで自分の子供が勇者になったかのように、誇らし気にその顔を見上げた。
剣を地面に突き刺し、柄頭に両手を置いた美青年の像だ。
こう言っては何だが、ある意味で王道なポーズと造形である。多くの人が称賛する一方で、もしかすると見飽きた感が出て来るかもしれない。
勇輝は目の前の像を見るのは初めてだが、あまりにも王道過ぎて、どこかの広場で見かけたような気がしたくらいだ。
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