うっかりな聖剣エトナさんⅨ
体の芯から何かが抜けていく感覚。そう長くはもたないということが考えずとも理解できた。
トレントの攻撃範囲から逃れるには、時間ギリギリと言ったところか。常に体感時間が変化している今、勇輝にははっきりと判断できない。
このまま逃げるか。それとも倒してしまうか。二つの選択肢を前に、勇輝は助け出したばかりの神殿騎士に視線を落とす。彼を抱えて離脱は不可能。それならば短期決戦に賭けるしかない。
(この人たちに声を掛ける時間もない。一か八か――!)
トレントの攻撃は勇輝たちを狙ってきている。先程は神殿騎士たちを狙っていた枝がガンドを邪魔していたが、それさえ掻い潜れば問題ない。
限られた時間の中で確実にトレントを殺しきる方法。それを勇輝は迷わず実行に移す。
「おらっ!」
迫る枝の猛攻を心刀で切り落とす。回転しながら放たれる枝が襲って来るのは一方向のみ。それらを十数回防げば、次の攻撃までにわずかな空白が生まれる。
残弾数二発のガンド。ここで放てばトレントに命中させることはできる。しかし、万が一失敗すれば、全員が命を落としかねない。
それ故に勇輝は体を翻すと同時に地を蹴った。最大限に強化した身体能力が残っている内にトレントへと肉薄する。
「くっ……体が、重い……!」
本来ならば一瞬で辿り着くことができる距離が、あまりにも遠く感じる。
トレントは自らに近付いて来る勇輝を危険因子と判断したのか、神殿騎士たちを放って、勇輝へと攻撃を集中させた。
もう心刀を振るう暇はない。そんなことをすれば体勢が崩れ、瞬く間に速度が落ちてしまう。身を屈め、最小限の動きで枝を掻い潜りながら、勇輝はガンドを一発放った。
幹へと着弾し、爆発が起こる。
その瞬間にトレントの動きは硬直し、勇輝は無理に屈んだ状態になったせいで前のめりに転倒する。
どちらが先に行動を再開するか。それが勝敗を決するのは間違いない。
勇輝は顔面から地面に突っ込む寸前に、無理矢理右手と頭を抱え込むようにして前転する。真上をガンドとトレントの防御反応の爆風が通り過ぎて行った。
「――吹き飛べっ!」
膝立ちの状態で視界の中にトレントを納めた勇輝は、心刀を握ったまま最後のガンドを放つ。
魔力が切れかかり、極彩色の視界が薄れゆく中、青い閃光がトレントのわずかに抉れた部分に突き刺さった。
ガンドは幹の反対側まで貫通し、木片が空中を舞う。乾いた音が空に向けて駆け上がっていく。
「間に、合った――!?」
安堵の息をつくと同時に、勇輝の視界の端に一本の枝が高速で迫って来たのが映った。身を屈めようにも既に膝立ちの状態の為、胸から胴の辺りを薙ぐ一撃は避けようがない。
トレントが死の間際に放った攻撃に反応しきれず、勇輝は身を強張らせる。
『まったく、これだからお前は調子に乗ると酷い目に遭うんだよ』
「ぶっ!?」
心刀の声が響くと同時に、浮遊感が勇輝を襲った。一拍遅れて、地面に顔面から落下する。何とか腕で衝撃を緩和させるが、それでもかなりの衝撃が顔面を襲った。
幸運にも下が比較的柔らかい土だったおかげか、大きな怪我はしなくて済んだ。
体が地面に落ち、仰向けになったところで、自分が心刀の転移で助けられたのだと理解する。
視線だけトレントに向けると、既に幹が折れて、勇輝同様に地面へと倒れていた。
「……ありがとよ、助かった」
『礼を言うよりも先にポーションでも飲んでおけ。この後、魔力不足の頭痛に襲われたくなかったらな』
「ご忠告どうも」
心刀のことはいけ好かない奴だと思っているが、この時ばかりは何を言っても敵わないと感じて、勇輝は大人しく言うことに従う。
加えて、既にこめかみ辺りに鼓動と共に小さな痛みが生まれ始めていた。
「……これ以上、事件が起きないと良いんだけどな」
『諦めろ。お前は、そういうのに巻き込まれる星の下に生まれたんだ』
「そうかよ。いい迷惑だ――って言いたいところだけど、桜たちに会えたことを考えると、むしろ感謝するべきだな」
神殿騎士たちが、慌てて引き返して来る足音が聞こえる。
しばらくは、このまま寝転がっていても危険はないだろう。
大きく息を吸い込んだ勇輝は目を閉じる。先程までトレントが暴れていたとは思えないほど、気持ちのいい冷たい空気が肺を満たした。
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