深まる疑念Ⅰ
ベッドの上に寝かされた勇輝は、申し訳ない顔を浮かべながらも目を逸らしていた。当然、直視できない対象は桜である。
無理をするなと言われて別れたはずが、帰って来てみれば神殿騎士に背負われていたのだから、向けられた視線の鋭さは今までに見たこともないものだった。
「嬢ちゃん、許してやれ。男って言うのは無茶して成長する生き物だ。それを黙って許してやるのも――」
「すいません。ウッドさんは黙っててもらえます?」
「……おう」
大人しい桜の放つ刺々しい――ともすれば殺気すら感じそうな雰囲気に、ウッドが頬を引き攣らせる。
桜が勇輝へと視線を戻すと、ウッドは「わりぃな」と苦笑いを浮かべる。
「もう、勇輝さんのことだから大丈夫だと思ってたけど、変なところで突っ走るんだから」
「その……すいません」
「次に同じようなことがあったら、魔法で契約してできないようにした方がいい?」
「えっと、具体的にはどんな感じでしょうか?」
思わず敬語になる勇輝に桜は待っていましたとばかりに笑みを浮かべる。
これから、とんでもないことを言われるのだと身構えずにはいられない。横たわった状態で、全身に力が籠る。マシになったとはいえ、まだ筋肉痛が副作用で出てしまっているので、痛みに顔を顰めてしまう。
「私が合図を出したら、全力で私の所に戻って来なければならない――とか?」
「……俺の意思を無視して?」
「うん。そういうこともできるって聞いたことがあるから」
嘘か真か判断がつかず、誰か知らないかとマックスたちに視線を向ける。一瞬、マックスが周囲の仲間を見た後、すぐに頷いた。
「あぁ、あるぞ。特殊な羊皮紙を使って、ユースティティア様の前で契約を行うと契約内容を強制的に行動させることが可能だ。もちろん、できることには限度があるけどな」
「戻れって言われれば、本人ができる能力を駆使して嬢ちゃんの所に駆け付けるくらい可能だろうな。案外、良い手なんじゃないか? 首輪をつけてしっかり手綱を握っておけるし。俺は勘弁だけど、勇輝の場合なら、お似合いだろ」
ウッドの最後に付け加えた言葉に、勇輝は反論したくなる。だが、怒っている桜のいる手前、そんなことを言い出せるはずもなく、口を真一文字に結んだまま耐えるしかなかった。
誰かこの空気をどうにかしてくれ、と勇輝が願っていると、リシアが小さく手を叩いた。
「まぁ、それはそれとして、無事にトレントは討伐できたのは喜ばしいことですよ。アルトさんたちが枢機卿たちに報告に行っていますが、下手をしたら、街の外壁が崩されていてもおかしくない事態でしたし」
地面を抉る威力の攻撃を一秒に最大数十回放てる巨大なトレントが何十体も殺到すれば、強固な素材と結界があったとしても安心できるものではない。
国の首都の――しかも、魔王に一度、襲われたことがある街の防護が貧弱なはずではないのだが、心配になってしまうのが人間というものだ。
「ま、それもそこの聖剣が肝心なことを伝え忘れていたせい。まだ、何か忘れていないか問い質した方がいいと思う」
レナがジロリとマックスの腰に視線を向ける。
当然というべきか、聖剣エトナもまた勇輝と同様に、戻って来た時から一言も思念を送って来ていなかった。
『その、だな。お前らもあるだろ? 覚えていたつもりだけど、忘れてることとかよ。俺様の場合は百年以上寝ていたんだ。寝起きの頭じゃ、考えられるものも考えられないってことよ』
「言い訳は、いい。魔王討伐の要なんだから、もっと責任感をもってほしい。魔王や勇者の話も誤魔化してばかり。正直、信用できない」
『うっ、それはその通りなんだが……』
レナの辛らつな言葉に聖剣もタジタジと言った様子だ。言葉にならない独り言が思念で届く所を見るに、相当困っているらしい。
この時ばかりは桜に詰められていたということもあり、勇輝は聖剣に同情してしまう。
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