夢現Ⅶ
辿り着いた言之葉邸の様子は明らかにおかしかった。
本来ならば門の前に待機しているはずの馬頭の午式が見えない。子式だけでなく、他の式神たちも召喚を維持できなくなったのかと不安に思いながら近づいていくと、独りでに門が開き始めた。
「これは――――!?」
あまりに不可思議な光景に思わず勇輝は目を凝らして、視界を切り替える。普段見慣れた景色とは違い、魔眼によって世界は一変する。屋敷全体を包む白いドーム状の光。黄や緑の光を放つ塀や門。
様々な物質の性質や魔力を色として捉える魔眼だと勇輝は考えているが、その正体は未だわからない。そんな魔眼の視界の中で、見慣れた形の赤い光がぼんやりと映っていた。
「午式……さん?」
「おや、おやおやおや? 隠形をしているはずなのに拙者が見えておられる?」
大きな頭を振って、自身が本当に隠形をしているのか確かめているようだが、肉眼で捉えることはできていなかった。間違いなく隠形をしていたはずだが、勇輝にはしっかりと見えている。
「すいません。何故か、そういう見えないものも見えてしまう眼を持っているので」
「いえ、それよりも来ていただいて助かりました。何しろ、主の体調が思わしくない。拙者たちに供給される気もかなり少なくなっています。こうして姿を消して気の消費を抑えないといけないほどに」
「そこまで悪いんですか?」
「えぇ、どうも先日の戦いが祟ったらしく。昨晩から伏せったままで」
午式は項垂れて、今にも崩れ落ちそうな様子だったが、はっと顔を上げると二人に道を開けるように退いた。
「そ、それよりも、中へ。唯一、姿を現している卯式がおりますので、彼女の案内に従ってお進みくださいっ!」
「ふむ、姿は見えぬが承知した。失礼するぞ」
勇輝が何も見えない空間と会話しているのを、当然のように見守っていた僧正が大股で敷居を跨ぐ。勇輝も午式に礼をした後、その背中を追って中へと踏み入れた。
「……以前見た時よりも、結界の強度自体は上がっておる。確か、広之殿の奥方は巫女だったな。広之殿が伏せっている今、少しでも守ろうという気概の表れか」
辺りを見回すことなく寝殿造りのような屋敷の母屋へと一直線に進んでいく。玉砂利が小気味よい音を立てる以外、ほとんど音がしない。空気も澄んだ聖域の中にいるような感覚になる空間を凛とした声が貫いた。
「お待ちしておりました。僧正様、勇輝様」
「卯式さん。それに桜も」
兎頭で薬などを作っている式神の卯式と、広之の娘にして、つい先日に勇輝と婚約を交わした桜の姿があった。二人共、広之のことで色々と動いていたのだろう。離れていてもわかるほど、表情に疲れが見受けられた。
「広之殿の様子は?」
「簡潔に申し上げると、気力を使い過ぎて体が衰弱しているという状態です。どうやら、夜駆けの儀と姫立ちの儀に続いて、孤面族の対応までしたせいで、極度の疲労が祟ったのかと」
卯式の説明に勇輝も僧正も、それはそうかと納得をした。
三日三晩、一睡もせずに全力で仕事をし続けていたようなものだ。山場を越えたと意識した瞬間、疲れが一気に襲い掛かって来たのだろう。
ただ、勇輝は卯式の説明に少しだけ疑問を感じていた。気や魔力の使い過ぎで体に影響が出ると聞いて思い出すのが、勇輝も初めて全力で魔法を使った際に、意識を失ったことだ。その時には、桜とその友人たちに魔力を供給してもらうことで事なきを得た。
広之はかなり熟練の陰陽師ということなので、勇輝のように魔力を通す架空神経が暴走するなどということはないが、原因がその気の枯渇にあるというのならば、補充してやれば万事解決するはずだ。
「ふむ、では回復薬なり、なんなりで気を補充するというのはできぬのか?」
僧正も似たような考えに至っていたようで、卯式に疑問をぶつける。すると、卯式は首を横に大きく振った。
「広之様の気を収める容量は膨大です。それに、今は眠りから覚めないので経口摂取による解決は難しく、その量の気を譲渡できるような人もおりませんので」
悲し気な表情を浮かべる二人だったが、桜が口を開いた。
「でも、それを解決できる人をお母さんが知ってるんです。その人の所に、すぐに行ける人となると――――」
「なるほど、それで我に白羽の矢が立ったというわけか」
僧正は合点がいったようで、大きく頷いた。
「それで? その広之殿を救える者とは一体誰で、どこにいるのだ?」
「それは――――」
僧正の問いに卯式の視線が一瞬、勇輝へと注がれた。
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