夢現Ⅳ
その後、昼食を終えて、半刻程は休憩の時間という名の瞑想を行う。僧正曰く、「食べてすぐに動いても意識が腹の中に向いてしまって良くない」ということだった。
胡坐をかきながら、右手を左手で抑えて仏様の手と同じ印を結ぶ。外から聞こえる風の音、鳥の声、建物の軋む音。それらを感じ取りながら、心を落ち着かせる。
勇輝の頭の中では、どうすれば僧正の攻撃を避けて、自分の攻撃に転じることができるのか。それを考えることでいっぱいになっていた。心は穏やかでも、頭の回転はむしろ激しくなっていた。
『――――さて、今度は俺の出番だな』
「は?」
急に心刀の声が頭の中に響いて来たので、勇輝は思わず目を開いてしまう。頭の片隅で、体が動かないという感覚がある一方で、勇輝は辺りを見回していた。しかし、先程までいた寺のお堂の風景はどこにもなく、広がっているのはただただ真っ黒な空間。それこそ闇に浮かんでいると表現してもいい。辛うじて地面の感触があるので、何とか上下左右の間隔を保っていられるが、一歩間違えればそれすらも失ってしまいそうになる。
『前にも経験したことがあるだろ? 襲われる夢の中へようこそ』
次々に武器を持った人々に襲われる悪夢。それは心刀が出来上がる前の、呪いが掛けられていた鉄片をお守りの中に入れて持ち歩いていた時のことを思い出す。
『安心しろよ。現実世界の幻だと痛みが少し残ることもあるが、夢の中なら精神が少し擦り切れるだけだ。まぁ、夢の中にいるせいでどんなにやられても気絶できないのが辛いところだが』
さらっと恐ろしいことを告げる心刀に、勇輝は思わず文句を言ってやりたくなって立ち上がる。この時には、僅かに残っていた本来の体の感覚が消え失せていた。
『文句の一つでも言ってやりたいって顔だが、その怒りをぶつけるのにちょうどいい相手がいるぞ』
「――――マジかよ」
勇輝は背後から何か気配を感じて振り返り、その光景にゾッとした。
かつて見たことがある黒い人影の集団。その手には、やはり刀や槍は当然として、農具まで持って勇輝を見ていた。それを認識した瞬間、周囲の闇が一瞬にして見覚えのある光景に切り替わる。
「雛森、村!?」
『適当に用意しただけのフィールドだ。別に森でも野原でもいいが、まずは見慣れた所の方が良いだろ?』
道いっぱいに広がった影の集団から、一人が悠然と進み出る。
輪郭からして成人男性。村人の誰かがモデルになっていると言われても驚かない服装に、刀を携えている。
『子供の頃から言われていただろう? 学校から返ったら復習しなさいってな。ほら、さっさと躱しながら攻撃する練習をするんだよ!』
一際大きな声が勇輝の頭に響いたかと思うと、目の前の人影が刀を抜き放った。
慌てて、勇輝は自分の腰に手を当てて武器の有無を確かめる・刀がしっかりと差してあることを確認し、急いで勇輝も抜刀して構えた。
人影は焦る様子を見せず、ゆっくりと間合いを詰めて来る。
僧正は勇輝にわかりやすいように大きく振りかぶる動作を見せてくれた。だが、この人影はそのようなつもりはさらさらないようである。刀の横手が出会ったと同時にじっとりと粘りつくような圧力を刀越しに感じて、勇輝は思わず退きそうになった。
「(中心を取られる……)」
どんなに攻撃が早く、強かろうと、体の正中線上に敵の刀があれば、即座に殺される。中心を取り返したり、移動したりしなければ攻めることは不可能だ。しかし、そんな猶予を与える間もなく、敵は勇輝の刀を払いのけて、刀を振りかぶって距離を詰めて来た。虚を突かれた勇輝であったが、弾かれた刀を思い切り元に戻すと同時に、そのまま振り降ろされる刀を横から思いきり跳ね除ける。
「――――っ!」
避けるなど行動に移す暇がない。
辛うじて刃から逃げ延びた勇輝は、大きく息を吐きながら中段の構えを取り直した。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




