夢現Ⅲ
基本的な攻撃動作と足運び。それを相手のどの動作に、どのタイミングで行うか。言葉にすれば単純だが、それを行動に移すのは難しい。何せ、普通の人間は相手がどのような攻撃で来るかを先読みすることはできないし、行動に移すまでのラグも考えればタイミングはかなりシビアになる。だが、僧正はその心配はあまりしていないようだった。
「先読みができる能力らしき眼と想像以上の膂力がある。頭も悪くない。で、あれば、あとは数をこなすだけで十分事足りる」
何故、その足運びをするのか。どうして、この動きに合わせるのか。そう言ったことを事細かく伝えながら、僧正は自ら動きを実践して見せる。そして、勇輝に真似をさせて、おかしなところを修正していく。後は、彼自身が言ったように体に覚え込ませるためだけの繰り返しだ。
十一月も下旬に差し掛かっているのに、勇輝の汗は尋常ではないほど滴り落ちて、石畳を濡らしていた。
「なるほど、避けるのは随分と上手い。逆に鎬で相手の武器を逸らすのは苦手か。そこは、お主の流派が敵として見据えているのが、人だけでなく妖もだったが故だろうな」
勇輝の学んだ流派は威待流。その仮想敵は主に二種類。村を襲う山賊などの人間への対人剣術と山や森などに潜む妖といった対魔剣術。
僧正はその妖を鬼のような種類が多かったのだろうと勇輝に話す。鬼などが持つ武器をまともに受ければ、それだけで武器ごと体を持っていかれる。それならば、受け流すなどの小細工よりも避ける選択肢を重視するのはおかしくない。人一人を成長させるのにも時間は限られている。避けることを覚えれば、それは対人戦闘にも流用できる。
実際、僧正が見たことがある技の一つ「大嵐の舞」は、多対一の対人剣術のカウンター技で、必要最小限に避けたところに刀をほとんど降ることなく首や手首を斬るつけるというものだった。
もちろん、それは先読みができる能力があったからこそ成功した部分も大きいが、それを踏まえた上でも受け流しなどの技術より遥かに練度が高い。
その為、途中からは回避することを中心に教え、受け流しはそれが終わってからにすると勇輝は伝えられて、鍛錬していたのだが――――
「む、もう陽がこんな高く……。勇輝、一度、昼餉にしよう。水の魔法とやらで身を清めてから来ると良い」
「は、はい……」
へとへとになりながら、勇輝は刀を納める。結局、回避することだけで午前の鍛錬が終わってしまった。右手の人差し指に嵌った銀の指輪へと魔力を流す。幸い、身体強化も何も使っていなかったので、体力と違って魔力は有り余っていた。
「『水よ。我が身より、我で無きものを洗い流せ』」
頭上に水の球が現れると、ゆっくりと頭の先から足へと包むようにして移動していく。慣れていない人や他人にかける場合、濡れたままだったり、或いは湿ったままだったりするのだが、大分使い慣れてきたこともあって勇輝は乾かす必要がない。水の球を茂みの方へと放って、勇輝は僧正の後を追う。
『精が出るな。ずいぶんと戦いの幅が広がったんじゃないか?』
「僧正さんがいる時には黙っているくせに、こういう時は話しかけてくるんだな」
誰もいないのに勇輝の脳に直接響くような声が届く。
それもそのはず、勇輝に話しかけているのは人間でも妖でも幽霊でもない。腰に差している心刀から聞こえてくる声だからだ。
『あの烏天狗様に教えて貰ってるんだ。その時に俺が口を挟むなんて失礼だろ? 言っていることもあながち間違っていないし』
「間違っていないって……だったら、しっかりと威待流の技を教えてくれれば、もっと早く習得できるのに」
文句を言う勇輝だったが、心刀からはため息にも似た声が返って来た。
『それが出来るなら苦労はしない――――というより真っ当な剣術を習得しているだろうあの人に、こんなチャンバラ剣術、見せるのも失礼だ。鼻で笑ってくれればいい方だからな』
「ど、どういうことだ?」
『さてな。ほら、それよりもさっさと昼飯を食え、運動後は栄養補給が大事だって、お前が一番わかってるだろ』
昼食を食べるよう心刀に勧められたが、何か誤魔化された気がして釈然としない勇輝だった。
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