未来に向けてⅥ
アメリアによる日ノ本国訪問には、マリーとアイリスだけでなく、魔法学園の生徒が数名同行していた。その理由の一つに、聖教国サケルラクリマの聖女護衛任務の成果があった。現国王であるファンメル三世は、それを随分と評価しているようで、参加していた生徒たちを再び護衛任務に命じたのだ。
「国王様は冗談のようなノリで任務を振って来るのに、部下は真面目だから肩身が狭いのなんの……。あたしたち二人だけじゃなかったのが救いだけど」
マリーが後ろへと視線を向けると生徒会長のオーウェンが立っていた。魔法を操る剣を帯び、外套を潮風にたなびかせる整った顔だが、僅かに眉根が寄っていて不機嫌であることを示していた。
「そんな視線を向けないでくれ? 蓮華帝国との講和も終了し、魔法学園がもうすぐ再開される。そんな折に、和の国の魔法を間近で見ることができる機会を与えてもらったんだ。少なくとも、自分はこのことを迷惑だとか思っていない」
「迷惑だ、なんて一言も言ってないですよー。ただ、話せる知り合いが少ないから暇だってだけですー」
「本来、護衛任務に暇なんてないはずだが……まぁ、言わんとしていることはわかる。いくら王族専用艦とはいえ、我々、人類が踏み込むことを許されない海中には、未だ見ぬ多くの魔物たちが跋扈しているんだ。気を紛らわせていないと無意識の内に心が不安で侵食されていくのも無理はない」
口を尖らせて反論するマリーだったが、オーウェンはそれを笑うでも非難するでもなく、ただ淡々と己の考えを述べた。
「……いや、そこまで深いことを考えていったわけじゃないんだけどなぁ」
マリーは戸惑いながらも助けを求めるようにアイリスへと視線を向けるが、その先に彼女は存在していなかった。
アイリス自身も日ノ本国が気になるらしく、アメリアの背後を着いていき、近づいて来る本島の景色に目を輝かせている。
「まぁ、本の虫のアイリスにとったら、こういう経験も大好物だろうな」
「良いことだ。知識と実体験。そのどちらもあって正しい評価や新しい発想が生まれる。彼女が天才少女として、飛び級してきているのも、ああやって何事にも関心を抱いているからだろう」
マリーもオーウェンも妹を見守るような視線をアイリスに向ける。
アメリアがアイリスに話しかけ、ケアリーがそれを止めに入ろうとしているところだった。アメリアが遠目でもわかるほど顔を不機嫌にさせており、ケアリーは慌てて何かを弁明しているようで、少しだけマリーにも笑みを浮かべる余裕ができる。
「しかし、和の国に上陸した後も安全とは言い難い。聞けば、強力な魔物が封印を破って現れたとか。こちらは、できるだけ日ノ本国を刺激しないように少数精鋭で来ているが、それが仇にならないよう興味本位の行動もここからは控えた方が無難だ」
ただでさえ、アメリアの能力は他国を刺激しやすい。そこに使者としての訪問とはいえ、大勢の戦力を引き連れて行けば、侵略を疑われる可能性もある。
――――いや、あちらの皇族は決してそのようなことはしない。そして、我々も日ノ本国には余程のことが無ければ剣を向けることはあり得ない。何せ我が国の恩人だからな。
出発前、国王はその疑念を宰相にぶつけられたと前置きした上で、船に乗る全員に語った。日ノ本国とファンメル王国が敵対することはありえない、と。あるとするならば、それは悪意に満ちた何者かの手によるものなので早まった行動はしないように、とも告げた。
「その時は、その時で何とかするしかないって感じか……めん――――大変ですね、護衛って」
面倒、と言いかけて言い直すマリー。攻める場合は攻撃目標もわかっていていいが、守るとなれば常に臨機応変な対応が求められる。少なくとも、自分の性には合っていないと確信があった。
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