枯れた泉と毒のミニオアシス①
衛星都市カナーべ。
そのオアシスが突然枯れた。ここ最近の水不足と同じ案件かと思われて居た為、対処が遅れたらしい。
ほかのオアシスと違い、毒が撒かれていたと言う。
毒と言っても腹を下す程度の軽い物なのだが、オアシスに居るはずの浄化用スライムが駆逐されて居たらしい。
バワーズと違い、衛星都市のスライムは数が少ない。
なので急遽バワーズから浄化用スライムが数多く運搬された。
魔物使い達数人がスライムに声を掛けると、必要数自分から駱駝のソリ車(荷馬車の車輪がソリになって居て、荷車を牽引するのが馬の代わりに駱駝だった。)に入って行くのだ。
従順で懐っこい。
不思議な事に、バワーズのスライムは大量に確保されようと攻撃されようと、消滅する気配が無い。
大量発生する事もないそうだが、居なくなれば補充される。
まさに椀子そば状態なのだそうだ。
まるでダンジョンのモンスタポップみたいな…まさかね?
「リュウちゃんヤバイね、このスライムちゃん達可愛いかも。」
「分かる、私ティム能力無いのにこんなに懐っこいスライム初めて見たかも。」
神獣と契約して居るリュウにティム能力が無いはずもないのだが、相手が人間体になり過ぎて忘れ去られて居た。
「この世界のダンジョンマスターは転生者って話だから、優しい転生者さんなのかもね。」
「え?そうなの?」
スライムからライラちゃんに視線を移すと、ウンウンと頷いていた。
「うん、私の居る世界アルカディアは日本生まれの神様が担当でね。
その方から聞いたの。
あ、覚えてる?たまに見かけた孤児院のイケメンさん。
上位神の落とし胤とかで、若いけれど実力は凄いのよ。
パニマ様とも仲良いって話よ?」
何処か陰のある、イケメンなお兄さんを思い出す。
「え?あの孤児院のイケメンさん?
雰囲気ある人だったけど、そうなんだね。
じゃあ彼がパニマ様の地球神の仲良しさんなのかしら?」
「多分ね?」
面倒見が良さそうなイケメンさんで、図書館で勉強してるか、良く孤児院の子供達に囲まれて居た姿を登下校時見かけたものだ。
人当たり良く優しく実力もあるイケメン。
多分神様にならなくても、無自覚にモテまくってそうなタイプだと思われる。
何と無くだが、彼の故郷にパニマを連れて来て、私に遭遇したような気がして来てなんて言うかモヤる。
彼の所為じゃ無いんだけど、パニマの神気の巻き込み事故的に私早死にしたんでは…。
「リュウちゃん?どしたの?」
キョトンとしたライラちゃんを見ながらなんでも無いと首をふった。
転生して遭遇してから尽くしてくれるパニマを何処かで受け入れられない原因は、魂に刻まれちゃってるのかもね。
多分、パニマが一線を踏み込んで来ないのも、神様だから私の魂の本心を気づかれて居るんだろう。
いや、考え過ぎかな?
「そう言えば、ミニオアシスの枯渇と毒とか何があったんだろうね?」
話を変えて見る。
ちょっとわざとらしかったかな?
しかし、ライラちゃんはそれを気にせずに会話を続けてくれる。
「そうね〜、枯渇は山の水源が少なかった。で済むけど、毒は分からないわね。
何かの事件かしらね?」
駱駝のソリ車に揺られ、そんな雑談をしながら私達は目的地の衛星都市カナーべへと向かった。
バワーズから駱駝のソリ車で一時間。
少し前まで滞在して居た衛星都市トルネアからだと三時間程とかなり離れて居た。
まぁ、今回は一度バワーズに帰還して居たので一時間コースだった。
砂漠の景色は滝の流れと同じで、コロコロ姿を変えるから見て居て飽きない。
もっとも、昼の暑さと夜の寒さが厳しいので。
私達のような身体の周りを魔法で体温調節出来無いと、普通は多分生活し辛いと思うよ。
いやマジで!
そうして辿り着いた衛星都市カナーべのミニオアシスは、南国オアシス特有の姿は鳴りを潜め。
煤けて焦げついた地表を見せて居た。
元オアシス周りの木々さえ美しい南国オアシス特有の面影を消し去り、無残な消し炭状態だ。
私達は息を飲む。
「えっ?!ナニコレ?」
「これ…枯渇じゃなくて放火事件?」
「放火って、大魔法でも投げ込まないとこうならないわよ?」
2人で顔を見合わせ、ここの対応して居る人を探す事にした。
少し歩くと、オアシスの反対側に何軒か民家が見える。
その中で家の門の所に人集りが有った為、そちらに向かった。
だが、その前に家から出て来た人がこちらに走って来たので立ち止まる。
「オアシスの君!逢いたかった!」
「ゲェ!あの時の変質者!!こっち来んな!」
私の言葉に相手は固まる。
その隙に私はライラを連れて駱駝のソリ車へと戻った。
「へ?何?どういう事?」
状況の分からないライラは、混乱して居る。
仕方ないので、トルネアのノゾキ全裸男の話をする。
だが、ライラは何が有ったのか察した。
「それ多分偶然の混浴だよね?
うわ、あのお兄さん不憫。
リュウちゃんテンパリ過ぎて聞いて無いや。
はぁ、やれやれ。
私が対処してくるか。」
と小声で呟くと、ここで待っててね、とソリ車の中から出て行った。
数分後、ソリ車に積んだスライムを下ろす。
と言うか、スライム達は檻を外すと勝手にミニオアシスへと向かって行ってしまった。
きっと、ソリに乗せる前に魔獣使いさんが指示したのかな?
地表を何匹かのスライムが綺麗にした後、一斉に口から水を吐いた。
大量の大噴水水芸状態。
どうもバワーズで体内にアイテムボックススキル的な何かで取り込んだ浄化された水を、あの様に吐き出して居るようだ。
後でギルドで聞いたのだが。
驚く事に、オアシス枯渇になるとスライム派遣するのはバワーズでは普通なのだそうだ。
砂漠の神秘!
暫くすると、私の膝上サイズなスライムのツノの辺りまで水嵩が戻る。
ミニオアシスの大きさは、体育館程だろうか?
ちなみにバワーズのオアシスは、深さは分からないけれど、だいたい琵琶湖位は有った。
元々は大きな沼位の広さだったらしいのだが、ダンジョンが進化し四つ完成する頃には合わせる様にデカくなったらしい。
なんかもう、バワーズ自体がダンジョン化した場所な気がするけど。
まぁ、実害無いから気にするのは止めよう。
しかし、スライム達はどんだけ水を取り込んで居たのだろう?
少しして、水面がキラキラ光り出し落ち着いていた。
見るとすっかり浄化された水源に変わって居た。
何故か燃え尽きた木々も復帰している。
え?水とか空間系とも属性違いなスライムも居たの?!
そして、大量に居たはずのスライムは数匹残して見えなくなった。
見える範囲でミニオアシスの水中にはもう居ない。
多分、ゴミ処理場か水脈か上下水道へと移動したのだろう。
バワーズのスライムは、相変わらずよく分からないチートっぷりだった。
ライラが彼に説明した事。
「ごめんなさい、彼女元々男性嫌悪症酷くて。オアシスでの出来事で貴方の事、完全にノゾキで露出狂な痴漢な変質者と思い込んでしまって…申し訳ないんだけど近寄らないでくれます?」
フォローと言うよりトドメだった。
燃え尽きた男性を放置して、ライラもソリ車に戻って来たので冒険者ギルドに報告し、そのままバワーズへとトンボ帰りした。
その男性、アルジェントが我に帰ったのは、リュウとライラの2人がカナーべから出立してから15分後くらいだった。
アルジェントが無罪を勝ち取るのは、いつ?




