あとがき ——青き深淵より愛と敬意を込めて
歴史の年表というものは、ひどく冷酷なものです。そこには「1941年3月7日、U-47消失。乗組員全員戦死」という、たった数文字の無機質な記録しか残されていません。
しかし、そのたった一行の裏側には、確かに熱い血を流し、極限の恐怖に耐え、それでも隣の戦友を生かすために命を懸けた男たちの「人生」がありました。
本作『鋼鉄の棺、異空の咆哮 ―U-47:消失の真実―』を執筆するにあたり、私は映画『Das Boot(U・ボート)』のごとき、息が詰まるほどの鉄と油の匂い、軋む耐圧殻の悲鳴、そしてマニアックなまでのドイツ語の潜水艦コマンド(Alarm, Fluten, Schleichfahrt)を徹底的に描写することにこだわりました。
それは、決して単なるミリタリー趣味からではありません。彼らを「戦没者という記号」や「統計データ」として消費するのではなく、血の通った「生身の人間」としてこの世界に蘇らせるための、筆者としての最大の敬意であり、祈りだったからです。
主人公・ひかりが劇中で流した涙。それは、歴史の分厚い壁を前に立ち尽くすしかできない私自身の歯痒さと、彼らへの痛切な愛情そのものです。
私は、冷酷な史実の海からギュンター・プリーン艦長をはじめとする50名の魂を掬い上げ、この物語の中で「救済」できたことを、創作者としてこの上なく誇りに思っています。
■ 次なる航海、そして物語の「真の機関部」について
氷海の底へと消えた幽霊船の行方ですが……次なる【BOOK 2】以降では、お約束通り、時空の海を舞台にした「完全なるSF空想戦記」の幕が上がります。量子装甲とアビス・スライド・ドライブを手に入れたU-47が、歴史の歪みという巨大な敵とどう戦っていくのか。どうぞ、大いにご期待ください。
……しかし、ここで最後に一つだけ、種明かしをさせてください。
私がこの物語を通じて本当に書きたかったのは、未来技術が飛び交う派手なSFバトルではありません。いつの時代、いかなる極限状態にあろうとも決して失われることのない「人間性」です。
絶望の淵に立たされてなお高潔さを失わないドイツの「騎士道(Rittertum)」。
そして、名誉と仲間のために命を燃やし尽くす日本の「侍精神(Bushido)」。
言語も時代も超え、海を隔てた魂と魂が共鳴し合うその美しさこそが、この物語を動かす真の原動力なのです。彼らはこれからも、最新鋭のメカニズムの中で、ひどく泥臭く、愛すべき人間臭さを放ちながら時空を駆け抜けていくことでしょう。
時空の波間を漂う灰色の狼たちに、そして、この狂おしくも美しい物語を最後まで見届けてくださった読者の皆様に、心からの感謝を。
また、青き特異点の彼方でお会いしましょう。
光闇居士 (Twilight Master)




