第7話
パートを終えたハナエは、近くのドラッグストアに立ち寄った。
避妊具コーナーにひっそりと置かれているそれを手に取り、説明書に目を走らせる。
以前計画的な家族計画をしてもらおうと避妊具を買った時は、激昂した健人に窓から投げ捨てられてしまった。
夫婦のタンスの中にしまってあった銘柄と同じものを買ったつもりだったのだが、きっと間違えたのだろう。
今回は間違わないようにしなければ――
ドラッグストアを出たハナエの目に、前を歩く赤いランドセルが飛び込んできた。
自然と、笑顔が浮かぶ。
「サーナちゃん!」
「おばーちゃん!」
可愛らしいヘアゴムで髪をまとめ、お気に入りのジャンパースカートに身を包んだ早苗は、ハナエに笑顔で駆け寄ってくる。
「学校終わり? 早いわね」
「うん! 今日は五時間授業だったの! おばーちゃんはお買い物してたの?」
「そうよ。ほら、お菓子も買ったから、帰って一緒に食べよ」
検査薬のついでに買ったルマンドやホワイトロリータなどを見せる。
「えーでも、ママは夕飯前にお菓子はダメって……」
「内緒にしとけば大丈夫。育ち盛りに食べちゃダメなんて言うのは酷いわ」
他愛のない話をしながら帰宅した二人は、早速テーブルに菓子を広げた。
「これ美味しい! もっと食べたい!」
「いっぱい食べな。まだあるから」
テーブルにボロボロとカスが落ちる。口の周りをチョコレートで汚した早苗が菓子を食べるのを見て、ハナエは幸せな気持ちだった。
不愛想な梓と違って、この子は素直で明るくて本当に可愛い。
もし自分にも娘がいたなら、きっとこんな子に育っていたことだろう。
微笑ましい気分は、無情にも聞こえてきた扉の音にかき消された。
「ただいまー」
リビングに入ってきた梓は、菓子を食べる早苗を見るやいなや、厳しい表情を浮かべる。
「早苗! そのお菓子どうしたの! ご飯の前はお菓子ダメって約束したよね!?」
「ご、ごめんなさい……おばーちゃんが……」
おどおどとした様子が何とも可哀想で、助け船を出す。
「お腹すいたって言う子ほっとけなくてねぇ。ごめんねぇ」
「え……」
「早苗! ダメでしょ! おばあちゃんにねだったりしたら!」
「え、いや、あたし……」
ヒートアップする梓を、「まあまあ」と制する。
「怒ってばっかりのお母さんだと子供の成績下がるらしいわよ? サナちゃん、前の通信簿あんまりよくなかったでしょ? 」
「それ……関係……」と言いかけた梓にかぶせて言葉を投げる。
「いいのよ! 教育方針はそれぞれだから! 姑が色々言うのは嫌われるってちゃんと心得てるから!」
一気に言ったハナエは、カバンから取り出した検査薬の箱を梓の手に握らせる。
「ああ、それよりこれ、買ってきたわよ」
「それ何?」
覗き込んできた早苗の視線を遮るように、梓はそれを後ろに隠した。
「ちょっと……! 何考えてるんですか!」
「必要でしょ? あ、お代は気にしないで。早速……」
「子供の前ですよ!? 何考えて……」
梓の後ろに回り込み、何とかして箱の中身を見ようとした早苗が声を上げる。
「ねーえ、これ、何なの?」
「何でもない! やめてよ!」
鈍い音。床に転がる、小さな体。
「痛い……うぇ……うぇぇぇぇん!」
口元にチョコレートをつけたまま泣きじゃくる早苗を、優しく抱きしめる。
「あらあら大丈夫? お母さん今不安定な時だからね。おばあちゃんとあっち行こっか」
「何も突き飛ばすことないのにねぇ……。よしよし」
閉まった引き戸。その向こうで、小さなすすり泣きが聞こえた気がした。




