第6話
「それから大変だったのよぉ〜! 梓ちゃんは泣き出しちゃうし、健人は怒るし……」
翌日。ほのぼの亭に出勤したハナエは、バックヤードで身支度していた田村を捕まえて昨夜の話をこんこんと話して聞かせた。
「それは……そうだと思うわ……」
微妙な表情を浮かべた田村は、それだけ言って売り場に出て行こうとした。
しかしハナエは掴んだ手を離さないまま、言葉を続ける。
辛いことや悲しいことがあった時、まずは田村に話を聞いてもらうことに決めているのだ。
自分と田村は何でも話し合える親友なのだから、当然だろう。
「でも、家族なのよ? 恥ずかしがらないで何でも話してくれていいのにねぇ」
大体の場合、田村は自分の言うことを肯定してくれる。
梓や健人のように怒って否定してくるようなことはしない。
だって、二人は親友なのだから。
「虫壁さん……あの……」
何か言おうとした田村であったが、ハナエの目は彼女にバッグに付けられたものに吸い寄せられた。
「あら? それってお守り? 昨日まで付けてなかったわよね?」
白地に織模様の入ったものだ。
「えっ? ああ、娘にもらって……」
光沢のある織模様の地に『安井金比羅宮』と刺繍されたそれは、何故だか重い空気を放っているがした。
「いいわねぇ。お母さんと仲いい子は嫁ぎ先でも大事にされるわ」
健康祈願だろうか。どこの神社なのだろう。あとで調べてみよう。
「梓ちゃんはほら、ね。死別されてるし……仕方ないと思う気持ちをこっちが持ってあげないとよね」
お守りに向かって、手を合わせる。
「何、してるの……?」
「拝んでおくの。私、人のお守りのご利益とか、黙ってても吸い取っちゃう体質だからね」
また首筋に走る違和感を、手で叩き落とす。
相変わらず背後には何もない。納品するために持ってきたブロッコリーがあるだけだ。
ごつごつとした房が、いやに目に入る。
細かな蕾の、一粒一粒が情報量をもって頭の中に侵入してくる気さえする。
「守るものも増えるし、山中さんのご利益にあやかれますようにってね!」
ついでにこれも、どうにかしてくれないだろうか――




