第22話 この星の王。
「…覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽…ソして恒星姫、宇宙宮 舎留那よ…。ヨクゾワレガ支配スル空間ノ底ヘ来たナ…」
永遠中立国の中心都市を蓋にして隠された巨大地下空間、その中にあった巨大地下都市、その底に広がっていた異空間、更にその最奥の空間。
そこに一体の異形が在った。
黄金色をした巨大な岩の塊の様なものから幾つかの触手の様なものが生え、その最上部に白い女の顔を逆さにしたような頭が生えた存在。
それはわたしたちを出迎える言葉を吐いた。
「…ワレハ『魔深』…。
全ての宇宙を喰らいつくす『魔』を生み出せし存在…。
そしていずれこの真宇宙を完全に喰らい尽くして滅する存在…。
この宇宙にあまねく全てのモノはワレワレの糧…。
この宇宙の生まれ出ずる全てのモノはワレワレに喰われるための贄…」
「全ての宇宙を滅する存在とされる『魔深』。
おとぎ話の様な書物に紀伝されているだけの存在とだけ聞いたことが有りましたが…実際に存在するとは思いませんでした。
ましてや、こんな辺境中の辺境の星の底に隠れ潜んでいるとは思いません。
なるほど、全ての宇宙を喰らい滅するとされる『魔深』が、この地球の『星の王』ならば、『星の支配国家』の者共が生き物の理を外れた異質の存在と言うのも納得が行きますね。
『魔深』は生き物ではありません、云わば『滅き物』とされる存在なのですから。
『滅き物』を王を頂く国家の者共は当然、死人の思考を持っていると云う事なのでしょう。
そしてあなたは『星の王』として、この星の人間に入れ知恵をして導いて来たと言う事でしょうか?
この星の人間を自分の意のままに導き、動かして、最終的にはこの星の人間をあなたが望む生命体に、あなたの良質な贄にするために」
「…クファファファ…入れ知恵…? 導いて来た…?
ワレハそこまでの手はかけておらん…
あくまで最初のきっかけを与えたに過ぎん…
その発想を、その発明を、自らの意思で思いついたと思わせただけ…
あとはこの星の人間が勝手にやっていること…
すべては…ワレノ最高の贄となるためニ…」
「気に入りませんね。
わたしはこの宇宙の生き物は全て自由であるべきだと思っています、生きるのも自由、死ぬのも自由。
自分とは別の何者かに、その意思の方向を操られるなんてことは、あってはならないと思っています」
「…覇帝姫、力づくで全てを従わせてきたキサマが言う事カ…」
「あら? わたしは抵抗する自由は与えているつもりですよ、そしてわたしに返り討ちに会って殺される自由もです。
わたしが人のその自由な思考を遮ることは決してありませんし、自由な思考を遮る行為を許すことも無いのですよ。
…ですからあなたが今も出しているこの思考を操る小賢しい技はいい加減やめて貰えませんか?」
「…ホウ? 気づいたカ…?」
「あなたから常に思念波が出ているのをわたしが気付かないと思いましたか?
たしかにその波は微妙で最小で、まるで空気の様で。
しかし確実に”他者への攻撃心を煽りたて更に増幅させる”波。
地球人レベルでは受けた本人がそれを自覚することは無理でしょう。
宇宙宮皇族でもわたしか舎留那でなければ見逃してしまうかもしれません。
…つまり、もしかして…?」
「…ソウいうことだ覇帝姫…。
我はこの星からお前たち宇宙宮皇族全てに深く、静かに、絶え間なく思念波を送り続けた…。
そしてお前たちはそれに答えた。
皇族同士で殺し合い、数を減らした。
ワレワレがこの真宇宙全てを喰らい尽くしやすい様に動いてくれたという訳ダ…」
「なるほど、たしかに宇宙宮皇族のわたしの兄姉弟妹ならあなたの思念波をきっかけにその心を動かされたということもありましたか。
ですがこの大宇宙の絶対なる支配者である宇宙覇帝は如何でしょう?
父上はこのわたしでも敵わない程の力を持っているのですよ。
そんな宇宙覇帝にあなた程度の存在の思念波が効くとでも思っているのですか?」
「…ソンナことはない…現にキサマを追放したではナイカ…」
「でもそれはこの地球に追放なのですよ、わざわざあなたが住まうこの星に追放なんておかしくはありませんか?
宇宙覇帝はあなたの存在に気付いてそれを利用したのですよ」
「…ナ…ニ…?」
「わたしの父である宇宙覇帝は皇族同士の大戦争の末に皇座についた根っからの覇王。
そして自身の後継者にも自分の様な覇王たる振る舞いを望んでいます。
しかし次帝はほぼ、わたしで決まっていました。このままでは血を流すことなく後継が決まってしまう流れでした。
父上はそれが気に喰わなかったのでしょう。
だから宇宙覇帝は皇位争奪戦を意図的に起こすためにあなたを利用したのです。
そしてその戦場をあなたの住む星にしたのは、皇位争奪戦の中であなたの存在に気付いた皇族に殺させる為ですよ。
大宇宙の全てを喰らい滅する化け物を放っておくことなんてことは、この大宇宙を統べる生きとし生けるものの長である宇宙覇帝としては到底見逃すことは出来ませんからね。
自分の望みである血で血を洗う皇位争奪戦争と、全ての宇宙を滅しようとする化け物退治が同時にこなせて、まさに一挙両得という訳ですよ」
「…バカナ…この真宇宙全てを喰らい滅する至高の存在、『魔深』であるワレが、強大な力持つとはいえ所詮は只の生き物でしかない宇宙覇帝に利用されるとナドとハ…」
「ふふ、他者の意思を操るあなたがその意図を逆に利用される気分が如何でしたか?
…自分の意思を意図的に操作されるのは、所詮は皇族兄姉弟妹たちにその抗う力が無かっただけでしょうけれど、肉親としては面白くは無いですね。
敵討ちという訳はありませんが、あなたを許すことは到底できません。
あなたのくだらぬ思念波がきっかけだというのなら、兄姉たちのわたしに対する戦意にも殺意にも泥を塗ってしまうと言うことになってしまうのですよ。
そんな戦意で、殺意で、わたしに挑んで散ったというのなら、それは兄姉弟妹たちへの侮蔑でしかないのです!
…人の意思を操り侮蔑する化け物、この場でわたしが完全に滅ぼしてあげましょう!」
「…ワレはこんなところで滅ぼされるわけにはいかない…覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽、ここで排除すル…」
「アハハ! この恒星姫、宇宙宮 舎留那も居るんだからね! 出来るかしらオマエ如き小賢しい化け物に!」
「…覇帝姫、恒星姫、お前たちはここで我が糧となれ…ハアッ!」
『魔深』からとてつもない恐怖の波動が放たれた。
その波動はこの空間を満たしていく。
その恐怖の波動はこのわたしでさえすくむほどの凄まじいものである。
力のないものではその波動に触れるだけで生きる力を失ってしまうだろう。
…しまったこれが狙いか!?
「空也!?」
わたしが彼に振り向くと既にハクリュウ、アルマレオン、シルフィールが障壁を展開して空也を護っていた。
「その子が死ぬと瑠詩羽は父上に処刑されてしまうんだったわね! グレンタイガ、鐘天龍火玖、アナタ達も障壁を展開して護りなさい!」
舎留那の命令で彼女の幻獣と機神が力を注ぎ、空也を包むが障壁が強化されて万全となった。
「この場に及んでも宇宙覇帝によるわたしの処刑を狙いますか!?」
「そしてその空也という子を護るためにアタシと瑠詩羽の戦力を引き剥がした。まったく、抜け目なく小賢しい化け物ね」
「…クファファファ…サア来るが良い…宇宙宮皇家のふたりの戦姫よ…ワレノ糧となる為ニ…」
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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