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第14話 第七皇子、鬼琉扶(きるふ)。

「姫様!」

「瑠詩羽様!」


 ハクリュウと空也の声が同時にわたしにかけられた。

 二人ともわたしを心配している。

 それはそうだ、この覇帝姫はていき宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはが不意に腹を貫かれたのだ。

 わたしは大丈夫と言葉を返そうと思ったが、言葉の代わりに大量の血が口からこぼれた。


「ふふっ、この国の核弾頭ミサイルの飽和攻撃とやらは、戦いが好きでたまらない瑠詩羽姉さんがあんなに喜ぶぐらい凄かったよね。

なにしろそれで無敵の姉さんの注意が削がれて僕の一撃をまともに受けてしまうんだからね」


「あの方は、…第七皇子、鬼琉扶きるふ様か!」


「ハクリュウ、動かないでよね、そうしないと僕、瑠詩羽姉様をもっと貫いちゃうからね」


「…鬼琉扶きるふ、グランディアスでのわたしの追放劇の場にも居なかったあなたが、何故この星に…」


 わたしは血を吐きながら、その背から巨大な蜘蛛の脚を生やしてわたしの腹を貫いている50歳ほど年下の弟に問いかける。


「ぼくはね、大好きな姉さんと話がしたくて来たんだよ。そうだね、二人だけで話がしたいな。

場所を変えるよ、ハクリュウとそのひ弱な地球人はついてこないでね」


 次の瞬間わたしと鬼琉扶は空間移動した。辺り一面真っ白な雪の平原が広がっていた。

 鬼琉扶はその黒い脚で貫いたまま、わたしを大雪原に叩きつけた。


「僕がグランディアスを離れている間に瑠詩羽姉さんが追放されたって聞いてね、みんなでよってたかって酷いよね。

僕はね、皆とは違う、僕は姉さんを助けに来たんだ」


「ふふ…いきなりわたしにこんな仕打ちをしておいて助けるなんて滑稽ですわよ…鬼琉扶」


「だって大好きな姉さんはこうしないとじっくり僕の話を聞いてくれそうも無かったからね。ねえ僕と手を組んで父上を殺して宇宙宮皇家を乗っ取ろうよ」


「ふふふ…何を言うかと言えばそんな戯言ですか…あのですね、わたしたちの父、宇宙覇帝うつはていは途方もない力を持っているのですよ…。

最有力の次帝候補であるこの覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽でも今の力では及ばない程に…。

あなたの様な子供ガキと組んで勝てるなら苦労はしませんよ…」


「僕はガキじゃない! もう110歳になったんだ! こうやって姉さんに勝てるぐらい強くなったんだ!」


 鬼琉扶はわたしを貫いたまた蜘蛛の脚を振り上げると再度、雪原に叩きつけた。

 わたしはごふっとまた血を吐いて白い雪原を赤く染める。


「こんな不意打ちみたいな真似で…わたしに勝てたなんて片腹痛いですね…だから子供ガキは嫌いなんですよ…」


「姉さん僕はもうガキじゃない! 僕はもう大人なんだ! 強いんだ! 子供だって作れるんだ! 見てよ姉さん! 僕の成長した身体を!」


 鬼琉扶の少年の身体がびりびりに破れ、その中から黒く巨大な一匹の蜘蛛が現れた出た。


「これが『闇巨蜘蛛アトラクナクア』の血を半分持つ僕の本当の姿さ、瑠詩羽姉さん!

さあ大好きな姉さん! 僕の子種を受け入れてよ! 僕たちの子供たちとで、この大宇宙を支配しようよ!」


 鬼琉扶の蜘蛛の身体から黒い巨大な棒に無数の尖ったヒダが生えた生殖器がわたしに向かって伸びて来た。


「謹んでお断りします鬼琉扶、わたしは聞き分けのない子供ガキは嫌いですし、化け物と交じ合う趣味もありませんから」


「えっ…!? ぎゃあああーー!!」


 鬼琉扶の蜘蛛の生殖器が真横から飛んできた破壊の光に貫かれて打ち砕かれた。

 驚く鬼琉扶が光の飛んできた先を見れば、そこにはわたしがもう一人居る。

 鬼琉扶の蜘蛛の複眼の瞳からもその動揺が見てとれた。


「な…何故姉さんが二人も…?」


「ふふ、鬼琉扶。なかなかの不意打ちでしたよ。

別次元にその身を潜ませてわたしの隙を見計らい、この次元に現れると同時にわたしの身体を貫く回避不能の攻撃は見事でした。

ですが、あなたがこの次元に現れた時に出現した次元の境目をわたしは利用させて貰いました。

わたしがあなたに貫かれた瞬間に身体の一部分を切り離してこの次元に残し、残りの身体の全てはあなたが潜んでいた別次元に逃がしたのです。

ちょうどあなたと入れ替わる感じですね。

つまりですね、今あなたに攻撃したほうのわたしが別次元から戻って来た本体という訳です。

あなたの醜い生殖器で孕ませようとしたそのわたしはいわば抜け殻の様なものですよ、まあ所詮はトカゲのしっぽ切りといった所ですね。

ですが不意を突かれたとは言え、わたしにここまでさせたあなたはたいしたものですよ。

子供ガキという評価はとり下げましょう。鬼琉扶、ここからはあなたを立派な大人として扱い、わたしの全力でお相手しましょう」


「姉さん…ぐぎゃああーー!!」


 わたしは自分の抜け殻を刺し貫いていた鬼琉扶の脚に手を振るい粉々に打ち砕くと、すかさず倒れ伏していた抜け殻に触れてわたしの身体に戻した。

 身体を完全に戻したわたしは右手をかざし破壊の光を放つ。

 だが巨大蜘蛛は凄まじい速度で跳躍しそれを躱すと、わたしのはるか上空に舞い上がる。

 そしてその巨大な巨大な口が開き、黒いプラズマ球が放たれた。

 わたしは手をかざしプラズマを反らす。

 鬼琉扶は黒いプラズマ弾を連射してくる。

 わたしは手をかざしたままプラズマを反らしつつ光速で跳び鬼琉扶に向けて拳を向ける。

 だが次の瞬間、巨大蜘蛛の腹の尾がこちらを向いて巨大な蜘蛛の巣の網が放たれた。

 この攻撃は…強力な粘着系攻撃?

 物理攻撃では絡み取られてしまい、遠距離波動系攻撃では糸が弾けて撒き散らされて身体に絡みつく?

 …つまり攻撃してはいけない!

 わたしは一瞬でそう判断すると瞬間移動で躱し切った。

 しかし鬼琉扶の蜘蛛の多数の複眼がうごめいて瞬間移動先の私を一瞬で捉えると、黒いプラズマで、黒い無数の稲妻で、蜘蛛の巣網で攻撃してくる。

 強い、導名雅みちながよりも愛衣羅あいらよりも。

 これがこの大宇宙の闇を渡り住むという邪神の一柱、『闇巨蜘蛛アトラクナクア』の力ということか。

 特に厄介なのは攻撃不可能なあの蜘蛛の巣の網…それならばそこから潰す!

 わたしは次元速度で飛翔すると鬼琉扶の蜘蛛の腹の尾の部分に拳を叩き込む。

 黒い体液が噴き出しながら吹き飛んだ巨大な蜘蛛の身体はそのまま凄い勢いで地面に墜落し大雪原に叩きつけられた。

 凄まじい衝撃破は周囲に雪崩を巻き起こした。

 仰向けにひっくり返り腹を晒す巨大黒蜘蛛・鬼琉扶に対して、わたしは遥かに上空に舞上がり、そこから流星のごとく凄まじい速度で降下した。


「姉さあああんん!!」


 鬼琉扶はわたしに対してその巨大な黒い脚を振るった。

 わたしは渾身の力で拳を振るいその脚と正面からぶつかった。

 ばきぃと音がしてその脚は砕け散った。

 この脚は覇帝姫であるわたしの身体をも貫いた強力な武器。

 故にわたしも全身全力で持って攻撃する。


「がああああああ!!」


 鬼琉扶は巨大な黒い脚を次々と繰り出して来る。

 その全てがわたしを殺しうる必殺の一撃である。

 わたしは光速で拳を振るい手刀を見舞い蹴りを撃ち込み破壊の斬撃を放ちその脚全てを断ち切った。

 そして無防備になった巨大蜘蛛の腹の真芯に向かって渾身の蹴りを叩き込んだ。


「ぐぶあああああ!!」


 巨大な蜘蛛の腹から大量の黒い体液が噴き出した。

 だが鬼琉扶の戦意はまだ衰えていない。その巨大な口が開き、とてつもない威力の破壊のプラズマが放たれた。

 わたしは全力で手をかざしプラズマを反らし切ると、全力の拳を巨大蜘蛛の口に叩きつけた。

 蜘蛛の幾つもの目が輝いて破壊光線が放たれる。わたしも瞳を輝かせその威力を相殺、そのまま圧し切ってその複眼の全てを焼き切った。

 蜘蛛の触覚が小刻みに振動し破壊振動音波が放たれる、わたしは咄嗟に耳を塞ぐと宙返りしてその触覚を蹴り飛ばして黙らせた。

 蜘蛛の身体全体が輝いて空間全体が震える、自分が巻き込まれるのも構わず周囲の空間ごとわたしを破壊するつもりだ。

 わたしは両手をかざすと破壊の意思をこの空間全体に波及させて鬼琉扶の破壊の意思を相殺、そのまま圧し切って鬼琉扶の身体全体を破壊し尽くした。

 その破壊の余剰エネルギーは鬼琉扶の身体から漏れ出て、スベリヤの永久凍土を完全融解させて凄まじい雪崩の渦を巻き起こし、その巨大な真白の巨波はこの国の凍てついた大陸を飲み込んで押し流した。





「あ…ああ…姉さん…大好きな…姉さん…。

やっぱり僕じゃ…姉さんの相手は…駄目だったの…?

こんな醜い姿の僕じゃ…駄目だったの…?」


 その黒い巨大な蜘蛛の身体を横たえて、文字通り虫の息となった鬼琉扶がわたしに問いかける。


「正直なところ、わたしは虫は好きではありません。

ですがわたしにここまで力を出させたあなたの力はたいしたものでしたよ。

醜いとあなたは言いますけれど、強い力を持ったその姿は誇っていいとわたしは思います。

もっと成長すればわたしと対等に渡り合えたかもしれませんね。 

あなたがわたしを慕っていたのは今日に至るまで知りませんでした。

だからこのたび、気を焦ってこの星にやって来たということでしたか? 鬼琉扶?

…ですが、わたしに刃を向けた以上は生かすことはできません。

あなたの気持ちに答えられなくてごめんなさい…。

それではごきげんよう、さようなら、わたしの弟」


「ああ…姉さん…大好きな姉さん…」


 わたしがかざした手から放たれた破壊の光は鬼琉扶の身体を粉々に吹き飛ばし完全に消滅させた。





※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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