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夢わたり  作者: りり
15/15

15終章

 世界の始め、曖昧な闇の中で微かな生命が生まれた。

 生命は生命を育み、無限の空間で無数に増えた。やがて強いモノが弱いモノを喰らい、大きくなって更にまた次を喰らうようになった。また多数が唯一を喰らい、偶然が必然を上回って、生命は形を変え、属性を変え、力を生んだ。そして最後に(こころ)が生まれた。

 数え切れないほどの生命が漂う空間に、唯一存在した(こころ)は『混沌』となった。

 『混沌』は総ての生命の母であり、力の源であった。世界に生命が増えれば増えるほど、『混沌』は魂力(ちから)を増し、世界は無辺に広がった。その世界では生と死は同一であり、存在に自我はなく、他者と自己は分かれていなかった。

 光は世界の外から来た。背中に闇を連れて、曖昧な闇を照らし出し始めた。

 光に照らされた生命は形が明確になり、自我が生まれた。そして個々として存在の確定を望むようになった。

 光の子、光輝(こうき)と黒焔は、母なる『混沌』の継承者に闘いを挑んだ。

 世界に『秩序』をもたらすために。生きとし生けるもの総てに、(ことわり)に基づく宿命を与え、存在を確たるものとするために。

「より多くの生命が存在を全うできるよう、『秩序』を定める。生と死を分かち、寿命を定め、魂の本質を明確に規定することで弱く儚いモノ、例えば人のような存在でも生を全うすることが可能になる。」

 それは曖昧な生命たちにとって素晴らしいことに思われた。

 強い自我と力を持つモノたちほど、『秩序』の成立に賛同した。

 光輝と黒焔の軍で参謀を務めたのは九尾の狐。後の天狐界の祖である。他に三ツ頭の黒虎、双頭の金獅子、五色の鳳凰が将軍となった。

 『混沌』の継承者である女王黎明(れいめい)のもとには、『秩序』の確立の過程で消えそうな、弱く儚いモノたちしか残らなかった。

黎明は軍を編成せず、魂力(ちから)を遣って応戦した。自らに従う曖昧なモノたちの生きる世界を残したいとたった一人で立ち向かった。

 最強の力を持つ九頭龍は態度を決めかねていた。

 九頭龍の九つの頭のうち、八つまでが『秩序』の構築に賛成していたが、最後の一つは疑問を抱いた。即ち―――『秩序』は変化をどう扱うのか?

 光輝は変化は『秩序』の中で緩やかな進化としてのみ認められる、と説いた。急変は多くの存在を不必要に歪めるだけのものだ、と。

 九頭龍は決断し、光輝の片腕となって、世界を切り取る闘いの先頭に立った。

切り取られた世界は『秩序』が構築され、そこに棲むモノたちを確定していった。

 長い凄絶な闘いの果てには黎明に従うモノ―――儚くて曖昧なモノたちは誰もいなくなった。

九頭龍は天帝となった光輝の命に従い、自らの手で黎明を『夢』の領域に幽閉した。

「未来永劫ここより出ずるはならぬ、との天帝のご意志です。」

 その名の通り黎明の闇と同じ色をした瞳を振り向けて、黎明は微笑んだ。

「九頭龍。何ゆえそなた、そのような貌をする? 憐れむ必要はない。妾の役目は終わった。それだけのことじゃ。妾はこれより、ただ一つ残されたこの領域と融合する。再び目覚めるかどうかは誰にも解らぬ。光輝に伝えよ。妾の魂力(ちから)は自ずと生まれ出ずるもの。そこに意志は介在しないのだと。」

「それは‥‥?」

 黎明は声を立ててほがらかに笑った。

「九頭龍ほどの智恵者が解らぬか‥? 簡単なことだ。生命(いのち)を持つ存在は常に変容するもの。それは光輝の申す必然からのみではなく、『祈り』から起こる場合もある。光輝の築く『秩序』が個あるいは全の『祈り』を押し潰すようであれば、『祈り』は『夢』に流れこむであろう。されば再び魂力(ちから)は生まれる。」

「‥‥」

 やがて黎明は静かに夢の領域に姿を消した。

 九頭龍はきっちりと空間を閉ざし、天界へと向かった。しかし定められた寿命の尽きるまで、黎明の残した言葉を誰にも告げることはなかった。


 紫苑は狭間の世界の果てに飛ばされて、ぷかぷかと漂っていた。

 薄紫色の仄かな光に包まれて、胎児に戻って紫苑色の闇に浮いていた。

 ここはどこなのか。皆がどうなってしまったのか。紫苑は黒焔に負けたのか、それとも天の秩序に潰されたのだろうか。何もかも綯い交ぜになってメリーゴーランドのように堂々巡りをしている。

 果てしなく永い時が過ぎていった。

 やがてゆらり、ゆらり、と揺籃に揺られて泣いている赤ん坊が見えた。

 紫苑、と誰かが呼んだ。

 紫苑はその夢にしがみついて、凄いスピードで記憶を巻き取っていった。体中がぞくぞくして沸騰したお湯のように音を立てた。

 気がついた時には自分の部屋でベッドに寝転んでいた。涙が頬に貼りついたままだ。

 起き上がって、机の上のケータイを手に取って日付を確かめてみる。

 三月七日。午後十時十九分。卒業式の前日だ。どうやら卒業式までに帰ると言う両親との約束はぎりぎり守れたらしい。

 鏡に自分の姿を映し出してみた。

 黒い髪、黒い瞳。夢わたりの魂力(ちから)は失くしてしまったようだ。つい、溜息が出る。

 自分は『五色界』を無事に夢の領域に飛ばせることができたのか。皆を救うことができたのだろうか。確かめたいのに確かめることができない。

 五色の虹は造った。黒い月が消えたのだから黒焔とのゲームは勝ったはずだ。とすれば魂の消滅は避けられたのだろうと無理矢理に心に言い聞かせる。

 めちゃくちゃ不安だが、今はそう信じるしかなかった。

 ふと見ればケータイには着信メールがたくさん入っていた。級友たちからの合格報告がずらずらと並んでいる。

 人間界から消滅しかけていたのは、どうやら回避されたようだった。

 ふふふっと微笑いながら、紫苑は溢れる涙を止められなかった。ぽろぽろこぼれて、しゃくりあげて、声を上げて泣いた。早春の夜はまだまだぐんと冷えこんでいる。布団を頭から被り、紫苑は二度と会えない大切な仲間たちを想った。


 卒業式は滞りなくすんだ。

 『五色界』の暖かな気候にすっかり馴染んでしまったせいか、空気がやけに冷たく感じる。校庭の木々は僅かながら芽吹き始めていた。

 一応校門で両親や級友たちと記念写真を撮って、メールで交換し合い、普段通りのさよならを言って学校を出た。彼らとはもう二度と会わないかもしれないけれど、何の感傷もなかった。

 途中で昼食を取って、会社に戻る両親を見送り、自宅に一人で戻る。

 自室に入った途端、胸の奥を突き上げるような寂しさがこみあげた。ほんとうは一人でいるのなんて好きじゃない。解っていなかっただけだ。

 紫苑は頬を伝い落ちる涙を拭い、せめて明日からはもう少しましな自分になろう、と決心した。

 それから十日余りが何事もなく過ぎた午後に、高校の制服が届いた。届いたら着てみるよう、母親に言われていたものだ。

「紫苑は小さいから、急に背が伸びてもいいようにって大きめのを買ったでしょ? だけど、大きすぎた気がするの。一度、着てみてちょうだいね。詰めるなら詰めるで、入学式に間に合わせなくちゃいけないから。」

 はおってみると、やはり少し大きかった。

 袖も丈もたっぷり五センチは余っている。背幅もズボンも同様だ。思わず苦笑がこぼれた。背が伸び悩んでいる紫苑へ、親からのプレッシャーなのか?

 ―――ん? 制服の採寸って、いつしたっけ?

 全然覚えがない。そう言えば二月中旬に説明会があったはずだけれど、誰が出席したのだろう? 途中からは体を丸ごと『五色界』へ持っていってしまったから、紫苑は不在だったはずだが、思えば両親はそれについて今まで何一つ尋ねていない。

 真新しい制服をきちんと畳んで、元通り箱に収めた。

 考えれば考えるほど変だ。ここが確かに元通りの人間界ならば、ウチの両親は何者なのだろう?

 急に部屋中が暗くなった。

 いや、ここは部屋ではない。

 上下も左右もない、ただまっさらな闇だけがある世界。遠い昔に一度だけ迷いこんだことのある、闇の統治者の居所―――黒燁宮(こくようきゆう)だ。

 紫苑は緊張して身構えた。

「‥気配を隠したつもりか、人の子よ。」

 黒焔の冷ややかな声が響いた。

「最後の虹はやや反則の気味はあるが‥。まあ約束は約束。五色の儀式(ゲーム)はおまえの勝ちであると認めよう。駒たちには既に望み通りの宿命を与えた。残るはおまえ一人。おまえの望みは何か‥?」

 紫苑はほっとして緊張を解いた。

 それではついに儀式をやり遂げたのだ。もうそれだけでよかった。できれば皆がほんとうに望み通りに生まれ変わったのか知りたいけれど、黒焔に頼む気にはなれなかった。きっと素直には教えてくれないに決まっている。

「えっと‥。俺の望みは、このままの宿命でいいです。」

「このままでいい、とは‥。天龍や麒麟に二度と逢えずとも良いのか‥? 人の身におまえの魂力(ちから)は重荷であったのではないのか‥?」

 魂力(ちから)が消えてしまったことを黒焔が知らないのなら、言う必要はないと紫苑は思った。

 同様に、真白や琥珀だけではなくみんなにものすごく会いたいと思っていることも、黒焔には知られたくなかった。虐めっ子の黒焔には本心は何一つ、知られたくない。

 だから闇の中で紫苑はにっこりと笑った。

「このまま、生まれついたままでいいんです。困ったり辛かったりするかもしれないけど、何とかできると思うし。そもそも宿命を変えてもらおうとあなたに頼んだのが人としてルール違反だったんだ。面倒をかけてごめんなさい。二度と頼みごとはしません。」

 黒焔が舌打ちをしたような気がした。

「‥ならば生まれついたままの宿命に戻るがよい。我を出し抜いたつもりであろうが、『五色界』はいずれ朽ちる宿命の世界であったのだ。天にも闇にも不要のもの。おまえたちが隠したところで、我にとっては如何ほどのこともないのだ。決して思い上がるではないぞ、人の子よ。」

 よし。『五色界』もちゃんと藍の指示通りに飛ばせたらしい。目的は未だに理解できていないけれど、藍が言うのだから間違いなくみんなを助ける役に立ったはずだ。

 紫苑は黒焔を怒らせないよう、神妙な声ではい、とだけ答えた。

「ふん‥。戻してやる前に一つだけ問いに答えよ。あの虹彩人たちを呼び寄せたのは、おまえの意志か?」

「え‥?」

「偽りも誤魔化しも許さぬ。速やかに返答せよ。助けを乞う『祈り』を遣ったのか‥?」

「意味が解りません。何も知らなかったのに呼べる訳がないと思うんですけど‥。」

 急に胸の中をかき回されるような感じがして、苦しくなった。

「‥‥なるほど。嘘ではないようだ。前世の器が呼んでおいたわけでもないか‥。」

 ふうっ、と息をついて、前世までの紫苑は全員、誰かに助力を求めるような性格じゃなかっただろ、と密かに思った。

「これは何を意味するのか。おまえには解るか、紫の瞳よ。恐らくおまえの守護者ならば的確に理解するであろうが‥。ちっぽけな人の器では理解し難いであろうな。ふふ‥。おまえの存在はまったく刺激的だ。楽しませてくれる。」

 黒焔はなぜか晴れ晴れとした声で笑った。こっちは全然楽しくない。紫苑は憮然とする。

「用はすんだ。戻してやろう。」

 次の瞬間、自分の部屋に戻っていた。

 外はすっかり日暮れて、夜になっていた。時計を見るともう七時だ。まだお米を研いでいなかったと気づいて慌てて階下に降りると、母親が台所で夕飯の支度をしていた。

「母さん、ごめん。ちょっと、あの‥用っていうか、その‥。」

「いいのよ。無事に戻ってくれればそれでいいの。‥‥これで全部すんだの?」

 振り向いた母の瞳に、紫苑は今まで一度も気づかなかった光を見つけた。緑青色の優しい、慈愛に満ちた光。

 そうか、と紫苑は気づいた。存在を遡って宿命を変えられるから―――紫苑を守るためか。紫苑はなぜ、前世までのように家族に見捨てられることなく、愛情を注がれて守られてきたのかやっと理解した。

 紫苑は母に晴れやかな笑みを向けた。

「全部すんだよ。もう黙っていなくなったりしないから。約束するよ。」

 母はそう、と嬉しそうに微笑み返した。


 その晩、紫苑は真白の夢を見た。

 真白はいつものように銀色の穏やかな瞳で紫苑を振り向き、いきなり吹きだした。

 ―――そんな情けない顔をするな。つい笑いたくなる。なぜ泣いているんだ?

 紫苑は抱きついて、もっと泣いた。

 真白は紫苑をそっとかき抱いて髪を撫でてくれた。次第に落ち着いてくる。

 ―――みんなも無事なんだよね?

 ―――むろんだ。おまえが『五色界』ごと天の秩序から引き剥がして夢の領域に放りこんだおかげで、世界の秩序は保たれた。藍の方策のおかげだ。

 真白は今ひとつ状況が解っていなかった紫苑のために、『五色界』と天の秩序の関係を説明してくれた。

 ―――ほんとうに危なかったんだね。俺だけ知らなかったのか‥。

 紫苑は俯いて、唇を噛んだ。

 ―――怒るな。おまえにわざと知らせなかったのは、魂力(ちから)を最大限に発揮させるためだ。先入観や余計な思考が集中力を削ぐ。何しろ、天帝と黒焔のお二人を同時に出し抜かなければならなかったんだ。おまえはほんとうによくやった。

 ぽんぽん、と背中を叩かれて、紫苑は機嫌を直した。

 ―――だけどね、真白‥。俺は夢わたりの魂力(ちから)、失くしちゃったみたいなんだよ。

 ―――魂力(ちから)は遣いすぎて一時的に眠っていただけだ。心配ない。もう目覚めかけている。だから黒焔に見つけられたんだ。

 ―――知ってたの?

 ―――言っただろう。いつでも紫苑の傍にいると。

 振り向いた真白は懐かしい、優しいまなざしを向けた。紫苑はまた泣きたくなる。

 月が夜空に煌々と輝いていた。


 桜の花びらが舞い降りてくる。

 紫苑は通りがかった近所の公園に自転車を駐め、つくづくと見入った。真白と逢った日の雪のようだ、と懐かしく思い出す。

 あれから真白には何かと会いに行っている。

 夢わたりの魂力(ちから)は完全に復活したようで、それほど集中しなくても真白の湖には行けるようになった。髪と瞳の色は魂力(ちから)を遣う時だけ薄紫色に光るけれど、普段は黒いままだ。

 両親は相変わらずとても仲が良い。夢わたりについては何となく理解しているようだけれど、残念なことに前世の記憶はまったくないらしかった。普通の人の器には収まりきれないからだと真白は言う。

 紫苑は紫苑で、青磁の神々しい美しさが失われているのが惜しい。母も人間としてはまあまあ美人の方だけれど、人と天人では比較にならない。青磁はそれでよかったのかなと少し疑問に感じた。

 真白はそれを聞いてくすくす笑った。

「器に執着するのは人間だけだと言っただろう? 青磁の美しさは容貌(かたち)ではなく、魂の輝きだ。天人だから皆、あれほど美しいというわけではない。深紅には今も同様に見えているんだろうよ。‥おまえも大人になれば解る。」

 桜の舞い散る光景を眺め、いったいいつ自分は大人になるのだろう、と考えた。

 一迅の風がさあっと流れた。桜の花びらがくるくると渦を巻いて紫苑の顔にぶつかる。思わず腕で顔を庇った。

 樹上に人影が見え、いきなり紫苑の目の前に降り立った。

「あれ‥? 琥珀?」

「あれ、じゃない。待っていても全然呼ぶ気配がないから、こっちから来た。何をしている?」

 琥珀は苛立っているように見えた。紫苑は面食らって、口ごもる。

「待ってるって‥何で? 琥珀は麒麟じゃなくて、他の宿命を望んだんじゃないの?」

「おまえ‥ちゃんと絆を確認したのか? まったく‥。間抜けな主人と誓約するほど苦労なことはないな。普通、いちばん初めにするものだろうが。」

 琥珀は紫苑の頭をこづいた。

 紫苑はまじまじと見た。琥珀の褐色の肌も髪も瞳もそのままで、外国人のようだが美形のままだ。通り過ぎた女子高生数人が振り返って、何か騒いでいる。

「ほら。呆けていないで、さっさと僕を呼べ。おまえがちゃんと呼ばないと、人間界に留まれないだろうが?」

 ということは琥珀は、紫苑と誓約した麒麟のままでいる宿命を望んだのか? そして人間界に留まってくれるつもりらしい。

 紫苑は嬉しくて、人目も構わずに思わず抱きつきそうになった。

 その時背後から誰かが先に、紫苑に抱きついた。

「紫苑さま‥! とても‥お会いしたかったです。」

「だ、橙‥?」

 肩ごしに振り向くと、橙がいた。既に涙ぐんでいる。

「琥珀さまに連れてきていただいたのです。『五色界』でお待ちしていたのですけれど、なかなか来てくださらないので‥。藍も一緒ですよ。」

 少し離れて藍が立っていた。冷然とした表情は相変わらずだけれども、何かが違う。紫苑はもう一度、橙を見る。二人とも壮絶に美形なのは変わらないのだが―――

「あれ? 橙の髪と眼の色、ちょっと違ってない? 琥珀と似た色になってる‥。それに藍の髪も黒いし‥逆に眼の色は前より明るい。どうなってるの?」

 溜息が聞こえた。

「やれやれ。紫苑は相変わらず血の巡りが悪い。わたしたちは『五色界』の住人になったのです。もう虹彩人ではないのですよ。‥橙が紫苑の傍にいたいと願ったので、虹の架け橋があなたの部屋に通じて道ができたのですが、肝心のあなたがいつまで経っても扉を開いてくれないので、琥珀さまが業を煮やしてぶち破られたと言うか、蹴破られたと言うか‥。」

「藍。人聞きの悪い言い方をするな。麒麟と主の絆を手繰って、向こう側から開けただけだ。」

 琥珀がすました顔で訂正した。

「とにかく、紫苑が悪い。」

 紫苑は混乱して、何が何だか解らなくなっていた。解っているのはみんなに逢えて嬉しい。それだけだ。

「えっと‥。とにかくみんなの名前を呼べばいいの? それとも『祈り』の魂力(ちから)を遣えばいいのかな? あ、部屋に『五色界』に繋がる通路ができてるって‥? そうだ、うちの両親に会ってよ、きっと驚くから‥‥。」

 琥珀が紫苑の頬を軽く叩いた。

「落ち着け、紫苑。まずは心の中で僕たちの名を呼べ。一つ一つ、絆を確認するんだ。それから総てが始まる。」

 紫苑はうん、とうなずき、抱きしめるように皆の名を呼んだ。桜の花びらが舞い上がる。

 ぼわっ、と心に灯がともった。 

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