気付き
弟に楽しみだと言われれば張り切ってしまうのが姉心というもので。キッチンには弟の大好物がこれでもかというほど並んでいる。
思考は大人びているくせに、嗜好はまだまだ子どものようで並んだ料理を見回して安心する。殿下とコーリア様の口にも入るわけだから、いつも以上に慎重にはなったけれど。
残すは仕上げのみで、皆が帰ってきてからでも十分なほどの準備は整っている。
帰ると言った予定時刻を少し回ったところで、まだかしらと外の様子を見に行けば、ちょうど馬車が門を抜けて入ってくるところで、玄関前で止まると中からは視察に行った殿下、コーリア様、叔父、弟の4人が降りてきた。
「おかえりなさい。」
「ただいま」という間もなく一番に掛けてきたのは弟で、出かける前以上に興奮した様子で飛び込むように抱きついてきた。珍しく行儀の悪い弟をたしなめ、殿下たちに謝罪をしようと視線を合わせると二人は気にせず叔父と話をしているところだった。
その様子にまぁ仕方が無いかと、話を早く聞いてほしそうな弟に再び目を向けると、待ってましたと言わんばかりに、矢継ぎ早に話し始めた。
「うちの裏山から鉄鉱石が見つかったんだ!」
ハーベスト男爵領内の丘陵地から鉄鉱石が見つかった。最初は何をそれだけで喜んでいるのだろうかと思ったけれど、どうやらけっこうな量が丘陵地から見つかったらしく、調査を進め、このまま採掘に適していると判断され鉱山ができればフローリア王国初の鉱山となるのだそうだ。
大陸で鉱業は北国が独占しており、鉄の輸出だけで北国は莫大な財を成している。ハーベスト男爵領の丘陵地一つでそれがひっくり返るとも思えないが、フローリア王国にとっては鉱業への参入は国の発展の大きな一歩となるのだとか。今後、この丘陵地を軸に近隣の調査を進め他の場所でも鉱石が発掘されないかを探るらしい。
「調査にも、鉱山をつくるのにも、採掘にも人手が必要だから、このハーベスト領に人がたくさん来ることになるよ!そうしたら税収も増えるし、領地が潤ったら、僕ら、もう没落貴族なんて呼ばれずに済むんだ。」
「ネリネ、お前ももう無理に王都に出て働くことなんてない。こちらに帰ってくるといい。」
「おねぇちゃん帰ってこれるの?だったら早く帰ってきてよ。」
弟も叔父も妹もまだ先のことに胸を弾ませ私が領地に帰ってくることを喜んでいる。
たしかに、良いタイミングかもしれない。本物のダリア嬢も帰ってきた。婚約パーティーまではあと1ヶ月。コーリア様もちょうどウチに来ていることだし、もしかしたらこのままここに残れと言って解雇されるかもしれない。事情を知っている私なんて邪魔なだけだ。
「おねぇちゃんが帰ってきたら、したいことたくさんあるのよ。花壇のお世話をしたり、お菓子を作ったり・・・」
帰りたいと思っていた故郷なのに、言われるまま、流されるままに城を離れここに残るということが、胸がきゅうと苦しくなるほど寂しく感じてしまう。嬉しそうに話す家族を前にあいまいな笑みしか返せない。
…そうか。
やっとわかった。
好きだったんだ。あの時が。
翌日の夜には、鉄鉱石が見つかった丘陵地の鉱山の開発が決定された。




