翌朝
朝食の準備を手伝い、料理を持って食堂に戻ると恐ろし…珍しい光景が広がっていた。
いや、うちの食堂に殿下とコーリア様がいること自体があり得ないんだけれど。そうではなくて。
「えぇ!?コーリア様もこのシリーズを持ってらっしゃるのですか?なるほど、やはりこの経済学書は素晴らしいのですね。昨年姉に送っていただいたのですが。え?新シリーズも出ている…?あぁ、こんな田舎じゃそれが手に入るのはいったいいつになることやら…。く、くださるのですか!?本当に?うわぁ、嬉しいです。ありがとうございます!」
弟がコーリア様に懐いていた。その声がいつもよりも高く早口で興奮しているのが窺える。憧れの人を前にしたような、子どもらしい様子だ。
それから妹はどこかしらと姿を探していると・・・
ぎゃあぁぁあぁっ!?!?!
コーリア様の膝に座ってる!?
こちらに背を向けて話しているから正面に回るまで気が付かなかったけれど、妹がコーリア様の膝の上にちょこんと座っていた。話をしている二人を見ながら、内容などわからないだろうに、にこにこと微笑んでいる。
恐ろしいから早く退いてちょうだい。カタカタと震え落としそうになる料理をテーブルに運ぶ道のりがとてつもなく遠く感じた。いつもは数歩で着くのに。
コーリア様に子どもの相手をさせるなんて、しかも膝の上に乗っているのを注意もせずに何と恐れ多いことか。コーリア様を窺えば怒っている様子は無いけれど。あぁ、あの笑顔が何の笑顔なのかわからない。と不安を感じていると、叔父の大きな笑い声が聞こえてきた。
「いや、実に良くできた娘でして。幼い頃から家のために………。偶然にも今、城の勤め出ておりまして。廊下ですれ違っているのかもしれませんな。はっはっはっ。」
殿下相手にもしかしなくとも私の自慢話をしていた。顔から火が出そうな言葉に、どれほど叫びたい気持ちを押し込めたただろうか。
待って叔父さん!それ以上言わないで!恥ずかしいから!ほら、殿下微妙な顔してるから。そばで聞いてるコーリア様もあの顔、絶対笑いたいのを我慢してる顔だから!心の中では嘲笑してるからきっと!
「お叔父様、お話はそのへんで。レレレンギョウ王子殿下、コーリリア様、お待たせいたしました。朝食をお持ちしました。」
のっけから挨拶を噛んでしまった私にコーリア様は哀れみの表情を見せたものの、それを気づかないフリをして膝に乗ったままの妹を引き取りに近づく。
「貴女が噂のお嬢様ですね。なんとも素晴らしいお方だとか。弟殿と妹殿も自慢しておられましたよ。」
と笑いかけられた。完全営業用の完璧な笑顔で。
「めめめめ滅相もありません。」
もちろん慌てて妹を連れて逃げた。妹はコーリア様と離れたくない様子だったけれどいつの間にこんなに懐いたのやら。失礼だと思うけれどコーリア様は決して子ども受けするタイプじゃないはず。綺麗なお顔ではあるけれどかもし出すオーラが怖いもの。それなのに弟もまして妹までも懐くなんて。弟もいまだ嬉しそうな顔でコーリア様を見上げ、話をしている。その内容はけして可愛らしいものではないけれど。
食事が終わり今日も視察に出かけるらしい殿下たちを見送りに玄関へ向かう。今回は叔父だけでなく弟も連れて行ってもらえるらしく、わりかし新しいコートを身に纏い浮かれた様子で駆けていく。スキップでもしているようにその足取りは軽い。屋敷の裏手にある丘陵地の視察に行くのに、道に詳しい弟が案内人となるらしい。
「殿下たちにご迷惑をおかけしないようにね。コーリア様は絶対に怒らせちゃだめよ?」
経験談として注意点(というか一般論なんだけど)をいくつか述べてみるけれど。
「わかってるよ。姉さんじゃあるまいし。ま、しっかり役に立ってくるから。夕食の準備よろしくね。姉さんの作る料理、僕、大好きだから楽しみにしてるよ。」
弟よ。貶しておいて褒めるなんて高度な技を身につけているなんて。あと5年後にはどんな色男になっていることやら。姉さん心配。




