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アビスジェネシス 〜VRMMOの世界で無双する幼女〜  作者: tky@複数作品連載中
第1章:清楚な令嬢と爆弾魔

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第3話:ボス出待ち地雷とダイナマイトの発明

【現実:2026年10月2日(金)昼休み】


「先輩! 昨日のあれ、何ですか!?」


中堅メーカーの給湯室。

周囲に誰もいないことを確認した美織が、声を潜めつつも切羽詰まった様子で詰め寄ってきた。


「あれって?」


凛はマイボトルにコーヒーを注ぎながら、涼しい顔で聞き返す。


「エリアボスのことです! 初日から、剣も魔法も使わずにボスを竹筒で木っ端微塵にするなんて、絶対におかしいですよ! 私、王道ファンタジーを楽しみにしてたのに……!」


「あら、効率的だったじゃない。それに、私たちが使えないだけで、モンスターの皆さんはちゃんと魔法を使ってくれていたわよ? 炎とか、水鉄砲とか」


「それを火種にして爆殺したのは先輩じゃないですか!」


涙目で抗議する後輩に、凛はふふっと笑みをこぼした。


「ごめんごめん。でもね、美織ちゃん。あのゲームにおける『特許』の仕様を思い出して」


「特許の仕様……?」


「そう。特許を取得すると、その技術の概要はシステム上で公開されてしまうの。つまり、現実の化学知識を持っているプレイヤーなら、公開された情報を元に類似品を作ったり、さらなる応用特許を取ったりすることが可能なのよ」


凛の瞳の奥に、仕事中には決して見せない、冷たくも熱を帯びた光が宿る。


「私の『黒色火薬』や『衝撃起爆』の特許は、もう全プレイヤーが見られる状態にある。いずれ誰かが真似をして、市場を食い荒らしに来るわ。……だから、そうなる前に」


「前に……?」


「新しい属性の魔石を片っ端から手に入れて、あらゆる爆薬の基礎特許を独占するのよ。だから、今日の夜も忙しくなるわよ、美織ちゃん」


「ひぃっ……!」


美織は、目の前の頼れる先輩が、とんでもないマッドサイエンティストに見えて思わず後ずさった。


***


【現実:2026年10月2日(金)夜】


「というわけで、第3エリアですわ!」


広大な荒野が広がる第3エリア。

金髪の縦ロールを揺らす6歳の幼女、シャルロッテは、可憐なドレスの裾を土で汚すことも厭わず、手頃な木の枝を使って地面にせっせと穴を掘っていた。


「……あの、シャルロッテさん。今回は一体何をしているんですか?」


鞄の底で休まっていた鉄の剣を背負い直しながら、ミィが恐る恐る尋ねる。

その視線の先、荒野の中央には、巨大な岩が寄り集まったような姿のエリアボス『土の精霊』が、ズシンズシンと足音を鳴らしながら徘徊していた。


「ボスの『お出迎え』の準備ですわ」


「お出迎え?」


シャルロッテは掘り終えたすり鉢状の穴の底に、その辺りで拾ってきた大きく平らな石を敷き詰めた。

そして、鞄から取り出した赤い粉末——第1エリアで大量に生産した『火属性魔石の粉末』を、その石の上に均等に流し込んでいく。


「ミィもご存知の通り、火属性魔石の粉末は極めて衝撃に敏感ですの」


『ニトログリセリンと同等の反応速度を持つからね』


「この穴の底には硬い石盤を敷き詰めてありますから、爆発のエネルギーは下へは逃げられず、上方向へと一極集中しますわ。上に薄く土を被せれば……『指向性地雷』の完成ですわ!」


「地雷……!? ってことは、あれを踏ませるんですか!?」


「ええ。というわけでミィ。あそこでウロウロしているボスに石でも投げて、ここまで誘導してきてくださる?」


「ええええっ!? 私がですか!? 8歳のペラペラ装甲で、あんな巨大な岩の化け物のヘイトを取るんですか!?」


「大丈夫ですわ。この地面の印を踏まないように、まっすぐこちらへ走ってくるだけでよろしくてよ。さぁ、行ってらっしゃいな」


「鬼! 悪魔! お嬢様ぁぁぁ!」


ミィは涙目で抗議しながらも、渋々ボスの元へ走っていく。

手頃な石を拾ってボスの背中に投げつけると、土の精霊は「ゴルルルルォォォッ!」と雄叫びを上げ、ミィを標的に定めて猛烈な勢いで追いかけてきた。


「ひぃぃぃっ! 来ないでぇぇ!」


ミィは必死の形相で荒野を駆け抜け、シャルロッテが仕掛けた地雷のポイントをギリギリで飛び越えた。

直後。


ズドスンッ!


土の精霊の絶大な質量を持った足が、薄い土の層を隔てて「火属性魔石の粉末」を強烈に圧迫した。


『来るわね……!』


ドッゴォォォォォォォォォォォォン!!!!


地中深くで起きた強烈な爆発。

硬い岩盤によって下への逃げ場を失った爆発エネルギーは、凶悪な火柱となって真上へと吹き上がった。


「グォォォォォ……!?」


土の精霊は、下半身から真っ二つにへし折られ、粉々になって吹き飛んでいった。


ピロリン♪


《エリアアナウンス:第3エリアボス『土の精霊』が討伐されました! 討伐者:黒百合工房(匿名2名)。》


「はぁ……はぁ……死ぬかと思いました……」


ミィは遠い目をしながら、パラパラと降り注ぐ土砂を頭から被り、へたり込んでいた。


「素晴らしい威力ですわ! 指向性を持たせたことで、無駄な火薬の消費も抑えられましたしね!」


シャルロッテは軽やかなステップで爆心地へと駆け寄り、ゴロゴロと転がっている茶色い石——『土属性魔石』を素早く鞄へと回収していく。


「さぁて、ミィ! 今日はここからが本番ですわよ!」


「えっ……? ボス倒したのに、帰らないんですか?」


「ええ。先ほどの討伐で、土の精霊の『リポップ(再出現)地点』が完全に割り出せましたわ。なので、その地点の真下に同じ地雷を仕掛けておきますの」


シャルロッテはウキウキとした手つきで、先ほどよりさらに大きな穴を掘り始めた。


「リポップ時の重量と衝撃で勝手に起爆しますから、次からは誘導の手間も省けますわ。完全なる『出待ち(リスキル)』の完成ですわ!」


「……もうやだこのお嬢様。血も涙もない」


ミィが呆然と呟く中、シャルロッテは地雷のセットを終え、その場にしゃがみ込んだ。

これまでに集めた『土』『水』『火』『無』の全属性の魔石を鞄から取り出す。


「さて。地雷が勝手にボスを狩ってくれている間に、わたくしは大量の特許申請を行いますの。わたくしの頭の中にある妄想(レシピ)を、この世界の物理エンジンに叩き込んでやりますわ!」


シャルロッテの青い瞳が、狂気的な光を放つ。


「まずは……これですわ!」


シャルロッテは土魔石を粉砕し、そこに水魔石の粉末と、その辺の土を混ぜ合わせた。


『土魔石と水魔石の反応により、通常の土砂を結合させる! 水分と反応して水和物を形成し、数時間で硬化する……水硬性セメント!』


《システム通知:申請された物理法則の適用と特許が承認されました》


「次はこれですわ!」


今度は、土魔石の比率を極端に上げ、水魔石の粉末だけを混ぜ合わせる。


『セメントの応用! 土を含ませず、純粋な魔石同士の結合力を極限まで高め、硬化後に金属に近い強度と靭性を持つ素材とする!』


《システム通知:申請された物理法則の適用と特許が承認されました》


「ま、待ってくださいシャルロッテさん! なんかシステム音が鳴り止まないんですけど! 何を作ってるんですか!?」


ミィが慌てて止めに入ろうとするが、シャルロッテの手は止まらない。

彼女は先ほど作ったばかりの「セメント」の粉末に、「無属性魔石」の粉末を混ぜ合わせた。


『セメントと無属性魔石(黒色火薬)の特性を融合! 多孔質(微細な穴が無数にある状態)の性質を持たせ、液体を大量に吸収・保持できる素材とする! 珪藻土の代用品よ!』


《システム通知:申請された物理法則の適用と特許が承認されました》


「ふふっ……あはははっ! いける、いけるわ! やっぱりこの物理エンジン、理論さえ通っていればガバガバじゃない!」


シャルロッテは額に汗を滲ませながら、満面の笑みを浮かべていた。

そして、最も危険な調合に取り掛かる。

火属性魔石と水属性魔石の粉末を、慎重に、極めて慎重に混ぜ合わせる。


『火属性魔石の衝撃起爆性と、水属性の流動性を融合! ニトログリセリンと同等の破壊力を持ちながら、液状で極めて不安定な状態……液体爆薬!』


《システム通知:申請された物理法則の適用と特許が承認されました》


「ひぃっ!? なんか今、すごく嫌な匂いがしましたよ!? 液体爆薬って聞こえましたけど!?」


「ええ、その通りですわ。このままでは、少し瓶が揺れただけでも大爆発を起こす、最悪の代物ですの」


「最悪じゃないですか! 早く捨ててください!」


「ですから、安定させるのですわ!」


シャルロッテは、多孔質を持たせた「珪藻土の代用品」の粉末に、その極めて危険な「液体爆薬」をゆっくりと染み込ませていく。


「液体爆薬を、この粉末に吸収させますの。こうすることで、液体の不安定さが中和され、強い衝撃や熱を与えない限り爆発しない、極めて安全で扱いやすい『固体爆薬』になりますわ」


シャルロッテは、粘土状になったそれを棒状に形整え、紙の代わりに木の葉で包み込んだ。


『偉大なるノーベルの発明! 扱いやすさと絶大な破壊力を両立させた、近代化の象徴……ダイナマイトよ!!』


《システム通知:申請された物理法則の適用と特許が承認されました。特許第5号〜第9号が登録されました》


ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン……!


虚空から鳴り響く連続したシステム音。

それは、剣と魔法のファンタジー世界において、火薬による産業革命が後戻りできない段階まで進んでしまったことを告げる、終わりの鐘の音だった。


「……完成ですわ。これが『ダイナマイト』。竹筒爆弾とは比較にならない、本当の破壊の力ですの」


シャルロッテは、完成したダイナマイトを愛おしそうに頬にすり寄せた。


ドッゴォォォォォォォォォォォォン!!!!


その直後、二人の背後で巨大な爆発音が響き渡った。

一定時間が経過し、リポップしたばかりのエリアボス『土の精霊』が、見事に「出待ち地雷」を踏み抜いて爆散した音である。


ピロリン♪

《エリアアナウンス:第3エリアボス『土の精霊』が討伐されました!》


「あら、リスキルも完璧に機能しましたわね。さぁミィ、ドロップアイテムを拾いに行きますわよ」


「せ、先輩……もう、どこに向かってるんですかぁ……」


ダイナマイトを片手に優雅に微笑む幼女と、背後で勝手に吹き飛ぶボスの残骸。

へたり込んだミィの嘆きは、夜の荒野の風に吹かれて消えていった。

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