海岸制圧
二体目の巨人に対し俺は再度『ラグナレク』を放ったことにより、とうとう首下を砕くことに成功する。それにより制御を失ったようで、巨人はゆっくりと倒れ、動かなくなった。
巨人が倒れた衝撃によって砂浜が振動する中で、俺は幻獣達と交戦を開始する。どうやら彼らは俺に狙いを定め、集中攻撃で倒そうという心づもりらしい。
今までの経緯から考えると無謀にも思えるが……どうやら敵には何かしら策があった様子。
『狙いを定めろ!』
その声と共に海中から気配が。ふむ、巨人とは異なるもう一つの切り札といったところかな?
元々二段構えだったのか、それとも別に策を用意していたのかはわからないが、もう一つの手段を用いて俺を倒すつもりらしい。
ただ狙いと言っている以上、魔法攻撃が何かだろうな……で、すぐに仕掛けてこない。準備が必要ということか?
そういうことなら、こちらも考えがある……!
「――レスベイル」
俺は鎧天使へと指示を出す……ちなみに今まで何をしていたのかというと、いざという時に備えて隠れていたのだ。
具体的に言うと戦場の横手で待機していた。もし幻獣達に海岸線を突破されたら……あるいは後方で異変が生じたらフォローできるように。
今回は敵の切り札が海中に潜んでいるようなので、それを確かめに向かう……と、海に入った矢先魔力の高まりを感じた。レスベイルを通して見える視界には、魔法陣らしきものが。
『ふむ、海中から攻撃魔法を放つようだな』
ガルクが呟く。彼もレスベイルに魔力を宿しているため、それを通して見れるみたいだ。
『魔法陣を砕いてしまえば、効果はあっさりと失うだろう』
「ならさっさと片を付けよう……問題は、他に同じような仕掛けがあるかどうかだけど」
『おそらくなさそうだ。魔法陣に込められた魔力はずいぶんと高く、周囲に同じような魔力源はない……ルオン殿が巨人と戦う間に準備を進めていたのだろう』
逆を言えば、ある程度時間を掛ければ一兵卒クラスの幻獣でも強力な魔法を行使できるというわけか……ここで俺は魔法陣へとレスベイルをけしかける。周辺には幻獣もいたのだが、それらを魔力を込めた大剣を一閃することで吹き飛ばした。
水中で動きは鈍っているのだが、それは幻獣達もどうやら同じ様子。斬撃によって流され、こちらの行動を止めることはできなくなった。よって、レスベイルは魔法陣へ向け大剣を振り下ろした。
そして地面に刃を走らせた瞬間、異変が生じる。突如魔力が海中に弾けると、それが一挙に霧散していく。
『……何!?』
それは即座に海岸にいる幻獣達も感じ取ったらしく、声を上げる者がいた。
「さすがに何かしているとなったら、こっちだって手を打つさ」
俺の言葉。それにより幻獣は理解したか、
『海中に刺客を放ったか……』
「さすがに一方的な攻撃が来る場合は対応の一つもするさ……で、次はどうするんだ?」
問い掛けに幻獣は答えない。いや、答えられないかな?
さて、作戦では海岸線で俺が食い止める間に防戦の準備を進めるというのが基本方針だったのだが……幻獣達は俺を倒さなければ島を制圧できないと判断しているのは間違いなく、このまま玉砕覚悟で向かってきそうな気配。
さらに現状、目の前の幻獣達の力量は概算ながら把握できたので、滅することなく気絶させて対処することも可能。となれば、選択肢は一つしかないか。
すなわち、この場で幻獣達を制圧する。三体目の巨人はまだ海中にいるので、この調子なら陸に上がってくる前に止めることができるかもしれない。
敵達は魔法の切り札を失って浮き足立っている。ここを狙えば――
「来る気配がなさそうだから、こちらからいくぞ」
宣言と同時、幻獣は警戒したが遅かった。敵が対応しようとした時に俺は間近に迫り、一閃した。
加減した一撃ではあったが、見事に脳天を打たれ気を失う……魔力を調整すれば数時間くらいは目覚めないはず。もし全員気絶させたらデヴァルスなんかを呼んで魔法による拘束などをすればいいだろう。
続けざまに近くの個体へ剣戟を見舞い、吹き飛ばす。その体が他の幻獣に直撃し、砂浜に激突。動かなくなった。
いけそうだな……そういう結論に達した直後、一斉に幻獣が襲い掛かってくる。だが、全てが遅かった。
「ふっ!」
剣を薙ぐ。それに伴って生まれたのが光の刃。本気を出せば周囲の幻獣を吹き飛ばすどころか一瞬で滅するほどの威力を出せるわけだが……加減して気絶させるくらいに留める。これにより突撃を仕掛けた個体が例外なく吹き飛ぶ。地面に激突し大抵は動かなくなるが、どうにか態勢を立直そうとよろめきながら動く者もいる。
申し訳ないがそういう面々に俺は追撃で剣を食らわせつつ……残る幻獣を見据える。
「やる気はあるみたいだな……いや、何の成果もなく戻れないって感じか?」
幻獣達が一斉に吠える。俺の能力により絶望的な戦いとなったが、自らを鼓舞するように……特攻を始めた。
それに俺は律儀に応じる。好都合だと思いながら、戦いに没頭することとなった。
結果、一時間ほどだろうか。砂浜にいる敵を全員気絶させることに成功した。
それをデヴァルスも察知したようで、作業を終えた直後にやってきて魔法による拘束を部下の天使達と共にやり始めた。
「力量はそれほどでもないため、まあ半日くらいは拘束できるだろ」
「そっか……問題は三体目の巨人だが……」
指示をする個体すらいなくなったためか、海中にいるのは間違いないがこちらへ来ない。
「来ないのなら放置でいいさ」
デヴァルスはそう答えた後、俺へ体を向けた。
「幻獣テラとの連絡はついさっきついた。やはりこれは予定外の出来事らしく、こちらへ全速力で向かっている」
「問題はここからどうするのか、だな」
幻獣ルグは次にどういう手を打ってくるのか。そして俺達はどうすべきか。
「そこについては幻獣テラが現われてから、だな」
デヴァルスは結論を述べると、海へと視線を向けた。
「幻獣ルグがさらに仕掛けてくるのではあれば、厄介なことになる……ただここまで好戦的なんだ。仕掛けてくる可能性は高い」
「そうだな……」
交渉により平和的に情報などを得られると思っていたが一転、良くない方向に話が進み始めてしまった。ともあれまずは幻獣テラを待つしかない……天使達が作業をするのを眺めながら、俺はこれ以上悪くならないよう祈るばかりだった。




