新たな来訪者
戦いが終わって数時間後、幻獣テラが島へとやって来た。
『正直、このような事態となって驚いている』
「予定外の展開で間違いないか?」
『無論だ。正直こちらはどう対応すべきか困惑している』
……元々、幻獣テラからこちらへ話をしないかと打診したわけだし、その流れから急に造反者が身内から出たのだ。こういう言及が出るのは致し方ないか。
「その辺りのことについては仕方がないとして、問題はこれからだ」
告げるのはデヴァルス。テラもまたそれに頷き、
『うむ、幻獣ルグがどういう考えを抱いてこのような事を起こしたのか……その真意を確かめる必要がある』
「ここから幻獣ルグのすみかまでどのくらいだ?」
『一番近い島なのだが……こちらの魔法を利用すれば数時間程度だな』
時速でどのくらい出るのかわからないが、一番近い島とのことなのでそう離れているわけではなさそうだな。
そして一番近いからこそ、他の幻獣からの介入をされないまま、攻撃を仕掛けることができたのだろう。
「ふむ、一番近い島か」
口元に手を当てデヴァルスが考え込む。そんな様子に首を傾げたのはソフィア。
「どうかされましたか?」
「いや、一応何かないのかと周辺海域を部下に命じて索敵させていた。さすがに海中までは確認していなかったため、幻獣達をこの島に上陸させてしまったわけだが……この島から一番近い場所にある陸地……そこから魔力反応があるんだよな」
「魔力……ってことは、まだ何かしら用意していると?」
「そう解釈して構わないかもしれない。さすがに幻獣達を刺激してはまずいってことで、詳細は何なのか探ってはいなかったんだが」
「その索敵がバレて、こちらに先制攻撃を仕掛けた、とかは?」
俺が推測を述べるとデヴァルスは「うーん」と唸り始める。
「あり得ない話じゃないが……幻獣テラ、どう思う?」
『可能性はゼロではない。ただ人間達に動きがあってもまずは報告し、刺激しないよう通達はしていた……仮に気付いていたとしても、警告一つ送れば済む話だ。わざわざ兵力を整え、さらに強固なしもべを生み出す必要性はどこにもない』
テラの言う通りだな。巨人の存在はあきらかに殺意を伴っていた。
「ちなみにだが」
と、デヴァルスはさらに続ける。
「魔力の高まりについては時間が経つごとに大きくなっている……現在進行形の事象だから、放っておくと輪を掛けて面倒事になるかもしれない」
「止めるには幻獣ルグのすみかに踏み込むしかないが」
『……まずはこちらが様子をみよう』
と、幻獣テラが提案。
『何はともあれ理由を訊かなければならない。こちらで事情を訊く故に、少しばかり待ってはもらえないか』
その声音は、懇願するような雰囲気のもの。
『突然このような形で攻撃を受け戸惑っているのは理解できる。中には怒っている者もいるだろうが……ひとまずこちらに任せてもらえないだろうか』
身内の不始末は身内で、ってことだろうか。テラとしても交渉の場を用意した手前、面目というものがあるだろうし。
「わかった。ただし状況については逐一報告を入れてくれないか」
『いいだろう。ではここで待機していてくれ。時間は……半日もあれば事足りる』
そう述べた後、テラは島を去る……さて、どうなるか。
「考えられる話の流れは三通りだな」
と、デヴァルスがふいに口を開いた。
「テラからの話を受けて幻獣ルグが攻撃を止める。ただ相当な力を注いだと思われる存在まで作りだした以上、説得で止まるとは思えないが」
「もう一つはテラとの話し合いは不調に終わり、再び攻撃を開始する……ただこうなってしまうと幻獣テラと敵同士になってしまうけど」
「幻獣同士で仲間割れが発生するな」
それは個人的に避けたい展開なんだけど……。
「三つ目は?」
「幻獣ルグと幻獣テラが戦う」
「戦う?」
「ルグ側に強固な理由があったとしたら、幻獣同士で戦うことも辞さないって可能性はありそうだからな」
確かに……しかしそうなってしまうと――
「幻獣が棲まうこの場所が、戦場になってしまいますね」
ソフィアの言及。デヴァルスは首肯し、
「もっとも、既に始まっていると言えるかもしれないが……さて、島の周辺の索敵をもう少し注意しつつ、待つことにしよう。ルオンさん達は一度建物に戻ってくれ。たたき起こされたわけだから、二度寝も良いぞ」
語りながら俺達を建物へと促す。ひとまず俺達から動けることは何もないし、体を休めて不測の事態に備えることしかできないな。
そういうわけで俺達は海岸を離れることになったのだが……事態はさらに複雑になっていく――
昼頃、幻獣テラの連絡が入る前に、来訪者の連絡が天使から入った。その存在は俺やソフィアと顔を合わせたいらしい。
「どういうことでしょうか?」
「さあな……なんだか予想外のことばっかりだ」
最初に顔を合わせた天使によると幻獣だと自己紹介して名乗らなかったらしいけど……で、肝心の見た目については――
「あ、いた」
海岸にぽつんと佇む人物――そう、人間だ。革鎧っぽいものを身につけているけど、たぶん魔力で作った物だろう。
俺とソフィアは無言で近づく。ちなみに周囲には天使が隠れている。デヴァルスは帯同していないけどこの海岸をどこかで見ているだろう。警戒してのことだ。
「よう、あんたが英雄さんか?」
接近すると相手が口を開く……ニカッと笑うその姿は好印象。殺気なんてものも存在せず、陽気な気配だけが存在していた。
顔立ちは一言で表せば爽快。髪は黒く立つほどに短い。ただ雰囲気としては格好いいとか優しげとかではなく、ワイルドという表現が似合いそうな感じだ。
「朝っぱらから大変だったらしいなあ。そんな中でこうやって来訪したわけだから間が悪いのはわかる。だから周囲にいる天使様については何も言うつもりはないぜ」
「朝の一件がなくてもここに来るつもりだったのか?」
「そうだ。島に案内するより前に、顔を合わせておきたくてな」
――この時点で誰なのかは既に確信していた。というより人間型の幻獣である以上、
「……幻獣、ジンなのか?」
「ああそうだ。当人だぜ」
次は幻獣ジンの出番か……果たして何用なのかと思い尋ねようとした矢先、彼の方から口を開いた。




