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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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神霊の警告

 そこから準備は進み……というか俺はほとんど何もしていないのだが――とうとう出発の日を迎え、俺達へ無人島を目指して移動することになった。


「ソフィア、気をつけて」

「はい」


 クローディウス王に言われ、ソフィアは元気よく返事をする。

 移動手段はガルク達が作成した幻獣……というのも、最初はクロワが作成する竜か何かにしようと思っていたのだが、数も多くなるし制御できないだろうということで、神霊達がそうした存在を生み出すこととなった。


「それでは向かうとしよう」


 ガルク――といっても人間かつ少年バージョンの彼が先導する。さすがに城内へ幻獣を入れるわけにはいかず、山の方で待機させるような形に。

 そして魔界へ赴くメンバーだが、まず俺が呼び寄せた面々に加え、クローディウス王が選定した面々。そして他国から要請に従い参加してくれた面々……その中にはアラスティン王国で共に戦った騎士、アティレが混ざっていた。


「よろしくお願いします、ルオン殿」

「ああ、こちらこそよろしく」


 他は手が離せないなど、色々と理由があって参戦はできなかった……のだが、クローディウス王によると感触は良かったらしい。おそらく『神』との戦いでは色々と協力してくれるのでは……そういう感じだったとのこと。それならそれで非常に嬉しい。今後につながると言えそうだ。


「ガルク、他の精霊とかは?」


 山へ向かう最中、俺は前を歩くガルクへ尋ねる。この場にはいない。ちなみに天使リリトなどもデヴァルスの所へ独自に向かった。


「先んじて無人島へ向かっている。フェウスやアズアも同様だ」


 ということは無人島へ到着したらすぐさま魔界へ行けそうだな……なんとなくクロワに視線を移すと彼は苦笑し、


「正直、僕に制御できるのか不安になるな」

「そっちがこの手法を思いついたんだから頑張ってもらうぞ」

「わかっているさ」



 やがて山の麓に到着。といっても周囲は木々に囲まれていて、遠くから状況を窺うことは無理だろう。


「準備できているな」


 ガルクが言う。真正面……そこに、白い竜が何頭もいた。

 大きさはクロワが作ったものとほぼ同じか少し大きいくらい。大人数ではあるが数が多いので俺達を運ぶには十分だろう。


「……ここで最後の警告をしよう」


 ふいに、ガルクが発言する。


「この場に来た者達は、今回の戦いがどのようなものかしかと認識し、また了承したからこそ立っている。そしてこれは英雄ルオンとソフィア王女二人の総意でもある」


 そう前置きをしたガルクは、俺達を一瞥した。


「けれど、大なり小なり魔の者に手を貸すことに抵抗を持つ者もいるだろう。だがそれは今回戦う魔族の付け入る隙となる。私達は他ならぬ魔族と手を組み、彼を助け平和な世界を得るためにこうして戦うこととなった。よって、少しでも引っかかりを覚える者がいたら正直に手を挙げてくれ――英雄ルオンやソフィア王女のために」


 質問に、誰も応える者はいない。魔族と手を組むこと……それがどういう意味合いを持っているのかわかっているとでも言いたげだった。

 ガルクがこうやってこの場において話をしたのは、連携に失敗することで兵器破壊に支障が出る恐れがあるからだろう。今回の作戦はそれこそ迅速かつ確実に行わなければならないもの。そのためには俺達が一致団結して臨まなければならない。


 精霊達もそれがよくわかっているわけだ……しばし沈黙を置いた後、ガルクは息をついた。


「覚悟はあるようだな。もし躊躇うような所作を見せたら、その場に置いていく可能性もあるから注意してくれ。ルオン殿」


 彼は俺に言葉を向ける。


「ルオン殿もそれについては理解しておくことだ。敵の敵は味方などという言葉も存在しているが、今回の戦いはそこからさらに複雑だ。少しのミスが命取りとなる」

「ああ、俺も認識しているよ」

「ならば相応の覚悟を持って任務に当たってくれ……クロワ殿、これでいいか?」

「気遣いありがとう。こちらとしては十分過ぎるくらいだ」

「では……移動を始めよう」


 ガルクが言い、俺達は幻獣に乗る。全員が背に乗った後、大きく飛翔した。


「この獣たちは、結界を発し周囲から気配を隠す。町の人が見て混乱するようなことはない」


 そうガルクは捕捉する。そして竜は一気に速度を上げ――都から離れることとなった。






 幻獣の移動速度はクロワが生み出した竜と比較しても速く、あっという間に大陸を抜け出て海上に。その後も速度は一切変わらず……これならあっという間にたどり着けるだろう。


「他の大陸から来る面々は、無人島周辺にはもう集まっているのかな?」


 ふいに俺が呟くと、答えは近くにいるガルクから返ってきた。


「全部とはいかないだろうが、ある程度は既に来ているはずだ。天使達が到着しているのは確定だろうか」

「デヴァルス達か……たぶんそこでレスベイルに天使の力を結集した武具を与えることになるだろうな」


 今回の戦いで役に立つかどうかは不明だけど……いや、武具を使うことにならないようにしないといけないんだけど、な。

 そうして移動する間は、基本的に誰もが無言。時折雑談が混ざるけど、緊張しているためかあまり会話は進まなかった。


 ガルクの言葉もそうだが、魔界へ行くということでさすがに緊張しているようだ。こちらとしては大丈夫だと声を掛ければいいのかもしれないが……何も言わないことにした。ここでフォローをするのはまだ早いと思ったからだ。

 飛行をし続け、ひたすら海上を進んでいくのだが……この速度で無人島を捕捉できるのかは気になった。神霊達の仕事なのでそう問題にはならないと思うが、この大人数で無人島が見つからず遭難とかになると笑えない。


 そんな風に思いはしたのだが……俺の懸念は取り越し苦労だったようだ。


「――ルオン様、見えました」


 ソフィアが言う。前方に視線を向けると、真正面に島が見えた。

 遠方からはそこが目的の無人島なのか最初はわからなかったのだが……やがて島の周囲に天使がいることを確認すると、あそこが目的地なのだとわかった。


「あっという間だったな……クロワ、いよいよ戻ることになるぞ」

「配下が心配しているはずだ。まずは合流したいところだが、果たして上手くいくかどうか」


 クロワの言葉に俺は小さく頷きつつも、


「ともあれ最大の懸念である説得は上手くいったんだ。自分の庭とでも言うべき魔界での活動は配下もいるし、不安がっていてはどうしようもないな」

「その意気だ……そして俺は魔界へ赴く前にやっておくべきことがある」


 程なくして島に到着。そこで既に野営の準備を済ませた天使達と合流した。


「ようこそ、魔界の入口へ」


 出迎えたのはデヴァルス。俺はその口上に笑い、


「来てくれてありがとう……さて、リリトから聞いたんだが」

「ああ、レスベイルの強化だろう? まずはそれからやろうじゃないか」


 彼は手で示す。砂浜の一角。そこに魔法陣が存在している。


「真価を発揮することになるかどうかはわからないが、やっておいた損はないさ」


 言いながら俺を魔法陣へと促す。俺はそれに頷き返し、砂浜を歩き出した。


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