王女への提案
エイナから話を受けて数日後、俺はソフィアの部屋を訪れて一緒にお茶を飲むことになった。なお二人きりではなくロミルダとアンジェが同席する。組織に所属するであろうメンバーも誘ってみたのだが、エーメルとの訓練があるということで来なかった。やる気があって何よりだが、ずっとこの調子が続くのだろうか……と思ったりもした。
「そう遠くない内に準備も整い、魔界へ向かうことができるでしょう」
ソフィアの言葉に俺は首肯し、いよいよだと思う。
「何はともあれ、戻って以降スムーズに物事を進められて良かったな」
「はい、そうですね……ただ今後、ルオン様にはご迷惑をおかけすることになると思いますが」
「クローディウス王が最大限のフォローを入れてくれた以上、こっちも色々とやらなきゃいけないのは自覚しているよ。ソフィアは懸念する必要はないから」
「そうですか……」
と、彼女は俯く。何か気になることがあるのかと思い、少しして魔界の戦いが終わった「その後」のことについてどうなのかというのを思い巡らせたのかもしれない。
具体的に言うと婚約の件である。立場的にどうなるのかわからないなあ……で、俺とソフィアの関係性がどうなるのかについては――まあ、うん。
「アンジェもここの生活には慣れたか?」
話を変えてアンジェに質問。彼女はコクリと頷いた。
「それは良かった……ただ、あれだ。慣れてもらって申し訳ないけど、準備が整えばここを離れることになってしまうけど」
大丈夫だと言わんばかりにアンジェは再度頷いた。ちなみにロミルダとの関係も良好で、二人が並んで歩く姿を城内で幾度か目撃している。仲も良くなったようだ。ただ魔界の戦いが終わって会えるかどうかは……俺達がどうにかすればいけるかな。彼女達のような関係性は貴重だし、また未来のためにも重要だろうし……関係を途切れさせたくはない。
「しかし、お父様が提案した組織作りについては妙案だったと思います」
ふいにソフィアが語り出す。
「この手法は今までの問題の最適解と言えるものでしょう。ただ私やルオン様が提案しても受理されなかった可能性が高い。お父様が提言したからこそ、採用されたように思えます」
「そうだな。国王の意見である以上は重臣も無下にはできないし……まあなんというか、俺達が魔界にすっ飛ばされていなかったらこういう結果にならなかったかもしれないな」
「怪我の功名というものでしょうか?」
「色々な人に迷惑掛けたし、正直その言葉で終わらせていいものか疑問だけどな……」
返答しながらお茶を飲む。ちなみにレモンティーである。
「全てが終わったら、何か恩返ししないといけないでしょうか?」
「あー、そうだな……といっても国の人からは政治的な活動をしてくれと言われるだけの気もする」
その言葉でソフィアは苦笑。否定できないのが悲しい。
「けどまあ、ここまでバックアップしてくれるわけだから、やらないといけないか――」
そこまで言って、俺は一つ気付いた。
「もしや、クローディウス王は……」
「お父様はどういう考えなのかわからないですけど、結果的にそういう形になっていますね」
――つまり、俺のバックアップをするわけだから、それに報いるべく全てが終わったら頑張ってくれ的な。王様がそこまで打算的とは思えないけど、ソフィアの言う通り結果としてそうなってしまっている。
「……ソフィアと婚約した時点で俺は国側だと思っているんだけど」
「そうかもしれませんが、重臣としては色々資本を提供したから仕事を……という理由付けができていますね。仕事をしてくださいね、という説得要因が欲しかったのかもしれません」
め、面倒くさい……ま、まあ俺自身別に城に入ったからといって贅沢三昧なんてするわけもないし、国側の取り越し苦労なのだが……それで不安が払拭されるのなら、それはそれでいいか。
「ひとまず乱暴に扱われることはないようなので、それで安心しておくか……で、ソフィア。一つ気になったんだけど、魔界での戦いが終わったらしばらく城にいるわけで、こちらの組織の方に顔を出すことはあるだろうけど……基本、あんまり城内の人は行ってほしくないんじゃないのか?」
そんな疑問にソフィアは渋い顔をした。そうした表情は珍しいのでなんだか面白く感じてしまう。
「たぶんそうだと思いますが、私としてはできればそちらの方に軸足を移したいです」
戦いに関わりたいという思惑があるのだと思うが、きっとそれ以上に――彼女自身、この城での暮らしを続ければどうなるかわかっているためだろう。
ソフィアは不謹慎だと思うかもしれないが、魔王を討つための旅に加え、そこから『神』について調べ始めた旅……それらは彼女の心を鮮烈に打った。俺と出会う前だって密かに城を脱けだして色々動き回っていた王女様だ。旅がどういうものなのかを知り、城の中にいても退屈極まりないことをはっきり認識してしまったのだろう。
クローディウス王もその辺りわかっていそうだよな……さて、俺はどういう立ち位置で喋るべきか。
彼女は色々な意味でパートナーであって欲しいとは思う。けれど王女としての責務だって果たさなければならない。
少し考え……俺は、口を開く。
「あー、ソフィア。まず俺としてはきちんと王女としても役目を全うするべきだとは思っている。それはソフィア自身も自覚はあるよな?」
「はい、そうですね」
「なら当面の間……といってもどのくらいになるのかわからないけど、ある程度の時期は腰を落ち着けよう。俺達も『神』について情報が少ないため、その辺りを調べる必要だって出てくる。正式に『神』が動き出すタイミングを捕捉するのは難しいけど、現状その指針となる出来事はまだ発生していないから時間自体はあるし」
「そう、ですね」
「そんな不満そうな顔をしないでくれよ……」
ソフィアは誤魔化すように笑う。可愛いと思ってしまい説得を止めたくなるけど、ここでこっちが引いてしまったら元の木阿弥である。ここは心を鬼にして、
「ソフィアが組織とどう関わっていくかについては、クローディウス王とも相談するということにして……今後デヴァルスが持ってくるであろう仕事についてとか、やること自体はありそうだから、その場合どうするかについてはその時に決めよう」
「わかりました」
ひとまず納得した様子。ただこの調子だと結構な頻度で城から出そうだよな……まあそこはエイナに頑張ってフォローしてもらおう。
そういうことでソフィアのことも落ち着き、後は準備完了の一報を待つだけとなった。




