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第14話 もう1人のファン

「大丈夫か、和彦?」



てめーに心配されても嬉しくない。



その目はそう言っていたが、残念ながら言葉にはならない。

それでも、以前とは違って目に力があるから心配ないだろう。


もっとも、武上も本気で心配している訳ではないのだが。


「自業自得だ。胃が弱ってるのに病院抜け出して、

中華料理なんかたらふく食った罰だ」

「・・・」

「スケジュール調整で走り回ってる山崎さんに、後で謝っとけよ」

「・・・」

「和彦さぁ~ん。大丈夫ですか?」

「・・・」


呆れ顔の武上の横で、本気で心配してくれている寿々菜が今ばかりは天使に見える。


そう。和彦は既に全快・・・しているはずが、

自業自得の中華料理で再び胃を壊してしまい、まだ退院できずにいるのだ。

ちなみに今和彦が言葉を発せられないのは、

腹痛のせいではなく、坂井医師がペンライトで和彦の口内チェックをしているからである。


「はい、口閉じていいですよ。口内炎がいくつかできてますね。

栄養不足だからこれは仕方ありません。我慢してください」

「おい・・・結構痛いんだぞ、これ」


ようやく口を閉じれた和彦が、頬をさすりながら言う。


「一応塗り薬は出しておきますね。森下さん、後でさしあげて」

「はい。じゃあ岩城さん、今度はお腹診ますから、ベッドに横になってください」

「へえへえ」

「早くして下さい。坂井先生は他の患者さんも診ないといけないんですから」

「・・・」


和彦の本性を知ったからなのか、

元々興味本位だっただけだからなのか、

森下のKAZU熱はすっかり引いてしまったようで、すっかりビジネスライクである。

これで寿々菜も一安心、

は、できないようだ。


「・・・誰ですか、あなた」


寿々菜が睨んだ先には、美貌の看護婦が立っていた。

その綺麗な黒髪を右耳の下で緩く束ねているのは、バレッタではなく紺のゴムだ。


「高井戸です。もちろん」

「・・・眼鏡は?」

「コンタクトにしてみました。KAZUさんがその方がいいと言うので」

「・・・バレッタは?」

「大切にしまってあります」

「・・・」


変われば変わるものである。

髪を後ろでひっつめていないので、もう目も釣りあがっておらず、

化粧も変えたのか、以前より若く見える。

そして何より、そのキラキラした瞳が一番の変化だ。


「私も、KAZUさんの一ファンであることをやめたんです!」

「・・・」

「せっかく神様がKAZUさんと知り合う機会を与えてくださったんですから、

これからはそれを活かして頑張っていきます」

「・・・」

「あ、でももちろん入院中は看護婦としてKAZUさんに接しますから、ご心配なく、スゥさん」

「・・・」


ご心配ありまくりである。

こんな女が和彦の周りをうろついていては、

寿々菜はおちおち寝てもいられない。


しかしもちろん和彦は悪い気はしない。


「おー。じゃあかおる、俺が復活したら百合のお礼に飯でも食いに行くか」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「ダメです!てゆーか、薫って誰ですか!?」

「だから、私です」


まあとにかく大団円である。

だが、気になることが一つある。


「そういや、森下。

門野プロにバイトに来てた江守と、俺が運ばれた病院の看護婦のお前が恋人なのは、

単なる偶然か?つーか、江守は何者なんだ?」

「偶然じゃありません。岩城さんが倒れた時、彼が私に『美由紀のとこの救急車、すぐによこしてくれ!』って電話してきたんですから。

119番だと病院をたらい回しにされる可能性がありますからね。

彼なりに考えて、私に電話してきたんだと思います」

「なんだ。気が利くじゃん、江守の奴」

「そうですよ。それに彼は何者でもありません。ただの大学生です。

あ、でも私の恋人じゃありませんよ?」

「そうなのか?じゃあ単なる友達かなんかか」

「いいえ。兄です」

「・・・」


やはり勘が鈍っているのか、

和彦は見抜けなかったことに若干ショックを受けた。

更に。


「兄にはちゃんと恋人がいます。刑事さん達が探してた時は、

たまたま彼女の部屋に泊まりにでもいってたんでしょう。それに、」

「私は結婚してる、でしょ?」


武上が森下の言葉を引き継ぐ。

森下は少し驚いた顔をしたが、和彦は少しどころの騒ぎではない。

寿々菜は言わずもがなだ。


「はあ!?お前、結婚してたのか!?俺の誘いに乗ろうとしてたくせに!?」

「あれはお遊びです。さすが刑事さんですね。お気づきでしたか」


武上は和彦を横目でチラッと見てニンマリと笑ってから、

森下の左手を指差した。


「薬指に指輪の後がありますね。離婚したばかりで指輪の跡がついているとも考えられますが、

先日より跡が濃くなってる。つまり、普段は指輪をつけていて、仕事の時だけはずしてるってことです」

「なるほどー」

「武上さん、すごーい!シャーロックホームズみたい!」

「いえいえ、寿々菜さん。容疑者が結婚してるかしてないかは、

捜査の上で大切ですからね。こういうことには敏感なんです」


おもしろくない。

何度も言うが、いつもはこういうことは和彦の役目なのだ。

全くもって面白くない。


和彦は坂井に聴診器をあてられながら、口を尖らせた。

江守譲りの仕草なのだが、癖になりそうである。


「あはは、おもしろくなさそうですね」


坂井がワイワイ騒いでる寿々菜たちに聞こえないように、小声で言った。


「・・・まーな」

「人間、やっぱりきちんと食べないと、身体だけではなく脳にも栄養が回りません。

だからいつも通りに思考はできないんですよ。退院したら、すぐに元通りになりますから、

心配の必要はありません」

「坂井・・・お前、いい奴だな。あいつらと違って」

「あはは」


坂井が、寿々菜たちがこっちを見ていないのを確認する。


「実は、僕もKAZUファンなんです」

「は?」

「インターネットに『KAZUが入院してる』と書き込んだのは僕です。

他のファンが知らないKAZUの秘密を暴露したくって、思わず。すみませんでした」

「・・・」


坂井は和彦に小さくウインクを飛ばした。



世の中、色んなファンがいるもんである・・・。








―――「アイドル探偵 8 死のバレンタイン編」 完 ―――








最後まで読んで頂きありがとうございました♪

いよいよ「アイドル探偵」の書き溜めがなくなってしまいました(´д`;)お話は色々考えてるんですが、書く時間が・・・。

書け次第、第9弾も連載していきますので、引き続き応援よろしくお願いいたします!

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