『蒼太さんは真剣にそっちの道を考えてもいいのでは?』
そうして迎えた文化祭当日。
朝から学校全体がいつもと違う独特の雰囲気に包まれていた。
校門から昇降口までの間には様々な出店や運営のテントが設置され、廊下を歩けばあちこちに貼られたポスターや立て看板。お化け屋敷や喫茶店に魔改造された教室など。
そんな中、蒼太達の教室では――。
「……なんか、人数少なくない?」
ましろがそんなことを言った。
しっかり飾り付けや準備も終わり、後はお客様を迎えるだけ……という状態なのに、肝心の接客役の女子達がやけに少ないのだ。
そんな時、パタパタと職員室の方まで事情を聞きに行っていた千尋が戻ってくる。
「たいへんたいへん! 今来てないメイド役の子達、食あたりで学校来れないって!」
「ええっ!?」
「昨日、準備終わったあとに集まって打ち上げみたいなのしてたらしくて。その時にみんなで食べてたやつに当たったっぽい」
「ええ……」
「マジか~」
ざわざわと、にわかに教室内が慌ただしくなってくる。
「え、これ人足りなくない?」
「ホントごめん! 裏方メンバーも接客回ってくれない?」
そうやってざわざわしている中で、ましろは強張った顔で固まっていた。
ちょん、と。無意識なのか蒼太の制服の袖を摘まんでいる。
そしてそんなましろの元に、千尋が小走りに駆け寄ってきた。
「ホントごめんましろちゃん。そんな訳なんだけど、接客お願いできたりしないかな? 今ホントに人数足りなくて」
「え……やだ、むり……」
ふるふると、ましろは首を横に振る。
「だよね……ごめん、気にしないで」
「でもどうしよ……」
「他のクラスから助っ人借りれない?」
千尋も一回断られると、それ以上は言わなかった。
ましろがそういうことに慣れていないというのはみんなわかってるのだろう。誰もとやかく言う人はいない。
だが唯一……。
「あ……えと……」
当のましろだけは、迷うように視線をウロウロさせていた。
さっきは反射的に断ってしまったが、このままではせっかく頑張って準備した文化祭が台無しになってしまうかもしれない。
でも、やっぱり恥ずかしい。それに怖い。
接客なんてしたことないし、もし出しゃばって失敗したら……。
そうやって迷っていたましろの手を、蒼太はそっと握った。
「ましろは、どうしたいの?」
ちょっと気取った言い方だったかもしれないけれど、ここはましろの背中を押してあげるべきだと思った。
「わ、私は……」
「あんまり気負ったりしなくて大丈夫だと思うよ? これは文化祭なんだし、ちょっと失敗したって誰も気にしないよ」
蒼太はニコッと笑って、あえて軽い調子で言ってみた。
ましろはそんな蒼太の態度にしばらく口をモゴモゴさせて、意を決したように口を開く。
「あ、あの!」
ましろは頑張って声を張る。
「え? どうしたのましろちゃん……もしかして!」
「う……うん。その……上手くできるかわかんないけど……それでもいいなら、私もメイドやっても……」
「ホントに!? きゃーありがとうましろちゃん! いや実際本気で困ってたから助かる~」
「うん……た、ただその……えっと」
ましろは震える手で蒼太の方を指差した。
「そ、蒼太も! 蒼太も一緒にやってくれるなら……やっても、いい」
その言葉に、クラスメイト達の視線が一斉に蒼太の方に向いた。
「……はい?」
†
「……えっと、つかぬことをおうかがいしますが」
目をパチクリさせながら、いつになく他人行儀の口調で千尋が尋ねてくる。
「あなた、鳴上くんであってる?」
「いやあってるよ!? なんでそんな疑問形なの!?」
「いやだって……ねえ?」
千尋が振り返ってクラスメイト達の方を見ると、みんな一様に、あっけに取られたような顔で頷いていた。
蒼太は引きつった笑みを浮かべつつ、鏡に映った自分の姿を見る。
そこに映っているのは……どう見ても女子の、というか文句なしの美少女メイドさんだった。
以前、ましろと二人でなんやかんやあってラブホテルに入った時、これまたなんやかんやあってメイドさんの格好をしたことがあったけどまさか学校でもう一度やることになるとは……。
そしてクラスメイト達の反応も……。
「やっば……」
「可愛すぎない? 私普通に負けてそうなんだけど」
「待って待って、鳴上くんそっちの才能あるなんて聞いてない」
「これなら男子ってバレないんじゃ……?」
「いやむしろ男子って見抜ける方が少数派でしょ……」
周囲の女子たちがざわつく。
あと何人かの男子が「あれは男あれは男……」とか「そっちに行ったら戻れなくなる……」とかブツブツ言ってるのが微妙にこわかった。笑ってくれた方がまだマシである。
「でもさでもさ、実際こうして並んでみるとちっちゃくて可愛い新人メイドと、ハスキー声のお姉さんメイドって感じでめっちゃ絵になるよね~」
「わかるわかる。ましろちゃん、ちょっと鳴上くんの隣に寄ってみて~」
「う、うん」
そう言われ、とてとてメイド姿のましろが蒼太の横に並ぶ。
……不覚にも、鏡に映るその姿に蒼太も胸がキュンとしてしまった。
ツンツンした性格の後輩メイド……ましろのことをそんな風に思って見てみると、何だかもう庇護欲がすごい。
そんな時、千尋がぱんっと手を叩いた。
「はいそれじゃ、もう腹くくって開店準備するよー! 後はもうなるようになれってことで、みんな頑張ろ~」
そうして、蒼太達のクラスのメイド喫茶は開店した。




