10話『計画通り……』
また少し時間は流れて金曜日の夜。
アイから出されたミッションのこともあって、ましろと蒼太はカップルスタイル……ようするにましろが蒼太の足の間に座って、蒼太の身体を背もたれにするような体勢でゲームしていた。
「ちなみにこのワンちゃん、何のつもりで描いたの? なんか肩の部分に変なのついてるけど」
ましろが、画面の中を走り回っている黒い四本足の犬(?)を見て首を傾げる。
「……ケルベロス」
「けるべ……っ」
またましろが吹き出した。画面の中では三つの頭を持つ地獄の番犬ケルベロス……のつもりで描いた、なんか肩パットみたいなのがついた黒い犬がキャンキャン吠えている。
「ぷ……くくっ……。この肩パット犬がケルベロス……ぷふっ、あんた、絵の才能はともかくお笑いの才能はあるわよ」
「わ、笑わないでよ一生懸命描いたんだから」
「うんそれはわかってる。狙って描いたら出せない味だもんねこれ。……ふふ」
もうすぐプレイ開始から一週間経つが蒼太の絵の腕はあんまり変わらない。
ただそれが毎度ましろのツボにはまるようで、ましろの笑いをとることだけはできていた。
それに……。
「そもそもケルベロスとか、いきなりそんな難しいの描くんじゃないの。ああいう異形系って描き慣れてる人でもけっこう難しいんだから。大人しく狼とかにしときなさい」
そう言うと、ましろは蒼太の手を取る。
「動物を描く時はこうやって……」
ましろは蒼太の手を導きながら優しく教えてくれる。何だかんだ面倒見はいいのか、最初は渋っていた絵の指導も真面目にしてくれていた。
……それでもあんまり絵は上達してないのがちょっと申し訳なかったが。
(でも、こういう風にくっついてゲームするの、今日が最後なんだよね……)
現在のカップルスタイルでのプレイはアイから出されたミッションによるものだ。
明日からは普通にプレイすることになるだろう。それがちょっと……いや、けっこう寂しい。
決していやらしい意味ではなく、ましろとくっついてゲームするのはとても心地いいものだった。
ましろの体温を感じていると安心するというか、少なくともこうして触れあうことを許してくれる程度には信頼されてるのを実感できるというか……。
……幸せな時間……と言い換えてもいいかもしれない。
けれどそんな幸せな時間もついに終わりを迎えた。
「んー……そんじゃ、今日はそろそろ寝ましょっか」
日付が変わってしばらくした頃、ましろが伸びをしながらそう言った。
「……明日休みだから、もうちょっと夜更かししてもいいよ?」
「ん? 珍しいわねあんたがそんなこと言うなんて。でももう寝ましょ。というかあんたすでにだいぶ眠いでしょ。線がさっきからヨレヨレよ?」
ましろの言うとおり、さっきから意識が飛び飛びになってきたしプレイミスも増えてきた。
けれど……名残惜しい。もうちょっとだけ、ましろと触れあえる時間を味わいたい。
蒼太はそんなことを思っていたのに、ましろはあっさり立ち上がる。
「とにかくこれでおしまい。続きはまた明日にしましょ」
「あ、うん……」
そう言ってましろはあっさりと部屋に引き上げてしまった。
(こうやってくっつくのが好きなの僕だけで、ましろは何とも思ってないのかな……)
頭では、そんなことを望むのは高望みだとわかっている。けれどやっぱり、ほんのちょっと寂しくて、蒼太は小さくため息をつくのだった。
†
土曜日の朝。
「よし、朝ご飯食べたら今日もゲームするわよ。この土日で進められるだけ進めるからね」
「う、うん。わかった」
蒼太は一週間ぶりの休日。この土日は思いっきりゲームができると、ましろも張り切っている。
(でも……今日からは普通の体勢でゲームをするんだよね)
アイから出された『カップルスタイルでゲームする』というミッションは昨日で終わってしまった。
もちろん、ましろと普通にゲームできるだけでも嬉しいのだけど、やっぱりちょっと寂しい。
一瞬、『これからもカップルスタイルでゲームしたい』と提案することも頭をよぎったが、それだけはダメだ。
むしろ「キモい……」と距離をとられる未来がありありと想像できる。せっかく最近ちょっと仲良くなれた気がするのにそれだけは絶対ダメ。
ため息をつきつつ、蒼太が床に腰を下ろした……その時だ。
「じゃ、始めよっか」
ましろがそう言いながら、当たり前のように蒼太の足の間に座ってきた。
「……ふえっ!?」
思わず変な声が出る。ましろはキョトンとした顔で振り返った。
「どうしたの? そんな変な声出して?」
「あ、いやその、何でもない、です……」
ましろは不思議そうにしつつも、さっそくゲームの方に取りかかる。
たぶん、あのミッションのことをすっかり忘れているのだろう。むしろカップルスタイルでやっていた期間の方が長いのだ。ましろにとって、二人でやる時はこうするのが当たり前になっているのかもしれない。
蒼太は、喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
ちょっとずるい気もするけど、わざわざ「ミッションもう終わってるよ」なんて指摘する必要もないだろう。
「じゃ、じゃあ始めよっか」
そう言ってゲームを起動する。
視界の端で、アイが『計画通り……』という感じの悪い笑みを浮かべているのには気付かないふりをした。




