第15話 街のなんでも屋さん
「冒険者」という響きには、誰もが心躍らせるものがある。
未知の遺跡、伝説の武具、そして手に汗握る巨大な魔物との死闘。俺だってRIKISHIである前に一人の男だ。新天地での華々しいデビュー戦を夢見ていた時期も数日前までは確かにあった。
だが、現実は非情である。
「はい、ジェイ君。次はあっちの角にあるゴミ屋敷の片付けだよぉ。お掃除終わったら依頼主のお婆ちゃんからお駄賃もらえるからねぇ〜」
「……レナ、一応確認するけど、俺たちのギルドカードには『Fランク冒険者』って書いてあるよな? 『便利屋・掃き溜め係』の書き間違いじゃないよな?」
俺の問いに、レナは「(^_-)-☆」といつもの顔文字のようなウインクを返してきた。
「何を言っているんだい。街の平和を守るのも立派な冒険だよぉ。それにほら、今の【レナちゃんファンクラブ】の貯金箱、振っても『カラン……』って寂しい音しかしないんだよぉ〜」
そう、このギルドは慢性的な財政難に陥っていた。
先日の「歓迎会(という名のヘソクリ使い込み事件)」のツケもあり、現在の活動資金は日々右肩下がり。新入りの俺を養う余裕など、最初からこれっぽっちもなかったのだ。
「……おかしくない? だって俺の前にいたギルドに結構な大金支払ってるよね? あの金は何処から出てきたの?」
なんせ俺を含む十人パーティ全員の船賃と滞在費だ。最初こそ討伐ついでに旅行でもしようと思ってたけど今となっては恥ずかしい。
「あのお金はねぇ、マカロンって人が定期的に送ってくるんだよ。要らないって言っても無理やり渡すからその時々の代表が無駄遣いすることにしてるのさぁ」
なんだそれ? なんて思っていても悲しきかな、冒険者はお金さえ入れば構わないスタンスがほとんどだ。
実際ペテロたちは大怪我こそしてもお金を貰ってるし、それが子供たちの遊びの延長だとしても文句なんて言わない。
少なくとも大陸に渡ってからクビ宣告された俺は文句言いたいけどね。
その相手も子どもたちではなく、アリティア達にだ!
というわけで、俺の「冒険」は、魔物討伐ではなく「重労働」から始まった。
街の商業区、商業ギルドの裏手にある荷積み場。
そこには、俺の数倍はありそうな巨大な木箱が山積みになっていた。
「おい、そこの男! 悪いがその『岩塩の樽』を10個、あっちの馬車まで運んでくれ!」
「10個か。……まとめて持っていっていいか?」
俺は腰を深く落とし、樽の山に手をかけた。
周囲の荷役たちが「無茶だ、腰をやるぞ」と笑う中、俺は大きく息を吸い込む。
「ぬんっ……! ど、す、こ、いぃぃ!!」
樽を5つずつ、両脇に抱え上げる。総重量はゆうに数百キロを超えるだろうが、RIKISHIにとって重いものを運ぶのは、文字通り「朝飯前」の稽古に過ぎない。
「なっ……なんだあの男! 樽を小脇に抱えて歩いてやがる!」
「しかもあの格好……不審者かと思ったが、なんて効率的な仕事ぶりだ!」
俺がズシン、ズシンと地面を揺らしながら歩くたび、周囲から驚嘆の声が上がる。
荷積み、荷下ろし、さらに崩れかけた倉庫の支柱代わり。俺の肉体は、この街の物流を支える「最強の重機」と化していた。
「ジェイさん、素晴らしいです。僕の計算では、あなたの筋肉が経済を回す効率は、馬車3台分に匹敵します。報酬が1割増しになるよう交渉してきますね」
「ふふふ舐めるなよグリム! 俺は前いたパーティでは荷物持ち兼荷物番だったんだからな! それと交渉なら塩を貰ってきてくれ」
「……可能だとは思いますが、どれくらいの量をお望みですか?」
「一掴みできる程度だ。この前の歓迎会では俺だけネタを用意してなくて赤っ恥かいたからな! 次はこの塩でみんなを驚かせてやるぜ!」
夕暮れ時。
泥と汗にまみれ(マワシは意外と汚れていないが)、俺たちはギルドへ向かって歩いていた。
懐には、俺が一日中働いて稼いだ銀貨が数枚。
「ジェイ兄、お疲れ……さま。はい、お水」
「ありがとう、ミック。……まあ、魔物と戦うだけが能じゃないからな」
フィオが俺の太ももに抱きつきながら「ジェーさん、今日もお肉の匂いがする〜」とはしゃいでいる。
ふと、ギルドの入り口で首を長くして待っているレナの姿が見えた。
あいつはあいつで、街中の雑用(という名のチラシ貼りの謝罪行脚)で疲れ切っているようだ。
「おかえり、ジェイ君! 今日の収穫はどうだい?」
「ほらよ。これで明日も腹一杯食えるだろ?」
俺が銀貨を差し出すと、レナの目がパァァと輝いた。
「ひっひっふー! さすがは我らがギルドの稼ぎ頭(物理)だねぇ! わたしが夢見てた不労所得が現実になると感慨深いよぉ」
まぁ、ギルマスの特権みたいなものだから突っ込まないけどレナの場合は100%赤字だ。
そもそも俺の端金程度では連盟に納める額にはまったく届いてない。税金も高い。
冒険者ギルドなんて乱造されまくってるから納税額も多い。
これは豪華な冒険とは程遠い。
けれど、自分が稼いだ金で、この騒がしいガキ共と幼女の飯が食えるなら。
そんな「なんでも屋」も、悪くない。
俺はマワシを締め直し、夕焼けに映えるギルドの看板を見上げた。
……早く「マカロン」って奴が帰ってきて、もっと割のいい仕事、魔物退治なんかをこなしていけるのを祈るばかりだが。
俺の言葉に子供達は顔を見合わせた。
「マカロン……当分来ない」
「たぶんマッカちゃんは……ジェーさんが想像する人じゃないよ?」
「はい。気になるけどしばらく来ないなら聞きません!」
〜ギルド共通掲示板〜
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著者 レナ・ファルシオン
「レナさんが書いた文は読み書きが出来なくとも読めるから毎回助かってますよ」
「それは良かったよぉ。わたしも魔法とかスキルとか使って、なんやかんや苦労してるからねぇ」
「……なんやかんやとは?」
「なんやかんやはなんやかんやなの!」
「し、失礼しました。それでは今回は色をつけてお支払いしますので、何卒よしなに」
「……それは気持ちだけ受け取るから代わりにわたしの名前を使って詐欺まがいの掲示物を貼ってたら取り除くようにお願い」
「ああ……いつものやつですね。最近では模倣犯も出てきましたし」
「わたしの名前を使ってなければなんでもいいよ」
「そうですか。では著者【ミッフィーズ】なるチラシは見逃すよう手配しておきます」
「やっぱり待って! それも剥がして!!」




