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翡翠の王冠  作者: 電動
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第1話 -マリンとマーリン-


 ……15年前

 空が白ずみ始めた頃、二人の青年が巨大な城のバルコニーから荒れ果てた大地を眺めていた。


 金色の髪に蒼い瞳をもつ青年は手に持っていた聖剣を床に突き刺し、段差に座り込んだ。


 「何も無くなっちまったな」


 二人とも傷だらけだった……


 美しい錆色の髪を風に靡かせ、優しい微笑みを浮かべるもう一人の青年は明るんできた地平を見つめている。


 「そんなことないさ、川が消え……山が消え……街が消えてもキミとキミの家族さえいればここはまた皆が笑って暮らせる国になるだろう」


 

 「俺の唯一の家族である父上……ユーサー・ペンドラゴンは死んだ…もう俺に家族と呼べる人間はいない」


 

 「家族がいないだって?下を見てみなよ」


 金髪の男は立ち上がりすらしなかったが、多くの民衆や騎士の仲間たちが自分の名を呼ぶ声が聞こえてくる。


 「家族って言うのは何も血のつながりだけではないだろう?アルトリウス…ユーサー王亡き今、キミがこの国の王だ、王としての新しい名前とその聖剣を掲げて民に示んだ……我こそがブリテンの王…アーサー・ペンドラゴンであると!」


 「アーサーか…気に入った!」


 アーサーは縁石の上に飛び乗り、聖剣エクスカリバーを大きく掲げ叫んだ、「我が名はアーサー・ペンドラゴン!我を王として認める者は、その咆哮をもって答えよ!」


 うおおおおおおおおおお!!!!


 「ふっ、今回ボクがこの物語に召喚された目的を覚えているかい?」


 「あぁ」


 王は振り返らない……


 「行くのか?」


 「うん、キミがこの国を救い、王になった…これでこの物語、『アーサー王伝説』におけるボクの役割は終わった、これまで数えきれないほどの物語を見てきたけれどこれほどまでに離れたくないと思ったのは初めてだよ。」


 地平線に日が灯る、祝福の光が王を包み、王の影が青年を包んだ。


 「ならもっと居ていいんだぜ?」


 「あははは、じゃあもう行くけどこの体は物語においてボクの存在を証明するために『レムナント』として残るから大事にしてあげてね」


 「まかせとけ、城の掃除係にでもしてこきつかってやるさ」


 「ふふふ……それじゃ」


 「おう!元気でなマーリン!!」


 青年の……マーリンの髪から美しい錆色が消えていき、やがて純白へと変化していき、ペタンと座りこみ、彼はまるで生まれたての赤子のように泣きわめいた。


 そこでやっと王は振り向いた…


 「おいおい……」



 ……そして現在

 この15年間で世界は急速に発展を遂げ、城を囲んでいた荒れ果てた大地には巨大なビルが立ち並び、地上では馬ではなく自動車が行き交っていた。


 しかし騎士の国とも言われるこの国の根っこは変わらない、今も鎧を纏った衛兵が城を守り、純白の制服を着た騎士警官が街の平和を守っている。


 騎士は子ども達の憧れの的であり、多くの子が目指す職業だ

 そして今年もまた、騎士学校の卒業式が行われていた。


 「我々は騎士道精神を持ち続け、ログレスの平和を守るとここに誓います!第15期騎士主席、アルフレッド・リーガル!」


 王の前で宣誓を行い、主席卒業の証として王より与えられる誓いの剣『バウセイバー』を受けとるアルフレッドをダルそうに眺める黒髪の青年『ヒスイ』彼こそがこの物語の主人公である。


 

 ……3ヶ月後


 ヒスイは夕飯を買いに行ったコンビニからの帰り道、傘をさして雨の中を歩いていた。

 そして自宅の寮から数十メートルの場所にある公園を横切ったとき、傘もささずずぶ濡れでベンチに座っている少女を見つけた。


 「おい、そんなこれ見よがしに優しく声をかけてくださいアピールされたら、騎士としてはスルーできねぇんだけど、俺としてはクソめんどくさいからやめてくれる?」


 少女は顔をあげてまるで飼い主をまっていた犬のように嬉しげに微笑んだ。


 「人をまってたんだけどその人なかなか来なくてね」


 彼の中にある女性のイメージからすると少しおかしな喋り方をする少女だった。

 ヒスイは察した、彼女の待っている人物は恐らく現れないと…

 

 「はぁ…風邪ひかねぇ内に帰ってさっさと風呂はいって寝ろ」


 「ボク傘もってないんだよね……」


 は?

 これは明らかにその傘を寄越せと要求している言い方だ、ここから寮まで数十メートルだが傘を渡して走ってもこの雨の量だと間違いなく自分もずぶ濡れになる、彼は悩んだ…この正体不明なずうずうしい女の為に自分がずぶ濡れになる必要があるのか、しかし騎士としてこれを見過ごすことはどうなのか……


 「あぁもうわかったよ!俺も濡れるのは嫌だからお前が一旦寮まで着いてこい、そこで傘をやるよ」


 「ずぶ濡れのまま列車に乗れと?」


 「………」


 

 ……結局ヒスイの部屋でシャワーを浴びさせて服が乾くまで居させてやる、という事になった……


 「どうしてこうなった…せっかくの休日をあんなわけのわからん女にメチャクチャにされてたまるか……!」


 ガチャン、風呂場の扉が開閉した音が聞こえた、そしてそのまま足音がこちらへ近づいてくる


 「いやぁ~気持ちよかっ」


 「バカやろう!裸で出てくるバカがあるか!ていうかベタベタじゃねぇか!さっさともどってタオルでからだ拭いてこい!着替えもそこに置いてあるからな!」


  少女は怒鳴られてもキョトンとするばかりで隠そうともしない。

 

 「あ、なるほど、そういえばボク女の子だったね」


 「女でも男でも裸のまま見ず知らずの人間の前にでる奴なんていねぇよ!」


 ガチャ!玄関の扉が開いた


 「うぃ~っす、どうせコンビニ弁当しか食べてないと思って美人幼なじみのアリスちゃん……が?」


 金色のセミロング、背が高くてスタイルもいい…典型的なログレス美人というやつだ、しかしあまり気品は感じられない……

 いや、今はそんなことどうでもいい…この状況は非常にまずい。


 バチン!まずは思いきり平手打ちをくらった、そして胸ぐらを捕まれて首がもげるんじゃないかというくらい前後に振られた。


 「あ……ああああんた!いったいどういうつもりよ!!?騎士の寮にお…女を連れ込むなんて!」


 「ちが……う!誤解だ!」


 「言い訳は署で聞くわ、それからあなたは早く服を着なさい!」


 「そうするとしよう」


 じゃれつく二人をあとに裸の女は脱衣場にペタペタと歩いていった。


 「あれ!あれを見ろって!」


 「は?どれよ?」


 暴れるヒスイを抑え込みつつ指差す方を振りかえる

 そこにはびしょ濡れの服が干されていた。


 ……数分後

 謎の女が少し大きめの男物の服を着て脱衣場からひょっこりと顔をだした時には騒ぎはおさまっていた。


 「お前は昔からせっかちすぎるんだよ」


 「いや、あんな状況じゃそう思うのは当然でしょ……」


 女は何事もなかったかのように二人の前を素通りすると、ベッドに座りリモコンでテレビをつけた。


 「……な?こういうやつなんだよ」


 「たしかに普通じゃなさそうね……」


 ヒスイの幼なじみ、アリスはため息をつきながら立ち上がると、手動でテレビを消した。


 「で?あなたはいったい何者?」


 アリスはそこでようやくまじまじと謎の女をみた

 同い年くらいできれいな艶のある錆色の長髪、身長は160センチくらいだろうか、細身で……なかなか大きかった。


 「ボクはマーリン、星の語り部とはボクの事さ」


 「………」


 15年前、反逆者モルドレッドによる神竜召喚事件で命を落とした伝説の魔法師マーリン『星の語り部』とも呼ばれる彼はアーサー王と共に真竜と一体化したモルドレッドを滅ぼしたという

 当時ヒスイとアリスは3・4歳だったため写真でしか彼の姿を知らないが、マーリンは男性というのは誰でも知っている…錆色という珍しい髪色が唯一の共通点だが、恐らくは彼女はマーリンのファンでなりきっているだけだろう。


 「はいはい、今から署行って車(魔力で動く自動車、通称:魔動車)借りて来て送ってやるから、お前家はどこだ?」


 「は?借りてくるってあんた…私用で使うのは禁止されてるはずでしょ?」


 「これは私用とは言わないだろ、それにお前だってこの前限定のお菓子が売り切れるとかなんとかで……」


 「あ”ぁ”ぁ”ぁ”~!!わかったわよ!はぁ…で?どこに住んでるの?」


 「ふむ、この子の家はとっくの昔に建て壊しになっているか他人に権利が渡っているだろうね」


 またわけのわからないことを言い出した。


 「もうそういうのいいから……じゃあどの辺にすんでるの?」


 「カリバーン大聖堂の近くだったよ」


 「そんなわけあるかよ、あの一帯は15年前の戦い以来記念公園になってるんだぞ?家なんてねぇよ」


 「そう……ですか……」


 なんで急に敬語?


 「お願いだから真面目に答えて、あなたは何処からきたの?」


 マーリンは目をゆっくりと閉じた、そのまま眠ってしまうのではないかというくらい穏やかな表情になった。


 「すみません、ワタシからご説明します」


 !?

 

 「なんだよお前、急に普通の人みたいに……」


 「むぅ、その言い方は少し傷つきます……ワタシは『マリン』この体の本来の持ち主です」


 ……話がすすまねぇ


 「ワタシは15年前の事件で一度死んでるんです、そして魂が抜ける直前に同じ魂としてさ迷っていたマーリンに話しかけられて……『キミを生き返らせてあげる代わりにボクの頼みを聞いてほしい』と……頼みは二つ、一つはワタシの体に住まわせてほしい、二つ目はある人を待つこと」


 あまりにも真剣に話すので二人とももう黙って話が終わるのを待つしかなかった。


 「ワタシたちはあなたを待っていたんです、ヒスイさん」


 ヒスイは彼女達?に自分の名前を言ってない。


 「ワタシたちはこの15年間ずっとあのベンチに座ってあなたを待っていたんです」


 ………少しの間沈黙が続いた。


 「えっと、あたし何回もあそこ通ってるけどあのベンチに人が座ってるとこは見たことないかなぁ~…なんて……」


 「おかしいと思いませんか?あそこ休日は結構親子が遊んでますよね?ベンチは一つしかないのに一度も座ってる所を見たことがないなんて」


 ………再び沈黙


 「そりゃ迷惑な話だな、この話がお前の妄想なのかどうかは別として、今日はアリスの部屋に泊めてもらえ」


 「え!?」


 「……はい」


 「え!?」


 二人が出ていくとヒスイは本当に疲れていたようで、買ってきた夕飯も食べずもシャワーも浴びず眠りについた…


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