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肉食と聖女の旅  作者: 夜昊


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12/25

肉食と聖女の旅 番外編 7


「なんか、お腹が空いてきたかも」


 そろそろ食堂に行ってもいいだろうか?

 食事に関しては、無料で使用人たちが利用している食堂が使えるので、食費がかからないのは非常に助かる。

 いま持っている食料は、ミント味のタブレットと同僚からもらった塩タブレットが二個、それに非常時用のポーチに入っていた、エナジーバーやゼリー飲料などだ。


「夏じゃなかったらチョコとか買ってたのにな」


 残念だが、六月になる前に非常持出袋を夏仕様に入れ替えたので、溶ける食べ物はすでにお腹に入って消化済みである。

 チョコバーもグミも、おやつとして食べてしまい、もう残っていない。

 この国から借りたお金は、稼げるようになったら少額ずつでも返していきたいけれど、はやく債務者から脱却して、嗜好品を買える余裕をもちたいよ。

 ここにいるあいだは食事が提供されるから、非常食を主食にすることはないので、持っているお菓子は日本を懐かしむ際に口にするくらいだろうか。

 いずれにせよ、もしものために残しておくほうがいいだろう。


「食事のレベルが、塩味で焼くだけだったらどうしよう」


 日本料理が食べられる可能性は、ゼロに近いとは思っていたが、この国の食事が口に合うかを疑っていなかった。

 ただでさえ、この世界の大気は私たちの体を蝕むと聞かされていたのに、我ながら呑気なものだ。

 食事が合わないと、すぐに健康を損なうことになるだろうから、早急に誰かとの会話から、食事の毒性を確認しておこう。


「お弁当箱も洗いたいし、ついでに持ってくか」


 いまだと食堂は忙しいだろうけど、ほかの洗い場や自由に使える水場を、教えてもらえるかもしれないからね。

 私は洗いものをエコバッグに入れ、濡れた食器を拭くために、小さい方の圧縮タオルをひとつ持った。ドアに近づき、振り返ってみたベッドの上の惨状に、壁にランプをかけようとした手を止める。


「散らかしたままは、さすがに甘え過ぎだよね」


 このまま食堂に行くのは、いくらなんでも不用心だ。

 部屋に鍵がかかるとはいえ、そんなものはマスターキーがあれば好きなだけ開けられる。

 貴重なものは、なるべく体から離さないほうがいいだろう。


「けど、この服って、ポケットないんだよなぁ」


 私の持ち物は、牢屋にいるあいだ調書を取られているから、持っていたという証明はできそうだ。かといって、それをメイドさんたちに周知されているとは思えないから、やっぱり貴重品は隠しておこう。


「こんなもんかな」


 売ってもいいかと思っていたバッグインバッグに、この国では使えない貴重品を詰めた。

 こちらの一般常識を覚えてからだけど、一見して精密機械を使っている気配がないから、スマホ関係は隠しておかないと危ないかもしれない。


 ファスナーポケットにアパートと車の鍵、ネックストラップを外した社員証を入れる。非常時用にと、三つ折にしてチャック付ポリ袋に入れていたお金は、すべて財布にまとめた。これも同じポケットに収める。

 いちばん広い真ん中には、乾電池を抜いたハンディファンとLEDミニ懐中電灯をしまう。そしてサイドポケットに、電源を切ったスマホとカバー、ケーブル内蔵型モバイルバッテリー、ソーラーモバイルバッテリー、ワイヤレスイヤホン、USB充電器、ケーブルクリップでまとめたUSBタイプCケーブル二本を隙間なく詰め込みファスナーを閉めた。


 これらの製法を聞かれたら、たぶんギフトがあるから答えられると思う。でも、それがいいことなのかがわからないうちは見せびらかしたくない。

 この世界の誰かが亡くなる原因になったら、日本に帰れなくなるかもしれないのだ。

 使いかけの電池は、新品の電池とわけておく。もしもこの国の夏が暑すぎたら、コッソリ寝るときだけハンディファンを使えばいいだろう。

 これで、大事なものをひとつにまとめることができた。


「フタのない外ポケットは、なにも入れずに空っぽにしたし、逆さになっても散らばることはないね」


 このバッグを壁のハンガーに掛けて、それにワンピースを被せて見えないようにかたちを整える。

 侵入者がいたとしても、貴重品を目立つところに置くとは考えないだろう。

 ベッドの敷布の下とか机の裏とかも候補にあがったのだが、定番すぎていちばんに探されそうなので避けたのだ。


 いま着ているワンピースの下にベルトを締めて、そこにカラビナ付きのポーチを下げる。ここに貴重品入れの鍵と部屋の鍵をしまっておくつもりだ。

 いまはタオルハンカチと除菌シートを入れて、残りはすべて通勤バッグに詰めてベッド下の箱に片づけた。

 このスタイルだと、鍵を使うときにスカートの裾を捲くらなければならないので、人前では出せないのが問題だな。


「食事の前だし、いちおうトイレに寄ってくか」


 メイドさんから案内された道順をたどり、階段を降りてすぐのところにトイレがある。そこから四、五分歩けば食堂だが、ここが混んでないなら使っておきたい。

 人が待っている状態で、モタモタするのも気が引けるからね。


「衛生的な不安は消えたわ」


 トイレの場所は教えられたが、その中までは案内されなかったから、使い方が難しかったら困るだろうと思っていた。

 お城のトイレは汲み取り式ではなかったが、水洗でもない。完全な個室に入れば、便座はあるがフタがなかった。それなのに嫌なにおいがしないのだ。

 便座の向きもドアに対して横だから、間違って開いたら目が合うという気まずさは、若干だろうが減るのだろうか。

 どんな理由で横向きなのかはちょっと不明である。

 個室の中を見回すが壁や便座の周辺、四方八方どこを見てもレバーやボタンがなく、済ませた後の処理方法がわからない。

 

「生理用品が使い捨てじゃないから、サニタリーボックスもないのか――――ん?」


 腰の高さくらいの壁が長方形にへこんでいるように見える。ゆっくり押すと、その部分がはね返るように飛び出した。


「ティッシュじゃん。いや、こんなの尿意をもよおしてからだと遅いだろ」


 部屋を出てから鍵をかけて、トイレに着いてから使い方を検証する。そんなことをしている間に、膀胱が破裂しちゃう。何事も予行練習は大事だ。

 あまりにも日常すぎるから、メイドさんもまさかトイレの使い方がわからないとは思わなかったんだろうか。

 私もそのときに説明してほしいと願わなかったから、メイドさんだけが悪いとは思わないけどな。


 座面の消毒がどうなっているのかわからなかったので、持っていた除菌シートで拭いてから座る。すぐに立ってみたがなにも起こらない。

 これではネコよりも、後始末ができていないじゃないか。


「メイドさんたちの控え室に行って、使い方を聞くしかないか」


 浴室の使い方は教えてくれたから、トイレはそれほど複雑な使用法ではないと思うんだけどな。


 私は恥を忍んでトイレの使い方を聞いた。

 王城のトイレは魔術が込められているので、用を足してから立ちあがると浄化される。便座もきれいになるから、座る前に座面を消毒する必要はない。使ったティッシュも、便器に捨てたら跡形もなく消えた。

 それなら手洗い場全体も浄化してくれたらいいのだが、そこまでは望みすぎらしい。そのかわり、手を洗うための水がめが魔道具で、いつでも清潔な水が使えるのだという。

 

「城下はほとんど整備されてるって聞くけど、アンタはどこで生まれたのさ?」

(寿春菜は異世界で生まれた)


(いや、いまそんな情報はいらない)

「このあたりではないです」


 必要のない情報や、わかっている話はわりと聞き流すことができたのだが、いまのはなんだかスルーてきなかった。声に出してツッコミをいれなかった私はエライ。

 私がトイレの使用方法を聞いたのは、さきほどのメイドさんではなく、たまたま掃除に来た年配の女性だ。

 便器まわりはきれいだから、浄化されない床を朝と昼前と夕方の三回、モップをかけてまわるのだという。そのときに紙も補充するのだとか。

 彼女がすぐに作業をはじめたので、お礼を言って別れた。


『男の人も、紺色の服は制服なのかな』


 食事を終えたらしき数人とすれ違いつつ、食堂を目指す。

 身につけている服がほぼネイビーだから、みんなここで働いているんだろうか。

 女性は私と似たようなワンピースに、ポケットがついたエプロンをしていたし、男性の制服はズボンに腰下までのチュニック、それに太めのベルトをしている。そのベルトには、文庫サイズのポーチがついていた。


 あのベルトもポーチも革製だろう。だとしたら、私のもそれほど隠す必要はなさそうだな。


『だけど革製品がスタンダードなら、私のバッグは高く売れないかもなぁ』


 私の持ち物は本革が多いんだよ。頑張って働いて、少しずついいものを身につけるようになって、大事に手入れしながら使っていたものが、めっちゃカジュアルって泣ける。

 まだ断言はできないけど、ガジェットポーチを下げて歩くのが目立つようなら、エプロンを購入するしかない。

 あの人たちは部屋の鍵を、ポケットやポーチにいれているんだろうか。ポーチはまだしも、ポケットなんて落としそうで怖いよね。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。


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