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スティールスマイル(改訂版)  作者: ガブ
第一部 「ゼロとレイア」
12/28

第12話 「エレナ」

 薄暗い部屋の中、エレナは毛布にくるまりながら震えていた。そこを訪れた執事は明かりを付け、厳しい口調で語り掛ける。


「エレナお嬢様、姉上様にはご報告されたのですか?」


 執事の言葉を受けると、エレナの震えはより一層大きくなる。


「できない、レイアは友達よ、失いたくない!」


 泣きわめくエレナの毛布を強引に奪い取る執事だが、今度は枕に突っ伏せながら抵抗するエレナ。思わず手を上げようとする執事だが、そこで腰に付けた端末が鳴る。


「噂をすればお姉さまです」


 その声に、騒いでいたエレナはピタリと動きを止める。


「あらエレナ。そこに居るのね。それで、あれからゼロ君は訪ねて来たかしら?」


 端末から甘ったるい声が聞こえてくる。その声に怯え、エレナはブルブルと震えだすが、言葉を振り絞ると端末の向こうに居る人物に答える。


「いいえ、お姉さま」

「アンタいま嘘をついたわね」


 声色を変え、端末はプツンと音を立てて途切れる。その直後エレナは泣き出しながら執事に助けを求めるが、執事は首を振ってエレナを突き飛ばす。


「ムース様に逆らってはなりません」


 それだけ伝えると執事は泣きじゃくる次女を置き去りにし、長女を出迎える準備に取り掛かる。


「どうして、どうしてなのよ! 私はレイアを裏切りたくない、どうして放っておいてくれないの? 私が何をしたっていうのよ・・・・・・誰か、助けてよ」


 いくら叫ぼうとも助けなど来るはずも無い。そう思いながらも叫ばずにはいられない。するとその叫び声につられ、部屋の入り口から気まずそうな顔のレイアが現れた。


「ごめんなさい、エレナ。盗み聞きするつもりはなくて、ゼロさんがあなたの事を、あ、ゼロさんっていうのはわたくしのボディーガードで」

「……いい。全部知ってる。ゼロの事も、組織の事も」


 初めはレイアの登場に驚いたが、救われたような表情を見せるとエレナは自分の知っていることを語り始めた。彼女の言葉はレイアの抱いていた不安を現実のものにする。


「メル家はね、代々組織の一員なの」


 贖罪の涙を流しながら話すエレナ。ショックを隠せないレイアはかける言葉が見つからない。


「私はまだ下っ端の雑用だけれど、お姉さまとお兄様は組織のエージェント。2人には裏切り者ゼロ抹殺の指令が下ったわ」


 話しながらエレナは、レイアの拒絶する表情を見てさらに涙を浮かべる。エレナにつられ、レイアもまた大粒の涙を流している。


「そして私も指令が下った。あなたたちがここへ訪れたら足止めをして、お姉さまに伝えるという指令が!」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも隠していたことを全て吐き出すエレナ。たとえそれが組織や姉を裏切ることになっても構わないといった様子だ。


「早く逃げて! もうお姉さまには知られているわ。きっとすぐに戻って来る! あなたが殺されるところなんて見たくない!」


 ペチン!


 エレナの告白に応えるようにレイアの張り手が炸裂する。


「謝ってください。わたくしはあなたの友達、あなたのことを信じていたのに!」


 大粒の涙がとめどなく二人の顔から溢れてくる。エレナとレイアは抱き着き、共に心の底から

感情をさらけ出す。


「ごめん、ごめんなさい! ごめんなさい、レイア!」


 その様子を部屋の外から見守っていたゼロは、背後から忍び寄る殺気に反応し服の中に仕込んだナイフに手をかける。振り向くと、そこには大人数の執事たちが武装して忍び寄っていた。


「お嬢様、外部の人間に勝手なことを話されては困ります。ムース様がご到着される前に逃げ出されでもしたらどうするおつもりですか?」


 執事たちは明らかな殺意を携え、3人にじりじりと詰め寄って来る。ゼロもナイフを握りしめ、戦闘態勢をとる。


「ゼロさん!」

「分かっている。殺しはしない」


 レイアにそう答えると、ゼロは部屋の2人を守るため、執事たちに向かって走り出す。執事たちもエレナとレイアには目もくれず、標的をゼロに定めて襲い掛かって来る。


「もう我らの素性を明かす必要も無いですね。伝説と謳われたその実力、とくと拝見させていただきます!」

「そうか、残念だがそれはできない」


 挑戦者の顔つきでゼロに飛び掛かる執事たちだったが、1人としてゼロのスピードについて来られる者は無く、気が付くと全員ゼロの手刀の餌食となって床に叩きつけられてしまう。


「は、速すぎる」


 ゼロの規格外に強さに驚愕する執事たちだったが、どれだけ倒しても次から次へと増援がやって来る。倒れた執事たちもしばらくすると起き上がり、エンドレスでゼロを襲う。


「ただの執事と侮ってもらっては困ります。メル家と同様に私たち執事も全員が組織の人間。たとえあなたを倒すことはできなくとも、ムース様がお戻りになるまでの時間稼ぎぐらいなら可能でしょう!」


 大勢の執事、もとい殺し屋たちに囲まれながらもゼロは冷静にエレナに問いかける。


「ムース……エレナ、お前の姉兄はムースとレイリーか?」


 怯えるエレナは首を縦に降る。それを確認するとゼロは執事たちを軽くあしらいながら、もっとも重要な質問する。


「ではお前はレイアの敵か?」


 ゼロの更なる問いかけに、レイアはエレナより早くそれを否定する。エレナも先ほどよりも大きく否定し、ゼロに訴えかける。


「私は確かに組織の人間、でもレイアの友達。友達とは戦わない!」

「そうか。ならお前の姉と兄をたたきのめしても文句は無いな」


 エレナの言葉を聞き入れたゼロは今までとは比べ物にならないスピードで執事の群れに飛び込み、今までのは遊びだったと言わんばかりになぎ倒していく。執事たちは一切抵抗できずに倒れ、次々に意識を失った。


 あまりのゼロの強さに驚愕し、また震えだすエレナ。レイアはそんなエレナの体をそっと支える。


「大丈夫ですよ。ゼロさんはわたくしの友達を傷つけたりしません」


 レイアの温かさに多少落ち着くエレナだが、完全に震えが収まるわけでは無い。エレナの恐怖の根源はゼロでは無く、別のところにあるからだ。

 屋敷の扉が開く。エレナの恐れた事態がついに起きてしまった。



「ああ、ゼロ君、レイア。お久しぶりね」


 とろけるような声と共にふわふわとムースが姿を現した。彼女の後ろには銀ずくめのレイリーも控えている。

 2人の殺し屋が屋敷に足を踏み入れると、意識が途切れ途切れの執事たちが這いより、助けを求める。がしかし、2人は自分たちに仕えている執事たちに一切見向きもせず唯々ゼロの方を見ている。


「お、お助けを」


 それでも執事は倒れたままムースの服を掴み、涙を浮かべながら助けを懇願する。するとムースの表情が恍惚としたものに変わり、妖艶な笑顔で執事を見下し始めた。


「ふふ。いいわ、いいわよその哀れな姿。やればできるじゃない」


 恐怖する執事の顔を嗤いながら踏みつけるムースの姿にエレナは完全に怯え、レイアも顔を手で覆っている。


「ひゃはははは!」


 夢中で執事を踏みつけるムース。しばらくすると執事は完全に動かなくなるが、それでもムースは足を振り下ろし続ける。


「姉さん、もう死んでるよ」


 レイリーがムースの肩に手を置くとようやくムースも正気に戻り、顔に付いた返り血を拭いながら再度ゼロを見つめる。


「ごめんなさいねゼロ君。もうちょっと待ってくれる? さあレイリー、後片付けお願い」

「はい姉さん」


 ムースの言葉を受け、レイリーが執事たちに向けて無数のナイフを投げる。ゼロの攻撃で弱り切っていた執事たちに避ける力は残っておらず、うめき声を上げながら次々に絶命していく。


「指令を守らず、勝手にゼロに戦いを挑んだあげく無様に敗北。そしてあろうことか姉さんに助けを求めるなんて、全くもって美しくない。人形にする価値もない」


 残忍な表情を浮かべながら、レイリーは執事の死体をゼロに向かって蹴り飛ばす。力無く執事たちの死体は転がり、大理石の床には赤い線が刻まれた。


「やぁゼロ久しぶり。よくも人の家で好き勝手に暴れてくれたね。お陰でこんなにも無駄な死人が出た」

「まったくねぇ、汚いったらありゃしない。エレナ、とっととこのゴミを片付けてちょうだい」


 ムースがエレナに命令するが、エレナは完全に硬直して動けず、涙を流して怯えている。それを見たムースはまたもや楽しそうに笑っている。


「愉快ねぇ、あなたのそのお間抜けな顔! かわいいわねぇ、本当にそそられる」


 もう我慢の限界だった。ムースもレイリーもレイアにとってはエレナ同様大切な友達で、ショックはあったがもうそんなことは問題じゃない。家族同然の執事たちの命をもてあそび、そして実の妹であるエレナをあざ笑った。その事実が許せなかった。


「あなた達、わたくしを騙して、エレナを虐めて、何がそんなに楽しいのですか! なぜそんな事で笑えるのですか!」


 レイアにとって姉妹とは、家族とは、常に助け合い支え合うものだ。笑い合い、慰め合うものだ。蔑み、挫き、辱しめるものでは決して無い。エレナに対するムースの行いは、レイアにとって許しがたいものだった。

 しかしそんな思いは当然ムースには届かない。


「ごめんなさいねぇ、レイア。騙すつもりは無かったのよ。ただあなたが私たちの事を知らなすぎただけ。ハハ、それにしてもあなたもなかなか良い顔をしているわねぇ。もっと歪ませたくなっちゃうじゃない」


 レイアを震え上がらせるほどのいびつな表情で笑うムース。その笑顔を切り裂くようにムースの頬ゼロの投げたナイフが通り過ぎる。


「どうでもいいが、まずはその薄気味悪い顔をやめろ」


 頬の血を舐めとりながら、ますます恍惚とした表情を見せるムース。ゼロの殺気を受けても全く引く様子は無い。 


「あらあら、放っておかれて嫉妬しちゃったのかしら。勿論あなたのことは忘れてなんかいないわよ。ただお楽しみは最後にとっておくものじゃない? 私はこれからレイアとエレナにお話があるの。あなたはレイリーとでも男の友情を育んでいるといいわ」


 そう言うとムースはゼロの後ろに居るエレナとレイアに向かってスキップして行く。当然止めに入るゼロだが、レイリーがそれを許さない。ナイフを両手に携えながらゼロに切りかかって行く。


「ゼロ。お前のことは前から気にくわなかったんだ。姉さんはお前にご執心でね、組織を抜けたと聞いたときはひどく落ち込んでいたよ。まあ、お前の始末を任されたときはすごく喜んでいたけどね。その時の姉さんの顔はとても美しかったよ。思わず永遠に保存したくなるほどにね」

「どけ」


 嬉しそうに姉の事を語るレイリーに対して一言だけ吐き捨てるゼロ。レイリーの話には1ミリも興味が無く、いち早くレイアのもとに向かいたい。


「お前はさっき姉さんの顔を傷つけた。断じて許せない。今すぐ死ね、死んで償え。死んでもなお痛め続けてやる」

「やってみろ」


 ゼロは足元に転がる執事の死体から愛用の銃を取り返し、殺意と弾丸を込めるとレイリーに向けて撃ち込んだ。

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