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スティールスマイル 第一章(改訂版)  作者: ガブ
第一部 「ゼロとレイア」

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第13話 「MとL」

 ゼロが発砲すると、レイリーは後ろに飛び退きながらナイフを投げて攻撃を仕掛けてくる。ナイフには何か塗られているようで、執事の死体に突き刺さると激しく痙攣を引き起こした。


「強力な神経毒さ。でも安心しなよ、死にはしないさ。でも少しでもかすれば一瞬で眠りに落ちる。体をいじるときに暴れられると面倒だからね」

「当たらなければ意味はない」


 お気に入りのナイフを何本も取りだし、再び投擲するレイリー。ゼロは華麗に回避し、レイリーの太ももに一発の弾丸をお見舞いする。その衝撃でレイリーは派手に転倒するがすぐさま立ち上がり、怯むことなく攻撃を再開する。

 できれば手早くレイリーを無効化してムースを止めたいところだが、殺さずにそれを行うのは難しそうだ。


「エレナ、確認しておきたいの。あなたは私たちの妹よねぇ。妹なら姉に従うのは当然よねぇ」


 エレナとレイアのすぐそばまでやって来たムースが上から見下ろしながら問いかけるが、エレナは震えたまま何も答えられない。レイアはエレナの前に出ると代弁するようにムースに叫び返す。


「あなたこそエレナの姉なら妹であるエレナを大切にするべきではないのですか!」


 それを聞くと、ムースは表情ひとつ変えずにエレナから目をはなさいままレイアを蹴りつける。悲鳴を上げてレイアが転ぶと、ムースは冷たい視線でレイアを見下ろす。


「レイア、姉妹の話に口を挟むんじゃないわよ。どっちみちあなたは死ぬの。なら私をイラつかせるんじゃないわよ。おとなしくそこで床を舐めてなさい」


 レイアは頭から血を流し、気絶する。それを見たゼロはレイリーから目を離してムースに向かって発砲しようとするが、それよりも早くレイリーのナイフがゼロの背中に突き刺さる。


「姉さんの邪魔をするなよ」

「く……そ」


 激痛が全身を駆け巡り、神経毒がゼロの体を犯す。指先が麻痺し足も動かない。呼吸もままならず、足元から崩れ落ちるゼロ。

 かろうじて動く眼球でムースを睨みつけるがムースにとってそれは喜びの燃料でしかない。


「あん、もんゼロ君! いいわよその顔! 私を殺したい? ねぇ殺したい? でもねぇゼロ君、殺されるのはあなたの方なの」


 煽りを受け流す余裕などないゼロは床に歯を立て、進もうとするがまともに進める筈も無い。すぐにレイリーに馬乗りにされ、頭を押さえつけられてしまう。


「残念ねぇゼロ君。これでみーんな死んじゃうわ」


 しゅんとした表情を一瞬見せるムースだったが、直ぐにケタケタと笑いだす。レイリーもつられて笑い出し、屋敷の中はゼロの呻き声と二人の笑い声だけがこだまし続けている。


「で、エレナ。あなたはどうするのかしら」


 一通り楽しむと、ムースはまた冷たい視線でエレナを睨みつける。エレナは気絶したレイアから目が離せず、ムースの言葉に相変わらず震える事しかできない。


「もう、本当に可愛いんだから。お願いだからあなたを殺すなんて残念な結果にはしないでちょうだいねぇ」


 一本のナイフがエレナに手渡される。エレナはムースの言わんとしていることを瞬時に理解し、さらにその顔は青ざめてしまう。


「さあ殺しなさい。あなたがレイアを殺せばきっと組織もあなたをエージェントにしてくれるわ。そうすればあなたもようやく一人前よ。私とレイリーと同等の存在になれるのよ? もうしたっぱみたいに汚い仕事はしなくてすむの」


 ムースはエレナに顔を近づけ耳打ちする。そしてエレナの肩に手を置き、気絶しているレイアをエレナの目の前に蹴り出した。


「簡単よ。魚をさばくのと変わらないわ。骨の位置に気を付けてねぇ」


 エレナの体を支え、ナイフを差し込む位置を手取り足取り丁寧に説明するムース。エレナは思考を停止した様子でふらふらとレイアに近づいていく。


「や、めろ」

「驚いたな、まだ意識があるのかい? 良かったじゃないか、これで彼女の死に目に会える」


 ゼロの背中に腰かけながらムースとエレナのショーを観戦するレイリー。ゼロは二人を止めようとするが、上に居るレイリーを退かすこともできない。

 エレナは気絶するレイアのもとに座り込むと、耳元で小さく呟いた。


「ごめんねレイア。こんなことに巻き込んじゃって。ありがとう、こんな私を友達と呼んでくれて」


 眼を閉じ涙をすべて床に零すと、叫び声を上げ力の限りナイフを突き立てるエレナ。その刃先はレイアでは無く、姉であるムースの方に向いていた。


「馬鹿ねぇ、本当に」


 まるでナイフが自分に向かってくることを予想していたかのように簡単にそれを受け止めるムース。そして強引にエレナからナイフを奪い取ると、その柔らかい腹にナイフを突き立てた。


「うぅ」


 冷たい刃物が温かいエレナの体内にずぶずぶと侵入していく。みるみると絶望の表情に変わるエレナ。そして徐々に生気が消えていく。


「ゼロ、レイアの事、たのむ、わね」


 僅かな力を振り絞ってゼロにそう告げると、エレナはこの世を去った。

 最期に安らかな顔を見せたエレナに対し、心底つまらなそうな表情をするムース。もうゼロの事も目に入っていないようだ。


「はぁ、つまんない……もういいわ。レイアもゼロ君もあんたにあげる。さっさと殺しちゃって」


 全てを投げ出すと、エレナの死体を抱えてムースは屋敷の奥へと姿を消していった。


 やれやれとゼロの背中から立ち上がるレイリーは、まずレイアを始末するため進み始る。ムースが居なくなったことで大分やる気が無くなっているようだが、それでも指令を投げ出そうとはしない。


(何が最強、何が死神だ)


 動けないゼロに全く興味を示さないレイリーの背中を睨みつけながら怒りに震えるゼロ。その怒りの矛先はレイリーでは無く、自らに向いていた。


(情けない。命を賭して戦ったエレナの方がよっぽど強い。そのエレナを俺はみすみす見殺しに)


 ゼロの心が、冷たく深く沈んでいく。


「レイア、安心するといい。君の造形は悪くない。まあ姉さんにはとても及ばないけどね。君はエレナのようなゴミにはさせない。キレイなまま永遠に飾ってあげるよ」


 傷ついたレイアの額を布で優しく拭い、特注の薬を取りだすレイリー。それを注射器に入れると、針をレイアに近づける。


(動け、動け、動け、動け!)


 指を動かし、銃に手を掛ける。撃鉄を上げ、引き金を引く。狙いを定めている余裕など無い。

 銃声に振り向くレイリー。立ち上がったゼロが銃を構えて立っている。弾丸はゼロの脇腹を貫

通していた。


「痛みで神経毒を無効化する気か? ありえない、愚かな選択だ。その出血量で何ができる!」


 明らかに動揺しているレイリーに血反吐を吐きながら近づき、思い切り殴り飛ばすゼロ。レイリーの体は地面で跳ね、注射器も吹き飛ばされる。


「レイアに、手を出すな!」


 背中にはナイフが刺さり、脇腹には穴が開いている。だがそれでもゼロは立ち上がる。

 エレナにレイアを託された。ここで死ぬわけにはいかない。

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