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鉄壁聖女と剣聖乙女  作者: 夏風
鉄壁聖女エレナの足跡
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第9話 老執事視点

 私は今日、これほど神を、運命を呪ったことは無い。

 一人旅立つお嬢様の背を見ながら、私は悔しさに奥歯を噛み締めることしかできなかった。



 私はスチュアート伯爵家の執事だ。

 父とともに先代伯爵の時から仕えている。

 その父も先代伯爵夫妻が亡くなると、後を追う様に天へと旅立った。

 昔から『伯爵夫妻にどこまでもお仕えする』と言っていた父らしいと、私は誇らしく思ったのを覚えている。


 後を継いだ現伯爵も先代に倣う様に領地をよく治め、王家の宝剣を預かる使命を立派に務めていた。

 やがて、若君が誕生し、次いで娘のエレナお嬢様が、更に次男様もお生まれになり、スチュアート伯爵家は幸福の綿に包まれているかのようであった。


 更に喜ばしい事に成長したお嬢様が神聖力を発現され、伯爵家内は歓喜に沸き立つ。

 伯爵夫人も神聖力を備え、聖女として活動していた時期があったが、若君妊娠の折に聖女の立場から退かれていた。

 母君を聖女に持つエレナお嬢様なら、もしや、という思いはあったが、実際に目の当たりにした時は感極まって泣いてしまった。


 宝剣を預かるスチュアート家の子女に相応しく、若君も次男様も、勿論、お嬢様も適性を有しておられる。

 特にお嬢様の適性は際立っており、神聖力と併せ、その潜在能力は計り知れない。

 それに負けじと若君も次男様も鍛錬に励みながらも、子女たちの間に特に諍いも無く、家族仲は大変良好であった。


 エレナお嬢様には婚約者がいる。

 ドラン侯爵家の嫡男であるレックス様だ。


 私が仕えるスチュアート伯爵家とドラン侯爵家は、先代よりも以前から親しい関係であり、お互いの子供を結婚させる約束が、現当主の間で結ばれていた。

 言わば政略であるが、お嬢様もレックス様もお互いに好意を抱いており、その仲睦まじい様子は誰が見てもお似合い二人に見えた。

 聖女修行が忙しくなっても、お互いに時間を作ることを忘れず、思い遣りに満ちている。

 お嬢様は若君よりも先に婚約者が出来た事を気にしておられたが、誰もが二人の仲を祝福していた。


 それなのに――


 そんな幸福に満ちた日常は、ある日、脆くも崩れ去った。


 スチュアート伯爵邸宅焼失――

 伯爵一家はお嬢様を除き、死亡――

 宝剣強奪、主犯と目されるはスチュアート伯爵――


 報せを受けた私の目の前は真っ暗になり、立っていること敵わず、地面に膝をついていた。

 何かの間違いであることを願ったが、無情にも王家とドラン侯爵からの報せも届き、現実だと思い知らされる。


 だが、使用人である我々よりも、お嬢様の心中は察するに余りある。

 沙汰を言い渡されたお嬢様が都邸を訪れた折には、温かく迎えようと使用人一同で心を同じくした――が、それはお嬢様の姿を見た瞬間、打ち砕かれてしまった。


 お嬢様の首にあるそれを――罪囚の首輪を。


 お嬢様は最後まで気丈に振る舞い、涙を見せることも、弱音を吐くことも、恨み言を溢すことも無かった。

 自分の事もままならぬ身になったにも関わらず、私たちの先まで考え、丁寧に書まで認めて頂き、次の職を見つけるまでの繋ぎになればと、残っていた宝飾品などを使用人に渡していく。


 そして、私には旦那様が奥様から贈られた品を渡された。伯爵家に最もよく仕えてくれた証として――


 ――神よ。こんなことが許されていいのでしょうか。スチュアート家に、お嬢様に何の罪があるというのでしょうか。私には到底、容認できるものではありません。こんなことがまかり通る世界に救いがあるのでしょうか。


「お嬢様……」


 エレナお嬢様の姿が見えなくなっても、私はしばらくそこから動くことができなかった。

ご覧いただき、ありがとうございます。

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