vol.8
なんで名作っていう名のものは、こんなにつまらないのだろう。
僕だけだろうか?
このサリンジャーの【ライ麦畑でつかまえて】にしても、夏目漱石の
【坊っちゃん】にしても、どうも心に響くものがない。
かと言って、もう少し大人になれば、この【ライ麦畑】の良さがわかるとも思えない。
ましてや【吾輩は猫である】なんて一生読まないだろう。
でも、こんな名作にも良いところがある。
眠れない夜にヒマつぶしに持ってこいだ。
この日も明日は日曜日、夜更かししても学校が休みなので、おとがめなし。
ベッドに寝転び、机の電気スタンドを頼りに、【ライ麦畑】の文字を追っかけていた。
金曜の夜は早々寝るのはもったいない。
夜更かしする為に土曜の夜があると言っても過言ではない。
だから駄作だとすぐに眠たくなってしまい、それでも寝たくはないときには
目が冴えるでもなく眠くなるわけでもない名作がもってこいなのだ。
これがぼくの土曜の夜の法則だった。
時はすでに夜更けと過ぎて、でも夜明けまでにまだまだといった時刻だった。
ぼくの部屋は西向きの窓がある。
東向きの部屋だと、朝が早く訪れる。それじゃあ、ゆっくり眠れない。
なのに、その夜は様子が違っていた。
ふと頭を上げると、もう外は夜が明けていた。
ありえない。
ぼくは知らない間に寝てしまって、夢でも見ているのだろうか?
西から太陽は昇るはずがない。
なのに・・・
僕は筋を成して差し込む光に導かれるようにベッドを抜け出し、窓を開けてみた。
月だあ。
満月・・・
これが月かあ・・
今なら、かぐや姫が後ろ髪を引かれながらも一筋の涙を流した意味がわかる気がする。