vol.7
学校の図書室で本を借りたのは生まれてこの方初めてのことだった。
別に読みたい本があったわけじゃない。
ただ転校したてに僕にとって、居場所に困ったからだ。
ふらっと、入った昼休みの図書室には誰もいなかった。
壁に貼られた文字が空しく見える・・
【静かにしよう】
誰もいないじゃん! 自分に無言でつっこむ。
図書室の静粛した空気を乱さないように、当てもなく本棚の間を徘徊。
僕のかすかな足音と床の木がきしむ音が絡み合い、やけにうるさく感じた。
張り紙【静かにしよう】
破いて、空のゴミ箱に放り込む。
そのとき突然、背後からかけられた声に、ビクッと肩が跳ねてしまう。
『君かあ、転校生の・・。やっぱり都会のコは本好きで、えらいねえ』
入口の引き戸にところに立つ先生らしい先生の張りのある声が、室内に軽くこだまする。
まるで、図書室の呪縛【静かにしよう】を解けたかのようだった。
何も後ろめたいことはしていないのに、ビクついてしまった自分と
嫌味にも聞こえない先生の一言に腹が立った。
それをごまかすために、肩をすくめて応える。
ほんとは人がいいのだろう、先生の人懐っこい声~
『何か探しモノかい?』
ぼくの警戒心を解こうとして、気を使ってくれているのがよくわかった。
それに僕も同調して、
『いいえ。なんとなく、ただなんとなく・・ふらっと・・です』
と白とも黒ともつかない返事を返した。
『でも、せっかくだから、本でも借りてくかあ?。そうでもしないと、こんな田舎は
退屈だろ』
なるほど・・
そんな気はさらさらなかったのに、おせっかいにしては一理ある先生の言葉に
僕は思わずうなずいて応えた。
『じゃあ、そうだなあ。君のちょうど右にある【ライ麦畑でつかまえて】なんてどうだあ?』
それを手にとって、パラパラっと興味を示すふりをする。
『世界中の若者の心をとらえた青春の書だよ。世界的ベストセラーだあ』
先生だけが言葉をつなぐ。
『実は先生も、それを何回も読んでいるんだよ』
悪い先生じゃないんだけど、その押しつけがましいのが興ざめだった。
僕はただその場から立ち去りたい衝動に駆られ、
『じゃあ、これで・・』
先生は何やらカウンターのノートに書き留めていたようだが、
僕は【ライ麦畑でつかまえて】を片手に、先生に『ありがとうございました』と
言葉を残し、元から用のなかった図書室をほうきで掃かれるように出ていった。




