vol.27(5)
切れる長い息
肩で呼吸を整えようとしても、鼓動が踊るばかり。
どこからともなく、カタカタカタ・・・
ゼンマイ仕掛けの子供だましのおもちゃが今にも止まろうとする音がする。
そちらを見ると、自転車の車輪が空を切り、今にも止まかけていた。
その姿は、どこか夢の終わりを告げられた自分の姿にも映ってみえた。
擦り切れた草の青い匂いを嗅ぎながら、視界が宙返りした瞬間を味わい直す。
自転車ごと、河川敷の土手を必殺ダイブ!
わざとであってわざとでなく、勢いあまって試してみせて、どうでもなくどうでもよくって・・
その歪む瞬間が、そのときの僕の心意気そのものだった。
夏を謳歌した雑草が短く刈り込まれた土手を転がるにませて転げ落ちてみた。
どこかで肘を打ち、痛みが走る。その痛みもまた良し。
唇を咬んだのか、口の中が血の味がする。それもまた心地良し。
ぽっかり浮かんだお月様が、坂に転げ寝そべる僕を覗きこむ。
「若いのぉ、お主・・」
僕は鼻で笑って応えてみせる。
秋の虫が耳元で、その先の自転車で、またその先の河縁で、ぼくをせせら笑っている。
虫の声が小気味よくわずかなズレで重なり合い、
それが遠近法となって、ぼくの秋を深めゆく。
秋の湿り気を含んだ風に包まって、どこからともなく甘く切ないキンモクセイの香りが
夜の波に漂い煎出てきた。
その目には見えない粒子が服をすり抜け裸体を絡まり、僕を月夜の闇に溶かしてくれる。
カラフルな画像から受けとる視覚による情報は人の脳みそを揺らし刺激するけれど、
それに比べはるかモノトーンな草の香り(嗅覚)や虫の音(聴覚)、
それに月夜かぜ(皮膚感覚)は、人の心に浸み込み覚醒させるのは、なぜなんだろう。
ある香りが、雨上がりの小学校の帰り道を思い起させたり、
ある音楽が、告白し淡い恋に破れたあの子の姿を思い起こさせたり・・
それって、僕だけの感覚なのだろうか。
こんな他愛なさすぎ言葉にもできない感覚に満たされてながら、
左が少し欠けた満月未満の月を、僕は飴玉のように舌先で転がして、弄んでみた。
ふと、月面の影に、あの丘で同じ月を見上げるゆうなの姿が映った気がした。
ゆうなの手にも、この同じ何もない何気ない月の光りが降り注いでいるのだろうか。
僕は、降り注ぐ月の光を手で掬い、思案する。
カンナは身を起こし、カゴの歪んだママチャリに再びまたがって扱ぎ出した。
草原でススキといっしょに揺れる彼の影が小踊りする。
この耀く月を感じ、この秋夜を眺める人も数知れず・・
月の鏡が、幾重にも撚り合わさった光の中から、ふたりの糸を選り分けて、
紡ぎ合わせ、秋が深くなってなっていく。
どこへともなく、カタカタカタ・・・




