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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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絶対にダメですよ!

珍しく二日連続投稿です。

 翌朝、俺たちは粗末な小屋で一夜を明かしていた。

 これはノブナーガたちが広大な魔法陣内で捕らわれていた際、生活するのにオーガらの援助もあって建設したものだ。

 なぜ一泊しているのかといえば、日暮が近く危ないから拠点へ戻るのは明日にしましょう、というナミツネの判断による。

 すでに捜索隊の者だけ連絡係として戻したらしく、俺たちが予定通りに帰らなくても混乱しないように配慮していた。さすがだ。


 小屋は男性用が二軒、女性用が一軒ある。

 かなり簡易的な造りだけど雨風を凌いで寝泊まりするには申し分ない。

 ただ、お嬢さまたるミリアちゃんたちには少し厳しい環境かな……などと思ったら、ネイリィ専用と化していた小屋だけは内装がしっかりしていた。

 オーガに用意させたのか床はゴザのような物が敷かれ、藁を集めた上にシーツを被せて簡易ベッドにし、鮮やかな花が飾られている。虫除け効果があるそうだ。

 急ごしらえの小屋というより、もはや別荘じゃないか?

 ミリアちゃんたちの場合、本当の別荘はこれの比ではないだろうけど。

 ともあれ、ここならみんなも安眠できるだろう。

 少し狭いながらも、女性陣はお邪魔させて貰ったというワケだ。

 一度はオーガの集落に厄介になろうとも考えたけど、どうも独特の体臭があるらしくて誰も賛成はしなかった。

 だが小さいみんなと違って、ミラちゃんの体は色々と大きい。狭苦しい思いをさせるのは本意ではなく、俺は初め遠慮したのだが……。


『男の人と同じ小屋なんて絶対にダメですよ!』


 なぜか、そんな恐ろしい理由で全員から反対された。

 そんなの頼まれたって断るよ。

 本当は外で眠らずにいるつもりだったのだが、最終的に【人化】を解除してミリアちゃんに装備されていればスペースを奪わずに済むと思い付き、どうにかみんなも納得してくれた。やれやれだ。

 そんなこんなの朝である。


 薄暗い室内を見渡すと、まだ目を覚ました者はいない。

 昨夜はミリアちゃんが、いつもより三割増しでテンションが高かった。

 ずっと母親のネイリィとお喋りしていたし、俺だけではなくアミスちゃんたちも巻き込んでいたので、もうしばらく寝かせてあげよう。

 俺は【人化】しなければ睡眠いらずなので寝不足の心配はない。

 ひとりだけ起きているのは通常なら辛いものだけど、ここまでの出来事を終始ニコニコとして語るミリアちゃんには癒されたし、その寝顔も見ていて飽きなかったので退屈は一切しなかったね。

 今もすやすやと安眠しているミリアちゃんの髪をそっと撫でてから、起こさないよう静かに【人化】して小屋を抜け出す。

 しんと静まり返った森の空気もあるせいか、息を白く染める冷気すらも今は好ましく、清々しいと感じられる。


「やあ、おはようクロシュちゃん」

「おはようございます」


 小屋近くの切り株に、ノブナーガが腰かけて焚き火にあたっていた。

 どうやら、ちゃん付けで通すことに決めたらしい。

 本来の姿を見せているので、すでに俺が人間ではなく【魔導布】であるというのも理解しているはずだけど、態度を変えるつもりはないようだ。

 一方で俺のほうはといえば、未だにどう接するべきなのか、立ち位置が掴めていなかったりする。

 ミリアちゃんの父親として見ればいいのか。それとも上位貴族か、あるいはミラちゃんの子孫か……。

 しばし黙り込んでいるとノブナーガは立ち上がって背筋を伸ばした。


「昨日はなかなか落ち着いて話せなかったからな。改めて、名乗らせて貰うとしよう。私はノブナーガ・グレン・エルドハート。ミーヤリアの父であり、皇帝国の侯爵なんて肩書もあるが、まあ気にせず普段通りに話してほしい」

「……それで構わないのであれば」

「構わないとも。それが貴女であればなおさらだ」

「どういう意味です?」


 切り株に手の平を差し向けられ、遠慮なく座らせて貰う。

 パチパチッと火にくべられた薪が弾ける音を耳にしながら返事を待つ。


「ミリアはまだ知らない話だが、当主にはいくつか秘密裏に伝えられている情報があるんだ。その中には【魔導布】に関する詳細な記録もあってな」


 具体的には、俺の性格や考え方、みたいなことまで知っていたそうだ。

 これは聖女が書き残した手記に記されているらしく、代々の当主だけが受け継いでいる極秘情報だという。

 俺は当人なので教えても構わないのだろう。


「私の性格が極秘情報ですか」

「いつか目覚めた時、貴女の力を不正に利用されないようにという意図があったようだ。詳細な能力に関しても、同じように秘匿されている」


 伝説のなんか凄い防具として伝わっているだけで、詳しくは誰も知らないのかと思えば、それは人為的に情報統制された結果だったワケか。

 これは他にも似たような部分がありそうだな。


「ちなみに、私のことはどのように書かれているのですか?」

「抽象的ではあるが、騎士の如き誠実さと慈悲を持ち、口調とは裏腹に荒っぽい側面もある……とされているな。だが、信用すべき相手とも」


 書いたのがミラちゃんなら、俺が彼女にどう思われていたかがわかる。

 ちょっと本性を見抜かれてたっぽいけど、信頼はされていたようだ。良かった。

 べ、別に知ってたけどね? 心配とかしてないんだからね?


「しかし人の姿になれるとは私も知らなかったな。ミリアの友人と紹介されたのもあって、名前を聞いても最初はまったく気付けなかった」

「この力を手に入れたのは、つい最近ですからね。ミラが知らずとも当然ですが……だからミリアが怪物退治に向かうのを許可したのですね」

「信用できない者に、大事なミリアは預けられんよ」


 当初、俺は周囲の誰かに止められると予想していたのだが、カノンを初めとする従者たちはノブナーガの意志に従い、ネイリィも賛同したのだ。

 俺が逆の立場だったら、よく知らないやつにミリアちゃんを任せるなんて、あり得ない選択である。

 つまりこれは俺を信用している、なによりの証だった。


「付け加えるとすれば、貴女だったら奴に勝てると踏んでいたからだな」


 ナミツネたち護衛騎士では、ラエちゃんに勝てないという意味だろう。

 実際それは正しい見立てだったので、ノブナーガの観察眼はかなり高いようだ。

 その判断と、決断する力はまさに当主として相応しく感じられた。


「できたら私が直々に戦ってみたかったのだが……」


 これさえなければ、もっと良かったんだけどな。


「そのせいで罠にかけられ、結果ミリアが悲しんだのをお忘れですか?」

「う、い、いや、それはだな……」


 ミリアちゃんが笑顔でいられるためにも、この男には少し落ち着きというものを持って貰いたいものだ。

 そんな視線を送っていると、観念したようにノブナーガは溜息を吐いた。


「なんというか、クロシュちゃんと話していると、ネイリィとクーデルを同時に相手している気分にさせられるな」

「自業自得なのでは?」


 妻であるネイリィは元より、政務官筆頭とかいう役職だったクーデルが、この男に対して忠言していたのは想像に難くない。

 苦労していたんだろうなぁ。


「いや、面目ない。私が不甲斐ないせいで貴女にもご迷惑をおかけした。改めてミリアを助けてくれたことに最大限の感謝を。本当にありがとう」

「私は私がしたいようにしただけですよ。そう思うのであれば、今後はミリアの笑顔を曇らせないように、お願いします」

「聖女ミラに誓って」


 ここまで言うのなら大丈夫だろう。

 あとは、残った問題を解決しないとな。


「この分だと、帰ったらクーデルからも小言を言われそうだ」

「甘んじて受けてください。……それと、お話したいことが」

「聞こうか」


 途中から声のトーンを低くしたら、それまでの笑みを消して応じた。

 どこか軽い印象は失せており、まさに侍の如き面持ちである。

 どうやら先ほどまではミリアちゃんの父親としてのノブナーガで、これが当主としてのノブナーガのようだ。

 ……名前のせいで微妙に軽さが拭えないのは気にしないように努める。


「すでに報告は受けているでしょうけど、騒動の元凶についてです」

「インテリジェンス・アイテムが主犯であり、どこかの国が後ろ盾となって助力している、という話だったか?」


 俺とノブナーガは判明している情報を一度まとめる。

 まず、敵はルーゲイン率いるインテリジェンス・アイテムの集団と、それを支援している某国。

 ルーゲインの目的は国を得ることで、某国に関しては一切不明。

 その手段も不明。

 手掛かりとしてはミリアちゃん……というより、エルドハート家の当主が障害であり、排除しようとしていた事実くらいだ。


「なぜ、エルドハート家の当主が狙われたのでしょうか」

「理由はいくらでも挙げられるな。私が邪魔な輩は一定数いるはずだ」

「しかしミリアまでも狙われたのは不自然ではないでしょうか」

「そうだな……」


 ふと、考え込むように俯いていたノブナーガは顔を上げた。


「先ほど当主には、秘密裏に伝えられている情報があると言ったね」

「……その中に心当たりが?」

「いや、あくまで可能性としてだな。なにせ情報量が多い。どれが目的なのかも見当が付かん。だがエルドハート家といえば聖女ミラか【魔導布】の伝説……そして魔獣に関することが有名だろう。それらを欲しがる者はいるはずだ」

「魔獣にも極秘情報があるのですか」


 生態とかかな?

 そう予想したら首を振られた。違ったみたいだ。


「そういえばクロシュちゃんが眠っている間の出来事だったか。我々の祖先である聖女ミラが魔獣事変を解決した折に、当時の皇帝陛下より魔獣の侵攻を阻む防衛線を築くよう各地に命が下されたのは知っているね?」

「そのひとつが城塞都市、ですね」


 神妙にノブナーガは頷く。

 より厳密にいえば、城塞都市は防衛戦の拠点となっている都市のひとつで、東西の各地点に似たような街が建設されたらしい。

 それこそが魔獣から帝国を守護する防壁、魔獣戦線といったところか。


「しかし、どれだけ知恵を絞り死力を尽くそうとも、魔獣事変と同じ規模の侵攻が起きてしまえば、成す術もなく人間たちは蹂躙される。それが真実だ」


 これも極秘だから内密に、と付け足す。

 あまりに、あっさり明かされたので緊張感がない。

 だが絶対なる安全を謳っていた城塞都市が、その実とても細いロープで綱渡りをしているなんて露呈すれば、大騒ぎを通り越して恐慌状態に陥りかねないことは容易に想像がつく。


「ですが備えがないワケではないのでしょう?」

「そうだ。それこそが魔獣に関する、エルドハート家が受け継ぐ秘密だ」

「教えて貰うことは……」

「クロシュちゃんなら構わないと私は考えているよ。なにより聖女ミラと共に、皇帝国の危機を救った英雄だからね」


 俺は寝ていただけなので気が引けるな。

 でも今は都合がいいし、乗っかっておこう。

 ノブナーガは僅かに声を潜めて、極秘とやらを語り始める。


「とはいっても、実は私も詳しくは知らないんだ。わかっているのは、もしも再び魔獣事変が繰り返されることになった時、守護者たちが現れる……という言い伝えのような話だ」


 その正体がなんなのかは、ノブナーガの父や祖父も知らなかったそうだ。

 たぶん、初めから詳細は伏せられているのだろうが、守護者たちってのはミラちゃんの時代から伝えられているはずなので、少なくとも二百年は生きている。

 ひょっとしてインテリジェンス・アイテムのことなのか?

 もしくは代々、その為に人材を育てている家系があるとか?


「そういった情報が目当てだとしよう。だが私から聞き出すのは困難だと判断したので、当主となったミリアが受け継いだと見て襲撃した。そう考えられるな」

「いえ……待ってください」


 もし、なにかしらの情報を聞き出すのが目的だとすればおかしい。

 やつらは、最初からミリアちゃんを暗殺しようとしていたのだ。


「知ろうとしたのではなく、消そうとしたのでは?」

「入手ではなく、抹消か。だとすれば既に内容を把握していたことになるな」


 ……だとしても、そこにどんな意味があるのだろう。

 例えば魔獣に関する秘密を消したとしよう。

 すると魔の森から現れる魔獣の被害を抑えられなくなる。

 それを利用しようとか……あ。

 魔獣、というワードに関連して気になることを思い出した。



『悪魔の仲間はワタガシの配下を奪おうとした。この森では失敗したが、弱きものならば抵抗できない。留意せよ人間たち』



 つい先日、白い毛玉である魔獣本人から聞いた言葉だ。


「ひとつ、気がかりなのですが……」


 俺はノブナーガに、毛玉の言葉をそのまま伝えた。


「……つまり、魔獣を味方にできる術があるという意味ではないでしょうか?」

「なんだと!? それが事実だとすれば魔獣を使役して街を襲わせ……」

「悪いけど、もう少しだけ抑えて貰えるかしら。あまり子供たちに聞かせたくない話みたいだし」


 振り返ると、ネイリィが指を口元に当てていた。

 手にしていた上着を羽織りながら物音ひとつ立てずに歩み寄る姿は、寝起きとは思えないほど完璧に整っている。

 なんというか、ちょっと見惚れてしまう美しさだ。


「おはよう、クロシュちゃん」

「あ、はい。おはようございます」


 昨日はあんなことを言っていたのに、ネイリィもちゃん付けで通すようだ。

 あまり気にしないことにして、俺は立ち上がって挨拶を返す。


「それで、ミリアを悲しませた愚物は誰だったのかしら?」

「まさにそれを考えていたところなんだが……」

「ねえアナタ、私ね……昨夜はミリアから色々な話を聞かされたわ」

「そうか」


 俺も聞いていたので知っている。

 楽しい話も多かったが、辛い体験をしたことも、すべて打ち明けていた。

 それを静かに耳を傾けていたネイリィだったけど。


「久しぶりに……血が騒いだわ」

「……そ、そうか」


 僅かにノブナーガの声が震え、周囲の気温がさらに下がった気がした。

 頬笑みを絶やさないネイリィなのに、どこか空恐ろしい。

 というか、これ絶対に怒ってるね。


「クロシュちゃんなら、私の気持ちがわかるかしら?」

「もちろんです。元より私はミリアから笑顔を奪おうとする輩を根絶するつもりでしたので」


 大いに共感できたので俺の気持ちも言葉にする。

 ノブナーガが微かに身じろぎしたのは気のせいだろうか。


「嬉しいわ。さすがクロシュちゃんね」


 妖艶な笑みを浮かべ、いつの間にか抱き締められていた。

 なにが起こったのか理解できない……だと?

 幻術だとか超スピードでは断じてないけど、時を止められたワケでもなく、ただ一瞬だけネイリィが消えたような違和感だけはあった。

 正体不明のスキルに俺もたじろぐが、抵抗はしないほうがいいだろう。

 これは直感だけど、彼女が味方で良かったと心の底から感じた。


「で、では話を戻すが、魔獣を使役する術というのが本当に存在するとすれば、なるほど……エルドハート家に対魔獣の秘策があると知り、事前に排除するべきという考えに走ったのなら説明が付く」

「どこから漏れたのかしらね」

「怪しいのは何人かいるが、目立った動きはしないはずだからな。情報提供に留まっていると見ていいだろう」


 会話から察するに、内部から情報漏洩があったようだ。

 その辺は俺に手出しできそうにないので任せるとしよう。

 二人の推測は更に進む。


「とすると、後ろ盾になっている国は……武王国ね」

「その可能性は高いな」

「武王国ですか?」


 前に名前を聞いた覚えがある。

 たしか、この帝国から西にある隣国じゃなかったかな。


「武王国と皇帝国は、かつて領土争いをしていたんだ。数十年前にあちらの先王が逝去して以降は停戦条約も結ばれ、最近は特に丸くなったと思っていたが……」

「どちらから接触したのかはともかく、再び皇帝国に立ち向かおうって腹積もりなのかしらね」

「それは要するに……」


 やつらは戦争を仕掛けるつもりか!


「土地を奪えば褒賞として渡すのは簡単でしょうし、ひとつの国を衰退させれば新しい国を作るのも苦ではないわね。周辺国にどう言い訳するのか見物だわ」


 ちょっと整理しよう。

 魔獣という切り札を十全に機能させるためには、エルドハート家の存在が障害となっていた。

 上手くノブナーガを罠にかけたが、ラエちゃんが反抗的だったので捕えるだけに留まり、いつまでも始末されないので作戦を決行できず、そうこうしているうちに新たな当主としてミリアちゃんが選定されてしまった。

 魔獣への対抗策がどのようなものか具体的にわからないものの、新当主が受け継いで実行できるとしたら……と考えたのだろう。

 そうしてミリアちゃんまで狙われる結果となった。


 ようやく、一連の流れが把握できた気がするな。

 だけど。


「これが正しいのか、確証がありませんね」

「あくまで仮定だからな。魔獣を操れるとしても、ほんの数十体ならば魔獣事変に遠く及ばないだろう。それこそ千体は必要だろうが、とても可能とは思えん」

「自由に操れる、という点では脅威に違いはないわよ? まあ私としては、条約を破って商家連合や、鍛冶王を敵に回してしまうほうが納得できないけど」


 そもそも、これは大した問題でもなかった。


「どちらにしても当主であるノブナーガとミリアはここに健在ですから、二人が無事でいる限り、安易に魔獣を動かしたりはできないでしょうね」

「……本当にそうだろうか?」

「え?」


 不穏なノブナーガの発言に思わず聞き返してしまう。


「以前から皇帝国内で不穏な動きがあったのは把握していた。ここまで直接的に動くとは予想できなかったが、逆に言えば暗躍していた自分たちの存在が露見しても構わないという意志の表れでもあるだろう」


 言われてみれば暗殺者が堂々と現れたり、毒物を公衆の場で使おうとしたり。

 ノブナーガへの罠と違い、とにかく強引な手段が多いように思える。


「恐らく、あちらの内部でも首脳陣と現場の間で諍いが起きているはずだ。侵略目的の戦争をしようと表立って動きだしたのだから、あとは迅速に行動し、相手に可能な限りの被害を与えるしかない。だというのに肝心の魔獣が使えず手をこまねいている現状は、武王国とって計画が成功するかしないかの瀬戸際のように感じているだろうからな。すぐに、いや、すでに無理難題を喚き立てているか?」


 ルーゲインは言っていた。


『実はすでに最終局面に入っているんですよ。あとは最後の障害……目標を排除すれば最期の作戦が決行されます』

『僕たちも引く訳にはいかないのです』


 それらが意味するのは。


「敵は焦っているのですね?」

「そうだ。そんな状況で、当主の私が消息不明となり、新たな当主までも森に向かったと知れば……」

「まさか」


 今こそが好機と判断してしまうのではないか。


 そこまで思い至った時、凄まじい敵意が遠方より発せられるのを感じ取った。

 かなり距離が離れているにも関わらず、はっきり感知できているのは、その数があまりに膨大であるからだと理解する。

 誰が、どこから、なぜ、そんな疑問すら浮かばない。

 むしろ、これこそが答えである。


 後に語られることとなる『第二次魔獣事変』の始まりだ。

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