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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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説明しましょう

 俺が【念話】を飛ばしてからというもの、場は依然として混乱したままで、おっさんたちはヒソヒソと囁き合っていた。

 おっさん同士でそれは、あまり絵面がよろしくないのでやめて頂きたい。

 さっきまで近くにいたおっさんまで、今は別のおっさんと話し合っている。

 いきなり光り輝いた俺も悪いんだけどさ、あまり放置されても反応に困るぞ。

 ここは、もういっちょ【念話】いってみますか。


〈この目覚めは、私を纏うに相応しき者がこの場に現れたことを意味する……〉


 ついでに、暗に俺には責任がないことを強調しておいた。

 それに反応してか、ようやく数人のおっさんが近寄ると、代表するかのように堅物そうなのが口を開く。


「あ、改めて確認させて貰いたい。先ほどの声は貴方の物なのか?」

〈その通りだ。それで、この集まりはいったい何事か?〉


 だいたいの事情は話を聞いていたから察しているけど、目覚めたばかりなのに状況を把握していては不自然に思われそうだ。

 ここは素知らぬ振りをしておくに限る。


「それはだな……」

「審査官殿、相手はかの【魔導布】です。口調を改めて頂けますかな?」

「む、すまない」


 今度は別のヒゲおっさんが口出しをしてきた。

 その言い方からすると、礼儀に関してうるさそうだ。


「失礼しました【魔導布】殿。私はジェノトリア・レプリ・クス・エルドハートと言います。どうぞ気軽にジェノとお呼びください」

〈……わかりました。それではジェノさん、と……。私のことも魔導布ではなくクロシュと呼んでください。そちらのほうが親しみがありますので〉


 急に口調を変えたからか、あるいは名前で呼ぶことを勧めたからか。周囲の反応は顕著だった。単純に驚いたのに加えて感心が入り混じった表情だ。

 俺はただ相手が丁寧に接するのであれば、同じように返そうと考えただけなのだが、見た目ただの布が気遣いをできるとは想像してなかったんだろう。


「ご配慮、痛み入ります。ところでクロシュ殿は目覚めたばかりで状況を理解できていない様子。ここは説明の為にも選定の前に、一度休憩を入れた方が良いかと思われますが……どうでしょうか審査官殿?」


 どうでしょう、と問いかけてはいるが、ほとんど強要するかのような凄味があった。ただのヒゲおっさんじゃ、なさそうだな。


「……仕方がない。ひとまず休憩に入った後、再び選定を行うものとする!」




 審査官と呼ばれたおっさんが号令のように宣言してから、俺はすぐにマジメそうな女の人に台座ごと運ばれて、おっさんらと共に別室へと移動した。

 少し遅れて別のおっさんらと、例の4人組も姿を見せる。

 どうやら、この場にいるのは関係者だけのようだ。


「まずは自己紹介からにしましょうか。改めて、私の名はジェノトリアです。エルドハート家の第二門、その主を務めています」


 ……第二門?

 聞き慣れない言葉だったが、こっちの疑問に気付かないまま紹介は続く。


「おっほっほっ。私は第三門のボルボラーノ・レプリ・ケス・エルドハートです。よろしくお願いしますよ、クロシュ殿」


 今度はデブおっさんだ。やたらとニヤけているのが気色悪い。


「えー、最後になりますが私はトルキッサス・レプリ・コス・エルドハートです。お察しの通り第四門となりますね」


 おっさんだ。特徴のない地味な。

 さて、ここまでおっさん三連星の紹介を聞いてきたわけだが、ほとんど覚えていないのは俺が悪いわけじゃないと思う。

 それよりもだ。


〈あちらの四人は?〉


 未だに沈黙を保っている頭巾仮面たち。

 こうして見ると、やはり背が低いようだ。これではまるで……。


「実は、この子らのいずれかがクロシュ殿の言う相応しき者だと我々は見ているのですよ。みんな、選定は後回しになったから外しても構わない」


 ヒゲのジェノが後半だけ妙に優しい口調で話しかけると、それぞれが小さな手で被り物を取り、素顔を見せる。


「…………ふぅ」

「あ、暑いですねこれ」

「もう、髪が乱れてしまいそうですわ」

「二度と被らなくていい?」


 よ、よ、よ……幼女だ。

 紛うことなき真にして全なる幼女が、そこに、4人も。

 そうだったか。

 なぜ、俺がこんなにも気になっていたのか。ようやく繋がったぞ。

 例え頭ではわからずとも俺の心、いや魂が見逃さなかったのだ。

 本能が叫んでいたのだ、あれは幼女だぜ、と……!


 口々に不満を言っているように、あの被り物は蒸して暑かったのだろう。僅かに上気した顔でこちらへ近付く。


「順番に紹介しましょう。向かって右端にいるのが主門であるミーヤリア・グレン・エルドハートです」


 主門というのが理解できないが、わからないことは後々まとめて聞こう。

 名を呼ばれた幼女、ミーヤリアちゃんはそっと軽くお辞儀をした。

 セミロングの黒い髪にはヘアピンに似た髪留めを付け、そこから覗く瞳もまた黒く、どこか冷めた視線を放っているのだが、それがまた可愛らしい。

 歳は……9歳くらいだろうか。

 大人びた雰囲気を漂わせていて判別が付き難いが、そう遠くないだろう。



「続けて隣にいるのが第二門、つまり私の娘であるアミステーゼ・レプリ・クス・エルドハートです」


 紹介が終わるとアミステーゼちゃんは一歩、前へ出て丁寧な礼を披露する。

 あの礼儀にうるさそうなヒゲことジェノの娘だから、躾も厳しいのだろう。

 そんな彼女の髪は、ミラちゃんを思わせる美しい青色をしていた。

 後ろは腰の辺りに届くほど長いが全体的に均一となるよう整えられており、前髪はパッツン気味に揃えられていて可愛らしい。

 瞳も青く、きりっとした目つきはどことなく誠実な騎士を思わせるも、まだまだ幼いため威厳より愛らしさが勝る。

 それでも4人の中では最年長っぽく、恐らく11歳程度ではなかろうか。



「ではでは、次は私の娘の番ですな。あの輝く金色の髪を持つ少女こそが第三門のソフィーリア・レプリ・ケス・エルドハートですぞ」


 今度はデブが紹介を引き継いだところで、ふと気になった。

 ……最初のミーヤリアちゃんの親はいないのかな?

 後回しにしておくか。どんどん聞きたいことが増えて行くなぁ。

 そうこうしている内にソフィーリアちゃんの礼が終わる。

 なんというか、尊大な態度だった。

 金髪のツインテールに青い瞳。いわゆる金髪碧眼ってやつか。

 両脇で結ばれた金髪はとてつもなく長く、毛先が膝の辺りに達していた。あれ解いたら自分で踏んじゃいそうだな。

 見るからにワガママっ子なドヤ顔が可愛らしく、悪く言えば傲慢、良く言えば自信に満ち溢れていた。

 歳は10歳くらいかな?



「えー最後は私の娘ですね。左端にいるのが第四門のミルフレンス・レプリ・コス・エルドハートです」


 次は地味なのの娘か。

 ミルフレンスちゃんは他の3人とも違った雰囲気を持っており、優雅な礼をするとそのまま視線を落として佇む。

 柔らかい髪質から生まれる、ゆるふわウェーブの髪は薄い紫色をしており、胸の辺りで左右両方をリボンで緩く結っている。

 赤い瞳は幼さを超越した妖美の光を宿し、しかし上品で物腰が柔らかい姿は深窓の令嬢といった印象を抱かせた。

 だが、どこか気怠くぼーっとしているようにも見えるのが可愛い。

 恐らく10歳ほどだろう。


 かわいいな、みんなかわいい、かわいすぎ。

 思わず一句詠みたくなるほどだった。まさに聖女の候補たちだ。

 もう、みんな聖女でいいんじゃないかな?


「次に、クロシュ殿が置かれている状況をご説明しようと思うのですが、どこまで把握されているでしょうか?」


 あの騒ぎの責任だけは俺にないと思わせなければならないし、そうなると300年ほど眠っていたのを知っているのはおかしいかな。


〈私を装備する資格のある者が近くにいること……それだけ把握しています〉


 そこまで言い切ると、何人かに哀れむような視線を向けられた気がした。


「……分かりました。であれば私は残酷な報告をしなければなりません」


 一呼吸を置いてジェノは続ける。


「クロシュ殿が聖女ミラと共に行動していたのは、記録では今より300年も昔の話になります。つまり貴方は300年間……眠り続けていたのです」


 沈黙が耳に痛い。

 ええ、知っていました、などと今さら言えるわけもない。

 それなりに悲しむ姿を見せておくべきか。


〈そうでしたか……では、もうミラに会えないのですね〉

「っ……。ええ、そうなります……」


 思った以上に雰囲気がシリアスになりつつあるぞ。どうしよう。


〈ああ、ご心配なく。私がこうして目覚めた時点で予測はしていましたし、覚悟もできていました〉

「そ、そうなのですか?」

〈とはいえ寂しさは、やはり感じますけどね〉

「……記録上の話で申し訳ないのですが、クロシュ殿と聖女ミラは仲がよろしかったそうですね」

〈さて、どうでしょうか。しかし私は彼女を護ると誓いましたが、結果がこれですからね……さぞ失望させたことでしょう〉


 自分で言いながら、その場面を想像してしまい軽く落ち込んだ。


「……これも記録の話ですが、聖女の伝説によると【魔導布】の働きにより命を救われたとされています。私は聖女ミラについて何も知りませんが、貴方に感謝こそすれど、失望などしなかったと、そう思いますよ」

「そ、そうですぞクロシュ殿! それにクロシュ殿は当時、まだ皇子だった皇帝陛下を救出したというではないですか! とても御立派だと思いますぞ!」

「えっと、私も同じ意見ですよ。【魔導布】の称号も、功績を称えて拝領されたと聞きますし、聖女ミラも誇らしく感じていたのではないでしょうか」


 ヒゲ、デブ、地味と順番に励ましてくれる。

 なんだよ、このおっさん共……いい奴らかよ。

 若干の後ろめたさを感じながら、俺は曖昧に返事を返しておいた。




 更にジェノの現状説明は続き、細かい部分までは長くなるからと簡略的にではあったが、俺が眠ってからの経緯……300年間の歴史を教えてくれた。

 聖女と呼ばれるようになったミラちゃんだが、これは例の暗黒つらぬき丸に操られていた皇子を救っただけではなく、その後も各地で負傷者を癒したり、いくつかのダンジョンを攻略したことで自然と称えられるようになったそうだ。

 おまけに、貴族になったりしたから地位的にもそこそこ偉くなり、名実ともに【聖女】として活動していたとか。

 その間も俺を装備していたことで【聖女】の名声と共に【魔導布】の名が知れ渡り、現代に至っては伝説にまで昇華されるほどの偉業を成し遂げたらしい。

 いったい、なにをしたんだろう。

 詳しく聞きたい部分だが、今となっては僅かに記録が残っているだけで詳細を知る者などいないという。それもそうだ。

 肝心のミラちゃんの生涯についても、伝説とやらによれば最後はどこかへ旅立ったという言葉で締め括られており、誰も真相は知らなかった。

 ちょっと気になるが、調べる手段もないそうなので諦めるしかなさそうだ。


「ちなみに、聖女ミラは婚姻を結ばなかったそうです」

〈……なんですと?〉


 ミラちゃんは結婚しなかった、ということは子供もいないわけで……。

 この場にいるのは子孫じゃなかったのだろうか?


「子と呼べるのは、聖女が自ら進んで引き取ったという孤児の少女ですね。……残念ながら名前までは不明ですが」


 つまり、ミラちゃんは養子を取って、その子の子孫が今に至るということか。

 ミラちゃんと血の繋がりみたいなのは、ないのかな。


「厳密に言いますと、聖女ミラの子孫となるのは主門であるミーヤリア、ということになりますね。私たち第二、第三、第四門は親戚筋の子孫にあたるそうです」


 なんか、ややこしくなってきたぞ。

 主門や第二門についても聞いてみると。先に説明すべきでした、と軽く謝罪されてから再び紹介を交えて話してくれる。


 主門。

 ミーヤリア・グレン・エルドハート。


 第二門。

 ジェノトリア・レプリ・クス・エルドハート。

 アミステーゼ・レプリ・クス・エルドハート。


 第三門。

 ボルボラーノ・レプリ・ケス・エルドハート。

 ソフィーリア・レプリ・ケス・エルドハート。


 第四門。

 トルキッサス・レプリ・コス・エルドハート。

 ミルフレンス・レプリ・コス・エルドハート。


 一覧にすると、こんな感じか。

 この関係を簡単に言えば本家と分家だろうか。

 主門というのが本家で、他が分家のようだ。

 数字が序列を示しているそうで、第二門のジェノは、主門の次に偉い、とかそういう感じだろう。


 元々はミラちゃんだけが爵位を得て貴族になったが、代を重ねるに連れて爵位は上がり、領地も拡大したことから経営が難しくなった。

 そこで当時の親戚たちに頼み、領地を分担して治めたという。

 詳しい仕組みはわからんが国にも認められているなら、そういうことも可能なのだろうと納得しておく。


 しかし、そうなると当主を選定するってのは、どういうことなんだ?

 ミーヤリアちゃんの親が、この場にいない時点でなんとなく察せられるが、想像通りだとしても次の当主は主門であるミーヤリアちゃんになるはずだ。

 第二や第三の分家から選ばれる、なんてことがあるのだろうか。

 そんな俺の疑問に気付いたのか、ジェノも本題に入る。


「これまでの話については、もうご理解できたかと思います。次は、これからについてです」

〈選定、と言っていましたね〉

「はい……これから彼女たち4人の中から次の当主を選定し、選ばれた家が主門となるのです」


 あっ、なんか面倒臭そうなのに巻き込まれてる気がしてきたぞ。

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