お断りします
これは巻き込まれると面倒だ。
そう思いつつも、装備者のいない今の俺では逃げることすらままならないので、引き続き耳を傾けるしかなかった。
そんなこんなで結局、この場にいるエルドハート家の面々を取り巻く現状を把握するまでに至ってしまうわけだが、やはりというか面倒臭そうだ。
あまりに話が長く回りくどかったので、少し整理してみる。
まずは、ここまでのおさらいだ。
エルドハート家はミラちゃんの養子の子孫を本家とした貴族。
ミラちゃんの親戚筋が分家となり、各地方を治めている。
本家を主門、分家を支門と呼び、第二門、第三門と序列を表している。
今回の選定で第二門から第四門までの支門のどれかが主門になる……。
とまあ、だいたいこんな感じか。
問題はここからだ。
主門を変更するってことは、分家が本家に成り上がるようなものだろう。
本来なら、そんな事態は滅多なことでは起きないと思う。
その滅多なこと、というのが現主門の当主……つまりミーヤリアちゃんの両親が一月も不在にある現状だそうだ。
周囲は死亡と判断しているが正確には行方不明らしい。詳しく教えてくれなかったが、ミーヤリアちゃんがいる手前あまり深い話は躊躇われるのだろう。
重要なのは次の当主を娘であるミーヤリアちゃんが引き継げるかどうかだな。
この国の法律的には大丈夫らしいし、通常であれば親の代からの優秀な部下たちがいるので、その補助があれば困難ではあっても不可能ではない。
しかし時期が悪かった。
彼女が治めることになる領地はいくつかの問題を抱えており、当主である親の不在も重なって第二門から第四門までの分家に援助して貰っている現状だという。
幼い彼女が背負うには、あまりに荷が重いというのが周囲の反応だ。
そこで各門の当主らは話し合った結果、主門の委譲案に合意したことで新たな主門となった家がすべての荷を背負う格好となる。
……だったら単純に、分家が本家を支えてやればいいんじゃないか?
わざわざ主門とやらを委譲するまでもなく、みんなで協力すればいい。
そう念話を出しかけたところでジェノに機先を制された。
貴族の矜持がどうとか、主門と支門は元はひとつでも今は別々の家だとか、各門は序列こそあれど対等であり一方的に養うだけの関係は避けたい等々……。
貴族というのは口が上手い職業なのだろう。
聞いていると納得してしまいそうになったが、そこは人間やめた俺なので客観的かつ俯瞰して物事を見れば……うさん臭い。
ほとんど言い訳染みた口振りだったし、単に本家の座を巡ってドロドロの争いが繰り広げられていると言われたほうが理解できる。
ただ、それを指摘しても疎まれるだけなので黙っておく。
せめて装備者を確保できるまでは大人しくしないとな。
〈しかし、それで彼女が候補に上がっていては矛盾するのでは?〉
彼女というのは当然ながらミーヤリアちゃんのことである。
これから主門を委譲するというのに、現主門の者が候補にいては意味がない。
もっと言えば、おっさんらが各門の当主ならば、新たな主門の当主もおっさんたちの中から選ぶのが自然なはずだ。
幼女らが当主候補なのはなぜだろう。
「それはエルドハート家に古くから伝わる選定方法がありましてね」
曰く、聖女ミラより受け継がれし『魔導布』を纏いし者は、真にエルドハートの名を継ぐに相応しき者である。とかなんとか。
どこの誰が言ったのかも知れない言葉をしきたりのように守り、主門の当主となる者は必ず俺を装備できるか試すらしい。
ちょっと待てよ……。
それ、どっかのおっさんが俺を装備したってことか!?
人が寝ている間になにしたのよ! このスケベ!
「とはいえ記録ではクロシュ殿を装備できた者はひとりとしていないそうです」
な、なんだ驚かせないでくれよもう。
「まあ、それで慣例として行っているのですが、この選定方法は主門のみならず、支門からも候補をひとりずつ選出して行うのが決まりなのです。これは、より装備可能な者の発見率を上げる為だと言われていますね」
実際のところは、誰も装備できなければ別の手段で当主を選定するという決まりまであるというので、ほぼ形骸化しているみたいだ。だからこそ支門の者まで候補になれるのだろう。
今回の場合は逆だけど、俺が目覚めていなければミーヤリアちゃんを除いた3人の誰かが主門の当主とされていたはずだ。
おっさんらが候補になっていない点に関しては、理由がふたつあった。
ひとつは俺を装備できる聖女の再来を求められていること。
もうひとつは、あと数年もすれば幼女たちも成人となり、遅かれ早かれ当主の座を譲ることになるので、今回の件で前倒しにするということだ。
早めに経験を積ませておくという狙いもあるという。
その辺りの考え方は貴族でも、子供もいない俺にはまったく理解できないが、そんなものなのだろう。
ちなみに、皇帝国では15歳から成人だった。早い。
「そろそろ、いいだろう」
今まで黙っていたおっさん、たしか審査官とか呼ばれていたやつが口を開いた。
「もう理解されているだろうが、貴方には次期主門の当主を選定して頂く」
「難しく考える必要はありませんよ。クロシュ殿には、クロシュ殿が認めた者を宣言して頂くだけです。その者が当主になるのですから……」
4人の幼女を眺めながら呟くジェノ。
なんともないように装っているけど、本心ではどうだろうか。
見れば他のデブと地味も、どこかそわそわとしている。
誰もが自分の娘が選ばれることを願っているだろうし、万が一にでもミーヤリアちゃんが選ばれたら主門は変わらず、一度は解決を見た領地の問題とやらも、ふりだしに戻ってしまう。
すべては俺の一言で決まるのだ。
責任重大……だが、そんなことを俺が気にする必要があるのかな?
俺の目的は依然として変わらず。
ならば、おっさんどもの気苦労など知ったことではないわ!
気にするなら、どの幼女に装備されたいかの一点のみ。そうだろう?
しかし、しかし。それはそれで。かなりの悩み所ではある。
なにせ、どの子も大変かわいらしいのだから仕方ない。
大雑把に分類すれば――――。
黒髪セミロングのミーヤリアちゃん。
青髪パッツンのアミステーゼちゃん。
金髪ツインテールのソフィーリアちゃん。
紫髪ゆるふわウェーブのミルフレンスちゃん。
――――といった感じだ。
服装は色違いの同じ礼装を着ているので判断材料が髪くらいしかないな。
なら、ここは容姿だけではなくステータスを確認しておこう。
我が目はすべてを見透かす魔眼なり! いざ【鑑定】!
――――――――――――――――――――
【ミーヤリア・グレン・エルドハート】
レベル:6
クラス:魔導技師
ランク:☆☆☆(シルバー)
○能力値
HP:50/50
MP:30/30
攻撃力:F
防御力:F
魔法力:D
魔防力:E
思考力:E
加速力:E
運命力:D
○スキル
Bランク
【閃き】【直感】
Cランク
【瞑想】【射撃術】【魔道具操作】
○称号
【貴族の娘】【侯爵令嬢】【技巧者】【勤勉】 【おませさん】
【甘えん坊】【自信欠如】【寂しがり屋】【冷静沈着】
――――――――――――――――――――
まずは主門の彼女だけど……おっと、こっちも色々と変わってるのか。
魔導技師というのは始めて見るけど、どういうクラスなんだろうな。
ランクは俺と同じみたいだ。これが高いのか低いのか……。
能力も判断し辛いけど、この感じからすると魔法タイプってところかな。
って肝心のスキルに魔法が一切ないぞ。もったいない。
スキルの詳細は……。
【閃き】
あらゆる面において脅威的な思考展開を行うことがある。常時発動。
【直感】
迫る危機を事前に感じ取ることがある。常時発動。
【瞑想】
心を落ち着かせてMPを回復させる。
【射撃術】
同ランクまでの射撃武器を十全に扱える。
【魔道具操作】
同ランクの魔道具を完全に把握して扱える。
なかなか面白いスキルがあるな。
それに【直感】はミラちゃんも持っていたスキルだ。血は繋がっていないとはいえ、やはり子孫ということかな。
次は称号だ。
【貴族の娘】
貴族の家に生まれた少女。
【侯爵令嬢】
貴族の侯爵家に生まれた少女。
【技巧者】
優れた技術を生み出し使う者。消費MPが軽減する。
【勤勉】
常に前へ進もうとする意思。獲得経験値上昇。
【おませさん】
大人びた子ども。
【甘えん坊】
心を許した者にはとことん甘えたい。
【自信欠如】
なにをするにしても自信が持てない状態。
【寂しがり屋】
孤独を嫌う者。心を許せる相手がいないと全能力低下。
【冷静沈着】
どんな時でも落ち着いて行動する者。心の内は明かさない。
……ひょっとして、無理をしているのかな?
いやまあ両親が行方不明になって一カ月って話だし、この歳の幼女だったら不安に思うのも当然だろう。
むしろ、すぐに思い至らなかった自分が情けない。
――――――――――――――――――――
【アミステーゼ・レプリ・クス・エルドハート】
レベル:8
クラス:見習い剣士
ランク:☆☆(アイアン)
○能力値
HP:60/60
MP:30/30
攻撃力:D
防御力:E
魔法力:E
魔防力:E
思考力:D
加速力:D
運命力:E
○スキル
Bランク
【幸運】
Cランク
【剣術・初級】【戦場の理】【士気高揚】
○称号
【貴族の娘】【伯爵令嬢】【素直】【正義の味方】【実直】【姫騎士】
――――――――――――――――――――
次は第二門の青髪パッツンちゃんだ。
クラスは剣士か。能力値的には攻撃に速さもあり、バランスは良さそう。
ランクが星ふたつのアイアン……良いのか悪いのか。
【幸運】
不確定要素が絡む事象に際して有利になりやすい。
【剣術・初級】
基本的な剣を扱う技術。同ランクまでの剣を振るえる。
【戦場の理】
戦場に置けるあらゆる知識。ランクが高いほど規模が広く深くなる。
【士気高揚】
味方の精神低下を常に抑え、MP消費することで高められる。
戦いに特化したようなスキルだな。将軍とかに向いてるのかな?
続けて称号だけど被ってるのは割愛しよう。
【伯爵令嬢】
貴族の伯爵家に生まれた少女。
【素直】
相手の言葉を疑わない純真な心の持ち主。
【正義の味方】
邪悪に屈さず、自身が信じる善を行う者。
【実直】
後ろめたいことのない正直者。
【姫騎士】
剣を携える凛とした佇まいから贈られた称号。味方の戦意上昇。
見た目通りってところか。
将来はマジメすぎて堅物になりかねないけど、そこは【素直】に期待しよう。
個人的には【姫騎士】の字面に惹かれますな。
――――――――――――――――――――
【ソフィーリア・レプリ・ケス・エルドハート】
レベル:7
クラス:見習い刻印術士
ランク:☆☆(アイアン)
○能力値
HP:50/50
MP:80/80
攻撃力:E
防御力:E
魔法力:E
魔防力:E
思考力:F
加速力:E
運命力:E
○スキル
Bランク
【刻印術】【思い込み】
Cランク
【陣形成】
○称号
【貴族の娘】【伯爵令嬢】【箱入り娘】【自信家】【高飛車】【夢想家】
【不器用】【ツンデレ】
――――――――――――――――――――
金髪ツインテちゃんだけど、能力値がちょっと残念だな……。
クラスは刻印術士。またもや見慣れない名前だ。
どんなものなのか予想もできないけど300年も経っているんだから、そういうこともあるか。
というか俺、元々この世界のクラスに詳しいわけじゃなかったわ。ゲームとか小説の知識しかないわ。知らなくても当然だわ。
あとで調べておこうと、心のメモ帳へ書き込んでおく。
【刻印術】
秘文字を刻んで行う魔術。同ランクまでの術を行使できる。
【思い込み】
自分に信じさせることで不可能を可能にできるかもしれない。
【陣形成】
大規模な刻印術を発動するための陣を描く。ランクにより精度と規模が変わる。
なんだか面白そうだな【刻印術】とやらは。
魔法陣みたいなものだろうか。
【貴族の娘】
貴族の家に生まれた少女。
【伯爵令嬢】
貴族の伯爵家に生まれた少女。
【箱入り娘】
親から大切にされてきた同時に、世間知らずである証。
【自信家】
非常に強い自信を持ち、恐れを知らない者。
【高飛車】
偉そうな態度の者。実際に偉いかは関係ない。
【夢想家】
無理だと言われても夢を追い続ける者。
【不器用】
素直に心を打ち明けられない性格。手先のことではない。
【ツンデレ】
不器用をこじらせた結果がこれだよ。
こっちも、だいたい予想通りな性格だ。
誤解されがちだけど悪い子ではない、ってタイプじゃないかな。
しかし【ツンデレ】だけ説明が雑なのはなぜだろう。
――――――――――――――――――――
【ミルフレンス・レプリ・コス・エルドハート】
レベル:6
クラス:見習い戦士
ランク:☆☆(アイアン)
○能力値
HP:70/70
MP:10/10
攻撃力:D
防御力:D
魔法力:F
魔防力:F
思考力:F
加速力:F
運命力:D
○スキル
Bランク
【天武の才・初級】【身体操作・微】【身体強化・微】【危険察知】
Cランク
【逃走】【脱走】【潜伏】【罠察知】【気配操作】
○称号
【貴族の娘】【伯爵令嬢】【未来の英雄】【怠け者】【怠惰】【猫かぶり】
――――――――――――――――――――
最後は紫髪のゆるふわウェーブちゃんだ。
クラスは戦士タイプとは、あまり見た目にそぐわないな。
能力的には近接戦闘に適していそうだけど。
それよりもスキルが……なんだこれ。
【天武の才・初級】
あらゆる武術に精通し、習得できる武の天才。
【身体操作・微】
MPを消費して肉体の一部を最適な形状へ変化させる。
【身体強化・微】
MPを消費してあらゆる面で身体を強化する。
【危険察知】
自身に迫る危険を察知する。
【逃走】
敵対者から逃げる際に身体能力向上。
【脱走】
閉鎖された空間から抜け出す際に身体能力向上。
【潜伏】
未発見の状態でのみ他者の意識から外れる。発動中はMPを消費する。
【罠察知】
仕掛けられた罠を見破る。
【気配操作】
自身の気配を強く、あるいは弱くする。
最初の三つから推測すると将来的には強くなるんだろうけど、他のスキルが逃げたり隠れたりすることに特化している。
戦う気は一切なさそうだな。
おまけに、この称号だ。
【貴族の娘】
貴族の家に生まれた少女。
【伯爵令嬢】
貴族の伯爵家に生まれた少女。
【未来の英雄】
いずれ勇名を世界に響かせる存在。
【怠け者】
努力が苦手で好きなことだけしていたい者。
【怠惰】
すべてが面倒です。ずっと寝ていたい。
【猫かぶり】
人目があるところでは本来の自分を見せない。
本気を出さない天才ってところか。
スゴイところは、それを微塵も感じさせない【猫かぶり】か。
知った上で眺めていても、お淑やかな印象を感じさせてまったく……いや、見方によっては、ちょっとダルそうにも見えなくはないかな?
うん、ポーっとしている気がする。眠いのか。
ふう、さすがに少し疲れたな。
これだけ一気に【鑑定】したのは、始めてミラちゃんたちと会った時以来だと思うよ。もっと普段から使って慣れておくべきだろうか。
ともあれ4人については、あらかた把握できた。
誰かひとりを装備者として選ぶなら……実はすでに決まっている。
「クロシュ殿、どうかしましたか?」
俺が長く沈黙していたからか、ジェノは怪訝そうな顔をしていた。
〈……誰が資格を持つ者なのかを調べていました〉
「おお、ということは……!」
〈すでに判明しました。私を装備できるのは……〉
「ちょっと待ってくれ!」
審査官が慌てた様子で俺の【念話】を遮る。
「選定結果ならば先程の会場へ戻り、皆の前で……」
「良いではないですか審査官殿。あれは、あくまでお披露目のようなものです。一足先に私たちが結果を知ろうとも問題はないでしょう?」
「私も賛成ですぞ。できるなら早目に知りたいものですからな」
「では私も同意ということで」
「う、うむ……」
おっさん3人の圧力にたじろぎつつ、あっさりと前言を撤回した。
そんなに早く聞きたいのかな?
「ではクロシュ殿、改めてお願いします」
〈わかりました〉
全員の視線が俺に集中し、続けて幼女らとの間を交互に移動する。
なんだか俺まで緊張してきたぞ。こういうの苦手なんだってば。
もっとこう、さらっと言いたいところだが仕方ない。
さっさと終わらせてしまおう。
〈私を装備できる資格を持つのは……主門のミーヤリア、貴女です〉
言い放った瞬間に周囲はどよめき、他の幼女らも唖然として隣を振り返る。
そして俺に選ばれた当の本人は―――。
「お断りします」




