しょうがないなー
ちょっと短めかもです。
朝になってから私は昨日の夜、自身の言動を思い出して溜息を吐く。
上手く事が運ばなかったからといって、あの態度はないだろう。
軽く寝ぼけていた頭も一気に覚醒したので、ついでに反省しておく。
なにか不備があれば必ず問題点を洗い出しておくべし、というのが私の信条だからだ。
……とは言っても、今回のことは過去にも複数回に渡って同じ過ちを犯しているので、まったく効果がないのが悩みの種だ。
原因はわかっている。私の精神が未熟だからだ。
憧れていたインテリジェンス・アイテム……クロシュがあのアサライムを狩るのに一役買うという活躍に心が躍り、私もなにか浮かれていたのだろう。
だから必要のない釣り行為に手を出した。
場合によっては犯罪者を捕えた報奨金でより良い装備が手に入るから、まったくの無駄というわけでもない。でもどこか心の奥底で、クロシュに良いところを見せたい、なんて見栄もあったのかもしれない。
私一人だけでも実行は可能だったのに、クロシュを装備できるか、なんて確認したのも実のところ、私がインテリジェンス・アイテムを身に付けて活躍する様を夢想していたからに過ぎないんだ。
この気持ちはクロシュがミラを護りたいと発言したことで、より一層と強くなった気がする。
なのに、その結果は呆気なく、そして残念なものに終わった。
私は物足りなさから憤慨して……いや、憤慨なんて言い繕うのもバカらしいな。
あれは子供の癇癪だ。
周りの目を気にもせず不満を撒き散らしてしまった。
悪い癖みたいなもので、大きく気が落ち込んだり、あるいは激しくイラつくと途端に幼い自分が隠せなくなってしまう。
それを恐れて普段は大人ぶった言葉を使ったり、常に冷静でいられるよう努力しているのだが、なかなか効果が現れないのは……。
やっぱり私が本当に幼いからなのかな。
……とにかく終わってしまったことを悔やんでいても仕方ない。
どうにか割り切ると手早く支度をして、まずは謝らなければと部屋を出た。
「昨日は悪かった。許してくれないか」
ノットからの斬新な朝の挨拶だ。
まあ、本人も思うところがあったんだろうな。
ふてくされた子供みたいに、多少は翌日まで引きずっていないかと身構えていたんだけど、これは杞憂だったかな。
現在、俺はミラちゃんの部屋にあるテーブル上にかれている。他に人は誰もいないので、ノットが話しかけているのは俺に対してだけだ。
ミラちゃんたちとは先に部屋の外で話したようで、微かにだが似たようなやり取りをする声を俺は聞いていた。
〈私は気にしていませんよ。それと、おはようございます〉
俺からも軽く謝罪を受け入れて、ついでに正しい朝の挨拶をしてみると。
「うん、おはよう」
屈託のない笑顔と一緒に、柔らかい声が返って来た。
よし、本当に大丈夫そうだな。
できれば、もうちょっとその子供っぽいところを普段から見せてくれると俺としては嬉しいんだけど……いや贅沢は言うまい。
そういえばノットって何歳なんだろうな。
大人びた発言と雰囲気から背が低いだけかと思っていたが、ひょっとしたら身近にいる保護対象を見逃していたのではないだろうか?
直接ノットに歳を尋ねるのは地雷な気がするな。
この件はいずれ究明するとしよう。
「……ところでだ。その獣の耳みたいなのはなんだ?」
先ほどから気になっていたらしくチラチラと視線が向けられていた部分についてノットが尋ねたところで、様子を窺っていたらしいミラちゃんたちが入って来た。
なにやら慌てたようにしているミラちゃんを見て、俺は昨日から今朝にかけてのできごとを思い出していた。
ノットが部屋を出て行ったあとの話だ。
他にこれといった用事もなく、明日もダンジョンに潜ることは決まっているので、そのまま解散して休むことになった。
もし第二の襲撃があったとしても俺の察知で事前に把握できるし、隣の部屋くらいまでなら新しい【念話】が届くのも確認しておいた。いざという時はこれで容赦なく叩き起こすから気兼ねなく休むようにと伝える。
予想通りミラちゃんは俺だけに番はさせられないと反対したけど、元々この身体は眠らなくても良い体質なんだよね。
一カ月耐久しりとりをやっていたのは伊達ではない。
それにダンジョンで実際に動くのはミラちゃんたちなんだから、普段はなにもしていない俺にも仕事を与えて欲しいと頼み込むことで、ようやく折れてくれた。
本音をバラすと、一人でゆっくり試したいことがあったからなんだけどね。
それから丁寧に折り畳まれた俺はテーブルの上に安置される。
俺としては着たまま寝てくれても構わない旨を伝えると、シワになっちゃうからダメです、とまたもや反対されてしまった。あとのことを考えると都合はよかったから今回は俺が引いておいたが……どうにも納得がいかない。
やり切れない思いを隠しながらベッドで横になったミラちゃんとしばらく雑談し、やがて彼女が寝静まったのを確認すると、俺は自分のステータスを確認した。
新たに入手したスキルである【暗視】【透視】【変形】【色彩】の四つ。
これらについて、もう少し細かく検証したかったんだ。
厳密には【異常耐性】と【異常付与】もあるんだけど、こっちは俺一人じゃ試しようがないから断念した。付与のほうはノットと間抜け三人組のおかげで、ある程度はわかったけど。
まずは【暗視】からだ。
当然ながら室内は真っ暗だったのだが、使用した途端に暗闇は晴れて鮮明になり、一気に視界が広がる感覚がした。
ここまでは確認済みだ。問題はこの次なのだが……。
俺は【暗視】と同時に【透視】のスキルを使ってみる。
その結果。
うむ、よく見える。
ベッドで布団に包まって眠るミラちゃんの姿がハッキリと。
透視の効果によって掛け布団が透けて、俺の目には寝巻代わりとして身に付けている白いワンピースっぽいゆったりとした服が露出しているように見える。
注ぎ込む魔力を強めたら、残りの防壁も容易に突破してしまうだろう。
正直に打ち明けてしまえば、どうせバレないのだから、という悪魔の囁きはあったけど、それをやってしまうと色々とダメになる気がした。
俺は善人じゃないが、悪人でもなければ下種でもない。
そもそも人間じゃないってツッコミは置いておくとしても、ミラちゃんに対して不義理な真似はしたくない。
心中では様々な葛藤が荒れ狂い、小一時間ほど悪魔との死闘が繰り広げられたが、やがて賢者として覚醒した俺はそっとスキルを断ち切った。
大したことはない。ただ防壁は残り2枚あるのだから1枚で我慢しただけさ。
ミラちゃんには白が似合う。それがわかっただけでも大きな収穫だろう。
夜は長いと言うけど時間を費やし過ぎたかな。次に移ろうか。
続いては【変形】だ。
すでにフードを作ったように、色々と形を変えては元に戻す。
一度でも変形すると固定化されてしまうので、小まめにやらないと変な形から戻れなくなりそうだったが、かなり自由自在に操れるので応用が利きそうだ。
質量保存だとかの物理学を華麗に無視しているのでMPが続く限り部分的に伸ばしたり、フードのように新しく部位を形成するのも可能となった。
折角なのでフードの部分に猫耳みたいな突起を生やしておこう。
最後に【色彩】か。
もの凄く簡単に言えば、あらゆる部位の色を変えられるだけのスキルである。
現在はノット用に黒一色で染め上げているのだが、逆に真っ白にすることも容易い。それだけでは味気ないので細かな黒色の装飾模様を施しておく。
なんとなく筆を走らせるように描いたのだが、こうして見ると神秘的で魔術の紋様にも思えて来るな。実際は意味などないとしても。
他の色も加えるべきかと考えたが、素人にこれ以上のデザインをやらせたら悪い意味での芸術作品にしかならないと考え直した。
こうして猫耳フードと併せて白い魔導師ローブが完成したのだった。
うん、ミラちゃんに似合いそうだな。
達成感と満足感に満たされた俺はステータスを確認すると……おっと。
MP:10/17
ほんの僅かにスキルを弄っていただけなのに、かなりMPを消費していた。
それも戦闘用ではなく補助用としてのスキルだったのに。
使用したスキルが特別に消耗が激しいというわけでもない。単純に俺のMPが少ないから相対的に多く減ったと感じただけだ。
ダンジョンでの感じからすると結界の消費も馬鹿にならないし、現状ではMPがまったく足りていない。もっとレベルを上げる必要があるのだろう。
かといって、これまでのレベルアップでも大してMPは伸びなかったので、あまり期待はできないな。
便利な【剥奪】では俺自身のMPを上げられないようだし……。
他に手はないのかなー。
もっとMPを上げたいなー。
別の方法があればいいんだけどなー。
しょうがないなー。
あなたなら来てくれると確信していました。
かくしんはんー?
そうだよ。
すなおな、よいこには、ごほうびを、あげよー。
わーい。
とりあえず、れべる、10まで、あげてねー。
委細承知しました。
相変わらず言葉が足りない幼女神だが、これまでの経験からするとレベル10に達すればMPの問題は解決するのだとわかる。
ハッキリと答えを示さないのは、やっぱりなにか理由があるのか、単なる気まぐれなのか。今は気にしないでおこう。
他にすることもないので、仕事も済んだとばかりに神様と戯れて朝を迎えた。
目を覚ましたミラちゃんは猫耳フードを発見して、これから装備する自分の姿を想像したのか頬を赤らめて戻して欲しいと懇願していたけど、性能(見た目)を良くするために必要な部位だと説明すると、それならと同意してくれた。
それでもまだ抵抗があるのか、宿を出る直前まで俺を装備するのを躊躇っていたので、ダンジョン以外でならフードを脱いでも構わないと話したことでようやく腕を通してくれた。
その後、ディアナとノット、レインにまでかわいい、似合っていると褒めちぎられたことで再び顔を真っ赤にして動かなくなった。
ミラちゃんには、ちょっと刺激が強すぎたのかな?




