表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第1章「受け継がれちゃう伝説」
21/209

私は悪くねぇー

 ダンジョンに潜って3階に到着した頃だ。

 もちろん今回の目的は暗殺スライム狩りである。言うなれば奴はメタルなスライムだ。経験値的もそうだけど魔石も美味しいし、その上簡単に狩れる手段があるのなら見逃す手はないだろう。

 当分はこれで地道……とは呼べない急速なレベル上げと資金稼ぎになるかな。

 そのために昨日と同じように朝から攻略を開始しているのだが、道中で遭遇するモンスターとの戦闘を眺めていた俺はある提案をしてみる。


「ええっ!? 私がひとりで戦うんですか!?」

〈厳密に言うなら、私と協力するので……〉

「そんなの無茶だって! やるなら私も一緒に戦うよっ!」


 俺の話を最後まで聞かずにディアナから猛反対された。

 しかし二人でなら構わないという辺りがディアナらしいところだ。


「お前の気持ちはわかるから少し落ち着け。……続けてくれクロシュ」


 ノットに促されて、俺はミラちゃんが単独で戦う意図を話し始める。

 簡単に言えばちょっとした腕試しだ。


〈これまでの戦闘によって私は成長しました。いくつかのスキルを得たのもありますが、それ以上に能力値が大きく上昇しました〉


 本当は【剥奪】によるものだけど話がややこしくなるので黙っておこう。


〈防御力、魔防力はもちろんですが、さらに攻撃力、魔法力まで大幅に強化されています〉


 ところで、防具なのに攻撃力が上がるのはおかしくないか? という疑問は【知識の書庫】によって解決した。

 なんのことはない。俺がインテリジェンス・アイテムという特別な存在だからだ。身に付けただけで筋力が上がったりするくらいわけないのだろう。

 一瞬だけ筋肉モリモリマッチョウーマンのミラちゃんを想像してしまったが映像が鮮明になる前に辛うじて消去できた。

 『筋力』じゃなくて『攻撃力』だけが上がる。そこはハッキリさせておこう。


〈今の私を装備したミラであれば、この辺りのモンスターも単独で殲滅可能だと思われますが……ただ、私も実戦を経験しなければどこまで通用するのかが判断できません〉

「だから試そうってわけか」

〈『彼を知り己を知れば百戦(あやう)うからず』という言葉があります。いざという時のため、どれだけ戦えるかを把握しておくのは必要でしょう〉


 この先ダンジョンを攻略して行けば格上のモンスターと戦うことも多いはずだ。

 充分に準備をして挑むのは当然だが、すべての戦闘において完璧に立ち回れるとは思えない。いずれは最悪の事態に陥ることを想定しておかなければ。

 本当なら俺が飛び出して代わりに戦いたいところなんだけど、そうはいかないのが防具の辛いところだな。

 だからこそ、あとで後悔しないように、やれることはやっておきたい。

 

〈もちろん安全は保障します。これまでの戦闘情報から、この階層のモンスターであれば危険はないと判断しました〉

「なるほどな。で、肝心なのは本人の意思だが?」

「……クロシュさんがそうしたいのでしたら私は構いません。……いえ、ぜひ私にやらせてください!」


 思った以上にやる気を見せてくれるミラちゃんだけど、それはそれで頼もしい。


「えぇ~……大丈夫なの?」


 まだディアナは不安がっていたけど。


「私はクロシュさんの判断を信じますよ。ディアナは信じられませんか?」

「……わかった! 私もクロシュを信じるね!」


 ミラちゃんの諭すような言葉に、ようやく納得してくれた。

 やけに高い信頼は嬉しいけど、ちょっとプレッシャーを感じますなこれ。素直に喜ぶべきだろうか。


「それに……クロシュさんの足を引っ張るつもりはありませんからね」

「なんか言ったー?」

「えへへ、なんでもありません」


 その小さな呟きは俺に対するものだったのか、ただの独り言か。

 ちゃんと聞き取れたのは俺の他にもうひとり……ノットがいた。


「……昨日から妙に前向きだと思ってたが、これが原因か?」


 どうやら俺と同じ結論に至ったようだ。

 暗殺スライムを倒そうなどと言い出した辺りから、ミラちゃんの様子にちょっとだけ変化を感じていた。その理由がわからなかったんだけど……。

 俺のため、だったみたいだな。

 モンスターを倒すほど俺が成長するから、だからより多く倒す。

 俺が必要だと言えば猫耳フードも腕試しも笑顔で了承してくれる。

 どうしてそこまで俺に尽くしてくれるのかは、まだ不明瞭な部分もあるけど、きっと打算的なものじゃないんだろうな。

 なんとなくわかる。わかるったらわかるのだ。


 ミラちゃんは本当に良い子じゃぁ……。


 ねこみみは、ちょっと、ちがうようなー?


 似合ってるからいいんじゃよ。


 おじいちゃんは、まごに、あまいなー。


 この場合、幼女神様がおばあちゃんってことでいいのかな?

 ロリババア神……うーん、ちょっとキャラと違うな。

 ともかくミラちゃんが全力で協力してくれるのなら、俺も結果を出さんとな。

 ただ無理はさせないよう注意しないとね。




〈ミラ、準備はいいですか?〉

「いつでも大丈夫です」


 俺は【察知】によってモンスターの位置を把握している。

 ダンジョンのモンスターは『敵意』を垂れ流しているから、どの辺りにいるのかは遠くからでも、なんとなくで感知できるからだ。

 あまりに数が多かったりすると混乱するし、近くの敵意で遠くの敵意が塗り潰されたりするから、そこまで便利ではないけどね。

 今回に限ってはモンスターと出会えればそれで良かったので、最も近かった気配に向かうだけだから不便はない。


 進んでいる通路の先、突き当たりを曲がったところに2体いる。

 ミラちゃんにそう告げると、一度足を止め、ゆっくりとレイピアを抜いた。

 持ち手から切っ先まで真っ白な剣を片手に再び足を進める。

 様子を見れば、やはり少し緊張しているようだ。

 でも、ここで俺から声をかけたりはしない。

 すでに伝えるべきことはないからだ。あとはミラちゃんに任せて見守ろう。


 詳しく位置を知らされていたミラちゃんは確認のために覗き込んだりせず、そのまま勢いよく通路から飛び出し、その先にいるモンスターを視界に収める。

 同時に、相手もこちらを認識して威嚇の咆哮を上げた。

 その数は1体。

 四足歩行の黒い獣、影牙獣(シャドウウルフ)と呼ばれるモンスターだ。狼に似ている。

 すべて事前に聞かされていた情報通りのためミラちゃんは落ち着いて半身に構え、レイピアを前に突き出す。

 こちらが臨戦態勢に入ったにも関わらず、影牙獣(シャドウウルフ)は未だに唸りながら睨むだけで動こうとしない。まるで、なにかを待っているかのように。


「アクアバレット!」


 瞬時にレイピアを壁へと向けて魔法を唱えるミラちゃん。

 鋭い切っ先から水の弾が放たれ、灰色の壁を僅かに削る。


「ギャインッ!」


 犬のような悲鳴と共に、壁からもう一体の影牙獣(シャドウウルフ)が吐き出されるようにして現れた。

 影に扮して移動する。こいつらの特性だ。

 囮役が注意を引き付けている間に、別の個体が奇襲を仕掛ける。成功すれば待機していた囮役がそのまま突っ込み、2体で獲物を蹂躙する作戦なのだろう。

 まともに引っ掛かれば致命傷は避けられないだろうけど、動く影になんでもいいから攻撃を当てるだけと対処は簡単だし、正面から立ち向かえばそれほど強くはない。

 事実、今の一撃で影から引きずり出された一体はすでに瀕死となっている。

 影に潜む技は強みであると同時に、無防備を晒す弱点でもあったようだ。


 仲間をやられた怒りからか、他に策がないのか。残った一体は敵意を膨らませて猛然と駆けだした。

 真っすぐ向かって来る辺りからも、影牙獣(シャドウウルフ)の知能は高くないことが伺える。このまま魔法を放てば問題なく迎撃できるだろう。

 しかし、これは腕試しだ。

 順調に敵の数を減らして一対一へと持ち込めたので、ミラちゃんは指示通り魔法を使わずにレイピアで迎え撃とうとする。

 普通に考えたら、いくら相手が低級モンスターの影牙獣(シャドウウルフ)一体であっても、魔術士のミラちゃんが剣で敵う相手ではない。

 だけどそこに俺という要素が加わると。


「えーいっ!」


 なんだか気合が抜けそうなかけ声が聞こえたのと、喉を喰い破らんと跳びかかった影牙獣(シャドウウルフ)の首が刎ね飛ばされたのは同時だった。

 続けて油断なく瀕死で身動きが取れなくなっていた一体にもトドメを刺す。

 こうしてミラちゃんは初めての接近戦を終えたのだった。




「やったー! ミラ凄いよ!」

「わ、私は大したことはしていませんから……クロシュさんのおかげですし」


 離れた場所で待っていた3人と合流すると、自分のことのように喜ぶディアナにミラちゃんは抱擁して迎えられ、照れたように謙遜する。

 でも敵の情報と対処法を教えて貰っていたとは言え、実践してみせたのは紛れもなく彼女の功績だろう。

 もう少し苦戦するだろうと予想していたから、いざとなったら結界を使うつもりで集中してたんだけど、まあ結果オーライだな。


「謙虚なのがミラのいいところだがな、初めて剣を使ってあれだけ戦えたんだ。少しは自信を持っていいと思うぞ」

「ミラ。頑張った。褒める」

「うぇ!? ちょ、れ、レイン!?」


 ノットはちょっとだけ呆れながらも称賛し、レインに至ってはディアナに抱きつかれたままのミラちゃんの頭をなでなでしていた。

 二人にされるがままのミラちゃんを眺めていると脳内にパリイ! と変な閃きが走った。

 ここはひとつ、俺からも。


 【変形】を使って肩の辺りからズズズッと生地を伸ばしてみる。

 そのまま変形させ続けると、自分の意思で操る腕のように動かして先端部分を移動させる。

 目標はミラちゃんの頭だ。


「ひゃっ!? クロシュさん!?」


 さっきから戸惑ってばかりのミラちゃんを落ち着かせるように、レインと代わるようにして平べったい布の手で撫でる。


 さわさわ。なでなで。ふわふわ。


 うむ、これは良いものだ。

 美少女の頭を撫でるという行為もさることながら、ミラちゃんの柔らかい髪の触り心地の良さも相まって至福の時間と言えた。

 おっと、あまりやり過ぎると不審に思われるかな。

 ふとミラちゃんの顔を盗み見れば、えへ、えへへ……とにやけており、まんざらでもなさそうだった。

 これなら続けてもいいかと再び腕を動かしかけたところで3人の視線を感じて自粛しておいた。特にノットの目がちょっと怖い。


「あっ」


 やめたら今度はミラちゃんが物足りないような顔で残念そうにしていた。


 なんだい、いつから俺はハーレムルートに突入していたんだい?

 でも俺には幼女ハーレムという正規ルートが待ってるからさ……。

 とりあえず修羅場だけは勘弁して欲しいので鈍感系主人公の如く、なにも気付かないフリをしておいた。




 腕試しを終えたことで、ひとつ判明したことがある。

 それは戦闘技術が拙くともステータスで上回ればごり押しで勝てる、ということだ。

 事実ミラちゃんは初めて扱うレイピアでモンスターの首を刈り取ってみせた。

 あまりにもあっさりだったので簡単そうに見えたけど、実際のところ【知識の書庫】によれば、剣術を修めていない人間が今回と同じ条件で影牙獣(シャドウウルフ)と戦った場合『当てることは可能だが上手く切れず、大したダメージを与えられない』という答えが返って来た。

 だからこそ俺はミラちゃんが苦戦すると予想していたんだけど、それを覆してしまったのがステータスの差である。

 俺を装備することによって大幅に攻撃力が上昇していたミラちゃんは、構えも振り方も素人なへろへろ斬りにも関わらず瞬殺してしまったのだ。


 では本来のミラちゃんが持つステータスのみで戦った場合、同じように瞬殺するにはどれぐらいの技量が必要だったのかを調べてみると、驚いたことにディアナほどの剣技であっても不可能だという結果が出た。

 これはミラちゃんとディアナ、素人と剣士の間にある技量の差を、俺が埋めたどころか追い越してしまったことを意味する。

 もはや技とか小賢しいことは考えず、ステータスを上げて物理で殴ればいい、などという戦法が確立されてしまいそうだ。


 ……ん?

 ところで、俺ってそんなに攻撃力が高かったかな?

 気になったので早速ステータスを表示する。


――――――――――――――――――――

【クロシュ】


レベル:8

クラス:上質な布

レア度:2


○能力値

 HP:100/100

 MP:17/17


○上昇値

 HP:3

 MP:103

攻撃力:70

防御力:38

魔法力:52

魔防力:52

思考力:0

加速力:0

運命力:8



○属性



○ボーナス



○スキル

【念話】【神託】【進化】【ステータス閲覧】【採寸】【鑑定】

【自動修復】【HP譲渡】【防護結界・被膜】【察知】【剥奪】

【透視】【変形】【色彩】【暗視】【異常耐性・痺】【異常付加・痺】


○称号

【成長する防具】【インテリジェンス・アイテム】【神の加護】【説明不要】

【技巧者】【思索者】


SP:1

――――――――――――――――――――


 ふむ、レベルは昨日と同じで変動していない。

 今日はまだザコしか倒していないし当然か。

 問題の攻撃力は70だが……。


 たしか『鉄の剣』の攻撃力が23だった……と思う。うろ覚えだな。

 武器としては下位もいいところだから、もう少し強い武器だったら倍ぐらいで、攻撃力50は行くだろうか。

 それでも攻撃力70まで少し遠いな。

 おまけに言ってしまうと、ミラちゃんは俺とは別に本来の武器としてレイピアを装備しているから、それの攻撃力も加算されるんだよね。

 ちなみにホワイトレイピアの詳細な鑑定結果はこうだ。



【ホワイトレイピア】

レベル:10

クラス:上質な細剣

レア度:3


○上昇値

 HP:0

 MP:0

攻撃力:25

防御力:0

魔法力:0

魔防力:0

思考力:0

加速力:0

運命力:0


○特殊効果【魔力操作補助】

 魔法の効果が少し上昇。

 魔法の消費MPを僅かに減少。



 特殊効果を求めて購入した剣だけど、当たり前のように攻撃力がある。

 そして実は俺よりもレベルが高いのだがそれは置いておこう。

 べ、別に悔しくないんだからね。

 冗談はともかく、俺のステータスと合わせると『攻撃力95』だ。

 あ、あとミラちゃん本人の攻撃力もあったけど、まあ誤差の範囲か。

 一応、確認だけしておくけど。


――――――――――――――――――――

【ミラ】


レベル:16

クラス:魔術士


○能力値

 HP:85/85

 MP:110/110

攻撃力:13

防御力:15

魔法力:23

魔防力:18

思考力:24

加速力:10

運命力:5


○スキル

【水魔法・初級】【治癒魔法・初級】【補助魔法・初級】【直感】


○称号

【村娘】【魔法使い】【慈悲深き者】【心優しき者】【冒険者】【足手まとい】

【ドジっ子】【アイテム鑑定士・見習い】【魔法少女】

――――――――――――――――――――


 うん、合わせて『攻撃力108』になったな。煩悩の数か。

 これが素人でも影牙獣(シャドウウルフ)を瞬殺できる攻撃力なのかな。

 なにかの目安になるかな……?

 あー……えっとぉ……。


 おかしいなぁ。変な称号が見えるや。眼精疲労って奴かな?


 げんかく、じゃないよー。


 なんか見覚えがあるんだよなぁ。これが既視感(デジャヴュ)か。


 まえに、クロシュくんが、いってた、やつだよー。


 ……なんで?


 のりでー。


 ノリ? ノリでこんな称号を付けちゃったの? ウェーイ?


 だって、クロシュくんが、いってたからー。


 だからってこれは……え、俺が悪いの?


 わたしは、わるくねぇー。


 それ俺のセリフでしょ。


 言おうとしたセリフを取られた人の気持ちを考えてくださいよ。

 もしやと思って他のみんなもよく確認してみると……。

 

――――――――――――――――――――

【ノット】


○称号

【奴隷の子】【奴隷】【殺人者】【解放されし者】【義賊】【冒険者】

【ちみっ娘】【レアアイテム狂い】

――――――――――――――――――――


 お、俺は悪くねぇっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ