第一話 墜ちた星
それは、“流れ星”じゃなかった。
落ちてきたのは――
“意志”だった。
夜の砂漠は、静かすぎた。
風の音すら、遠くに消えている。
空には、無数の星。
だがその中に――
ひとつだけ、“動くもの”があった。
ゆっくりと。
確実に。
こちらへ向かってくる。
トシノリは、立ち止まった。
「……あれ」
指をさす。
ルルも空を見上げる。
その瞬間。
光が、強くなる。
星とは違う。
飛行機とも違う。
まっすぐに落ちてくる。
「……流れ星?」
トシノリが呟く。
だが、ルルは首を振った。
「違う」
短く。
はっきりと。
光が、加速する。
音は、ない。
なのに――
“圧”だけが、伝わってくる。
「来る」
ルルが言った瞬間。
――地平線の向こうで、光が弾けた。
遅れて、振動が来る。
空気が震える。
砂が、わずかに浮く。
トシノリは、息を呑んだ。
「……落ちた?」
沈黙。
ルルは、その方向を見つめたまま動かない。
その瞳は――
ただの“現象”を見ていなかった。
「……行こう」
その一言に、迷いはなかった。
砂漠を歩く。
足跡だけが残る。
風がないせいで、それすら消えない。
しばらくして。
空気が、変わった。
冷たい。
乾いているはずの空気が、妙に重い。
「なあ、ルル」
トシノリが小さく言う。
「これ……普通じゃないよな」
ルルは、答えない。
ただ、前を見ている。
やがて――
見えた。
砂の上に、ぽっかりと空いた“穴”。
クレーター。
その中心に――
“それ”はあった。
銀色。
なめらかな曲面。
継ぎ目のない構造。
円盤。
トシノリの喉が、わずかに鳴る。
「……マジかよ」
近づく。
一歩。
また一歩。
不思議なことに――
熱がない。
落ちたばかりのはずなのに。
「……冷えてる?」
トシノリが触れようとした瞬間。
「待って」
ルルが、止めた。
その声は――
いつもより、低かった。
「これは……」
言葉を選ぶように、間が空く。
「……おかしい」
トシノリは、眉をひそめる。
「UFOだろ?」
ルルは、首を振った。
「そう見えるだけ」
その言葉の意味を、理解する前に――
“音”がした。
微かな振動。
金属でも、機械でもない。
まるで――
“何かが、起きようとしている”音。
トシノリの手が、わずかに震える。
「……今の、聞こえたか?」
ルルは、答えない。
ただ、円盤を見つめている。
その瞳が、ゆっくりと細くなる。
「……反応してる」
「え?」
トシノリが聞き返す。
だが、その瞬間。
円盤の表面に、わずかな光が走った。
線のように。
呼吸するように。
そして――
止まる。
沈黙。
何も起きていないように見える。
だが。
確実に、何かが変わった。
ルルが、小さく呟く。
「……来たわね」
トシノリが振り向く。
「何が?」
ルルは、ゆっくりと答える。
「観測」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が、わずかに歪んだ。
見えない何かに、触れられたように。
トシノリは、無意識に空を見上げる。
星は、変わらずそこにある。
だが――
「……なんか」
言葉が、詰まる。
「見られてる気がする」
ルルは、静かに言った。
「気のせいじゃない」
そして。
ほんの少しだけ、微笑む。
「ようこそ」
その声は、どこか冷たかった。
「“観測の中”へ」




