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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
神の呪いとちっちゃな王女

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第151話・大人も満足できる一品、でも欠けているものが(ナポリタンとエビピラフ、そして定番のおまけ)

 さて。

 丁度オーダーも一段落したので、さっきの続きを始めるとしますかねぇ。

 といっても、スパゲティ・ナポリタンはそんなに面倒臭いものじゃない。

 ただ、美味しく作る為の拘りっていうものはあるけれどね。


「まずは、トマトソースを作りますか……これさえ仕込んでおけば、後は楽だからねぇ」


 使う材料はホールトマト缶と無塩のトマトジュース、後はケチャップを少々。

 これを一定の割合で鍋に入れた後、煮詰めるだけ。

 まあ、ローリエを一枚とブーケガルニを入れた後、弱火でコトコト30分。

 沸騰させない事、焦がさない事、これにさえ気を付けておけば、後は簡単。

 その間に、玉ねぎとベーコン、ピーマンをカットしておく。玉ねぎとピーマンは細切りに、ベーコンは一口大に切る。

 これをオリーブオイルでさっと炒めた後、先程から煮込んでいたトマトソースを加えて一気に混ぜるだけなのだが。

 

「まあ、パスタも茹でておかないとならんが。時間停止処理しておけば伸びることもないから、便利だよなぁ……と、少し多めに仕込んでおくか」


 大きめの雪平鍋にお湯を張り、沸騰させた後、塩を加えてからパスタをゆでる。

 この時、塩は少し多めにしておく事、小さじ一杯程度のオリーブオイルも加えておく事。

 茹でる時間はきっちりと、袋に書いてある時間からおおよそ30秒前に火を止めてザルにあげておく。

 なぜ30秒前かというと、火を止めても余熱は残る。そして湯切りするまでの時間はまだ加熱状態なので、そのあたりも計算しないとならないって、若い衆の時に親方さんに教わったんだよ。


「さて、まもなく茹で上がるので、先に具材を炒めますか」


――ジャァァァァァァァァァァァァァァァッ

 熱々のフライパンの中で炒められる具材。

 ベーコンの少しだけ焦げた香り、玉ねぎの甘い香り。

 それらがいい感じに立ち上ってきたあたりでパスタも茹で上がる。

 ざっと湯切りしたパスタをフライパンに加えてさっと炒めたのち、鍋に残しておいたパスタのゆで汁を少々加えて伸ばす。

 こうする事で乳化という化学反応を起こし、パスタに味が絡みやすくなる。

 

「そして、仕込んでおいたトマトソースを一気に入れた後、ざっと混ぜ合わせて完成……と」


 さて、こいつも越境庵のデシャップ台に置いておくか、しっかりと時間停止処理をしておいてな。

 お次は、今日は最後の仕込みになるか。

 まずは先の準備として米を洗っておく。

 いつもなら一人前二合で仕込んでおくのだが、今日はもう少し多めに仕込んでおく。

 ちなみにどうして二合かというと、ぶっちゃけると一合で仕込むのが非常に面倒臭い事、お代わりにも対応出来るようにする為。

 うちのピラフは『炊き込みピラフ』といって、プロの料理人に教わった、プロが怒るレシピ。

 どうして怒るかっていうと、和食さんでもピラフぐらいちゃんとしたものを作れっていう事で。

 

「材料はむきエビと玉ねぎ、にんじん、ピーマンと……」


 むき海老といっても、うちではバナメイエビを使用。

 殻をむいて背ワタを取り除いたのち、酒と少量の塩でもみ洗いしておく。

 こうする事で臭みが抜けるので、手間を掛ける時間があるのならやった方がいい。

 特に今回は炊き込みなので、仕上がりの香りも大きく左右されるからね。


「そして洗い終わったエビはさっと水で洗った後、水気を取ってボウルに入れておく……」


 玉ねぎ、にんじん、ピーマンはみじん切りに。

 三種類とも大きさを均等にしておくと、見栄えも良いし食べるときも楽。

 そして炊飯器の内鍋に白ワインと薄めの出汁、コンソメ顆粒、バター少々を加えてサッと混ぜた後、洗っておいた米を入れる。

 今回は4合で仕込んであるので、ここに4合線より少し下まで水を加えたのち、玉ねぎ、にんじん、エビを加えて炊飯。

 どうして水を少なめにするかというと、加熱した玉ねぎやエビなどの具材から水分が出るため、線ぴったりで炊くと水気の多い仕上がりになってしまい、最悪はベシャベシャになってしまうから。

 

「そして炊飯を開始……厨房倉庫(ストレージ)経由で越境庵に送った後、時間加速」


 まあ、5分ほどで炊飯は終わるので、最後にピーマンを加えた後、さっと混ぜ合わせて保温。

 最初からピーマンも炊いてしまうと、色味が悪くなるのとピーマンに火が入り過ぎてしまい美味しくないから。とはいえ、そういうのが好きな人は一緒に炊いてもいいだろうさ。

 

――グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

「さて、何か酒の肴でもご用意しますか?」


 カウンターのグレンガイルさんとアベル、そしてテーブル席のミーシャとその友人、シャットにも問い掛けてみるが。


「ユウヤぁぁぁ、さっきからずっと、美味しそうなものを仕込んでいるのに、そういう事を聞くのかにゃ」

「ああ、まったくだ。わしも知らない未知の料理、それを目の前でいくつも作られた日には、おちおち酒も飲んでいられんぞ」

「なあ、それってユウヤ店長の新作料理なんだろう? 俺にも食わせてくれよ」

「私にも一人前、お願いしていいかな?」


 ははは。

 まあ、そうなるだろうと思ったので、そろそろ盛り付けを始めますか。

 木製の大きな深皿の中心に炊き込みエビピラフを、その手前にハンバーグを並べる。

 ピラフの横には少し大きめに千切ったサニーレタスを敷き、その上にスパゲティ・ナポリタン。

 ナポリタンの奥、ちょいと上の方にザンギを二つ並べたのち、ピラフの真ん中に爪楊枝で作った旗を立てて完成。


「……え、なんですか、これ? いろいろなメニューの一つ盛りのような、それでいてなんだか、見てウキウキしてきますね」

「ああ、マリアンも判るか。これは『お子様ランチ』と言ってな、子供の好きなメニューのうちトップクラスの料理が一つに盛り込んであるんだ。本当なら、これにはおまけがつくんだけれど、ちょいと今は間に合わないのでね。という事で、一応人数分は用意したので、フォークをつけて全員に出してくれ」

「はい……あの」


 ははは、マリアンの分も用意してあるので、全員に出してから賄として食べていいって説明すると、もう楽しそうに配膳してくれた。

 さて、そろそろ耳をふさぐとしますか。


「なんだにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うっわ、これ、なんで、うわ、うま……」

「あららら、このパスタがすごく美味しいですね。それに、エビもプリップリで、臭みもなくて最高ですわ」

「うわぁ、うわぁ……」


 グレンガイルさん以外は、なんというか予想通りの反応だが。


「ふむ、こいつはウヰスキーだな。ユウヤ店長、こいつに合うウヰスキーを貰えるか?」

「また、なんていう難しい注文を。少々、お待ちください」


 お子様ランチに合うウヰスキーって、とんでもなく矛盾しているんだがなぁ。

 まあ、今回作ったお子様ランチは洋食ベースだから、それに合わせるとなると。

 うん、あれだな。


「お待たせしました。こちら、カクハイです」

「カクハイとは? 見た感じ、シュワシュワしているようじゃが」

「ええ。サントリーの角瓶というウヰスキーがありまして。そいつの炭酸割りです。うちのお嬢さん達はたまに晩酌で飲んでいますよ」


 ここは一発、サントリーが生んだ名酒、『サントリー角瓶』を使わせてもらった。

 ブレンデッドウイスキーの中でも飲みやすく、こういった洋食に合わせやすい。

 もう少しグレードを上げるとなると、少々値段が張ってしまうのでね。

 お子様ランチに合わせたチョイスということで。


「ははぁ、なるほど。これならどのおかずにも合うな。このお子様ランチとやらは、定番として作ってもらえるのか?」

「そうですねぇ……あらかじめ仕込んであれば出せますけれど。さっきから見ていた通り、この短時間で4品も作らないとならないメニューですから、定番というには厳しいですね。それに、こいつには大切なものが欠けていますから」

「欠けているとな? はて、どの料理も満足が行く仕上がりになっているぞ。量が少ないのは子供用らしいから仕方がないとして……何が足りんのじゃ?」

「そいつは秘密ということで……さて、そっちのお嬢さん達、お代わりが欲しかったらマリアンに頼んでくれ。マリアン、ここに残りのパスタとかもあるので、盛り付けは出来るよな?」


 ドン、と胸を叩いているマリアン。それじゃあ、お代わりは任せるとして、欠けているピースを埋めるとしますか。

 確か、駄菓子屋のカタログもあったはずだから、お子様ランチの定番である『おまけ』の準備をしておきますか。そこまで凝らなくてもと言われそうだが、やっぱり食事を終えた後のお楽しみは用意しておかないとねぇ。


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