ひまり復活
チュンチュン
「んん……?」
草薙ひまりは早朝の鳥の声で目覚めた。
まず目に入ったのは白い天井、その後視界に入った点滴で自分が病院にいることが分かった。
その後自分の体をペタペタと触診する。
「私絶対死んでたよね。死ぬ間際にサファイアちゃんがかろうじて視界に入ったけど…」
「私は死んでない。それどころか傷一つないしむしろ気分も良い……」
「起きたかい」
「!!」
ひまりがドアの方を見るとネモが丁度点滴の換えを持って立っていた。
普段から生気のない彼女だが、ひまりの介護のためかさらにやつれてる様に見えた。
「ネモさん!」
「おはよう。君が意識を失ってから3日経つが体調はどうだい」
「……不自然な程良いです。一度死にかけたのに」
「……なるほど」
ネモが神妙な様子でひまりの言葉を聞いていた。普通なら患者が元気と言っているのだから安堵の表情を浮かべても良いものだがネモの様子は浮かなかった。
それを見たひまりは理解した。
「サファイアちゃんが私を治療してくれたんですね」
「……あぁ」
「サファイアちゃんはどうなったんですか?」
「……それは」
ネモが顔を逸らして言いにくそうにしているのを見てひまりは体の違和感を確信した。
「いや、言うべきだな。草薙サファイアは……」
「私の体の中にいる」
「は?」
ネモが勇気を出してサファイアの事実を述べようとする前にひまりが予想外の言葉を口に出した。
「私の体の中に何となくサファイアちゃんを感じるんです。きっと死んだ訳じゃないと思います」
「し、しかし……」
「今ならできそう」
「?」
ひまりが手のひらを差し出して力を込め始める。
「ぐぬぬぬぬぬぬ!!!」
「ひ、ひまり?」
突然ひまりが奇行を始めたことで再び検査が必要かと思っていると…。
ボォ!
「!!?」
「ほら、出ましたよ!」
ネモはその光景に珍しく手を口に当てて驚きを隠せずにいた。
ひまりの手のひらからはサファイアが使っていた「白い炎」が噴出していたのだ。
「これは…?」
「私にも詳しくは分からないけどサファイアちゃんが私を手伝ってくれてる感覚があるんです。きっと死んではいない…」
「……にわかに信じがたいが」
「ですよね。だから…」
ひまりは意を決して宣言する。
「スノウちゃんを探しましょう。サファイアちゃんのお姉ちゃんなら元に戻す方法が分かるかも」
「……スノウか」
突如何もない空間から出現する少女達「ネメシス」
その中でも飛び抜けて危険と言われているスノウを探すと言う提案にネモは立場上安易なことは言えない。
とはいえひまりがサファイアが死んでないと言っている以上、彼女を記憶喪失にして軽くあしらったスノウであれば何とかできる可能性もある。
「タイミングが良すぎるな…」
「はい?」
ボソッとひまりに聞こえないように呟くネモ。
「一度その内容は上に引き継ごう。そして目覚めたばかりの君にいきなりこの話をするのは気が引けるのだが…」
「な、なんですか?」
ネモの真剣な様子にひまりは身構える。
自然とベッドの上で正座をしていた。
「先日津島エリノアと松浦澪の二人が東條学園を襲撃した」
「襲撃!?」
院内だというのに廊下まで聞こえるような声で反復するひまり。
ネモは続ける。
「校内の目についた生徒に片っ端から襲いかかり暴れ回った。東條学園側も被害は甚大らしい。だが当日いたS級の天堂雷果に二人は敗北し、澪に限っては重症だ」
「重症って…」
「とはいえ協会の回復系のアイドルに治療を受けて今は特に問題なく動けてるがね」
ひとまず胸を撫で下ろすひまり。
「け、けど何でそんな事…」
「理由は明白だろう?サファイアと君をこんな目に合わせた東條学園に復讐するためだ」
「そんな事私頼んでないのに……と言いたいところだけど澪ちゃんならやってくれそう」
ひまりの落ち着きようにネモは意外そうな顔をした。
「もっと驚くかと思ってたよ。思っていたより冷静な反応だね」
「まぁ私がやられて澪ちゃんが怒ったのは一度や二度じゃないですからね。けどそんな事
しちゃったら…」
「あぁ、駿河学園としては二人を退学させる方向で動いている…」
「……」
ひまりは黙ってネモの言葉を聞いている。
ネモは続ける。
「だがそれにはストップがかけられた」
「え!?」
通常ならそんな大惨事を起こした二人は退学どころか逮捕される可能性もある。
「誰がストップをかけたんですか」
「アイドル協会の会長だよ」
「会長……」
「スキル」などの異能を発現する少女達「アイドル」
そのアイドルの取り締まりや昨今世間を騒がせている「ネメシス」を討伐する組織の長。
その顔はニュースにもネットにも上がったことはなく、一部の市民からは本当に存在するのかどうかまで噂されている人物だ。
「会長は二人と直接顔を合わせてある提案をした。そしてそれを承諾するかどうかはsuruga☆oneのリーダーであるひまり君に委ねられている」
「……提案って?」
「suruga☆oneがこれからアイドル協会の傘下に入り任務を手伝う事だ。たった2人で東條学園の生徒達を戦闘不能にして回った実力のあるグループ…会長は君たちを相当気に入ったらしい」
「なるほど、ね」
ひまりは腕を組んで考える。
これに応じなければ恐らく二人は退学処分になるだろう。
とはいえアイドル協会の任務を手伝うということは今回のフィーリア事件のような任務に駆り出されるかもしれないのだ。
退学は進路を狭めるかもしれないが、そのために危険な任務を手伝ってメンバーが死んでしまったら本末転倒になる。
「(って言っても個人的には魅力的な提案なんだよね。スノウちゃんに会うのに協会に近い場所で動いた方が色々情報貰えそうだし)」
「(いっその事メンバー三人脱退させて私だけ協会に協力するとか駄目かな?……駄目だね。今回の話は澪ちゃんとエリノアちゃんの実力が評価されてるんだから)」
「(ど、どうしたら……)」
シュゥゥゥゥ……
ひまりは考えすぎて頭から煙が出てくる。
最低限、舞子は今回の件で全くの無関係だ。そのため彼女だけユニットから抜けてもらって三人だけで…と考えてるところに件の人物が入口に現れた。
「ひまりちゃん!」
「ま、舞子ちゃん!?」
「舞子君は君が寝ている間ずっと看病してくれてたんだよ」
ネモの言葉にひまりは胸が熱くなると同時に申し訳なさを感じた。
舞子はあまり普段から自分の意思を話さないが今日は違った。
「ひまりちゃんは協会に入りたいんだよね?なら入ろうよ」
「う……けど駄目だよ。私達だけじゃなくて駿河学園の生徒たちも東條学園の標的にされる可能性も…」
「それについては大丈夫。協会の静岡支部の人たちが24時間体制で学園を警備してくれることになってるから」
「そ、そこまでするの?言っても私達はB〜A級のグループだよ」
その質問にはネモが答えた。
「現段階ではそうだろう。だが君たちはまだ高校一年生だ。伸びしろは十分にあるしもしかしたらS級に上り詰める人材も出てくるかもしれない…会長は二人と対面してそれに気づいたんだろう」
「それに、ひまりの体内にはサファイアが眠っている…とすれば協会としては手元に置いておきたいだろうな」
「けど学園の皆が嫌がるんじゃないかな。勝手な行動で危険に巻き込んでるわけだし」
「ひまりちゃんが思ってる程皆は弱くないよ。フィーリアがひまりちゃんとサファイアちゃんを倒したと聞いて学園内は復讐の炎に燃えてるんだから」
「そんなに皆血気盛んだったっけ!?」
「その後の澪ちゃん、エリノアちゃんの殴り込みだって、最初は学園内で何人も自分が行くって言う人が多かったんだから。結局学園長のストップがかかって無くなったけど
二人は決行した…その時も『何やってんだ』って声は無くて『良くやった!』っていうムードだったんだよ」
「駿河学園って結構鎌倉武士的な思想持ってる?」
「ぶふっ」
ネモがひまりの言葉に思わず吹き出してしまった。
「す、すまない。続けてくれ」
ひまりは天井を仰いだ。
舞子はああ言ったが、流石に生徒全員が好戦的というわけではないだろう。
中には内心「面倒事を持ち込みやがって」と考えてる生徒もいるに違いない。
「(とはいえ学園内の多数がそう思ってくれてるなら……)」
自分としても協会の情報を得られるのはメリットがある。
二人を退学にもさせたくない。
「(致し方あるまい)」
ひまりは二人に向き合い宣言した。
「分かった」
「ひまりちゃん!」
舞子が嬉しそうにひまりの名前を呼んだ。
suruga☆oneはこれから沢山の困難に直面するだろう。
ひまりはリーダーとして皆を引きなければならない。
中学時代隠キャグループに属していたひまりにとってはあり得ない事だ…だがもうそんな事言っていられない。
ひまりは覚悟を決める。
「これよりsuruga☆oneは協会の傘下に入ります!ネモさん、舞子ちゃん、これからもよろしくね!」




