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7-3 魔王降臨!

 アレクたちは、外で起こった出来事を確認するために外に飛び出した。そこには、黒い槍が結界を突き破り山に深く突き刺さっていた。

 空は漆黒に染まり、そのおぞましいほどの悪意に震えている。槍の周りには暗く空気がよどみ、瘴気が周りをかすめるように漂っていた。


 その光景を見つめていたアレクたちの下に、巨大な魔法陣が浮かぶ。

 アレクはとっさに結界を張って防ぐ。先ほどまでのニートなアレクの行動が打って変わって、その行動が速まる。


「やけにやる気だねアレク」


 態度の変わったアレクの様子を見て、シモンがはやし立てる。

 

「うるせえ、油断するなよ」

 

 アレクはその手から魔法陣を放ち、剣を手にする。勇者の剣だ。 

 アレク自身は気づいていないが、彼の目は黄金に輝いてる。勇者にのみ示される希望の光だ。今、まさにアレクはニートから世界の勇者へと様変わりしていた。


 魔王の攻撃が止まると、アレクはそのまま結界を飛び出し、魔王へ一撃を放とうとする。魔王もアレクの剣戟を腕ではじく。

 アレクがはじき返された後ろから、ロゼが突っ込み、リリカが魔法を放ち、シモンがゾンビを動員する。

 

「ちょ、ちょっと待てい!」

 

 一度にやって来る攻撃を闇の魔法ではじき返すと、魔王は大きく叫んだ。

 

「なんでそんなにいるの?」

「別に関係ないだろ」

「おかしいでしょ。そんなにいるなんて聞いてなかったよ」


 アレクはため息を吐く。

 魔王の発言から、魔王を召喚したのはデベルであることは彼の中にも察しはついていた。


「お前が何を聞かされているのか知らねえけど、俺は魔王だけは倒さないといけないんでね。容赦はしないぞ」

「グッ」

 

 アレクの言葉に逃げ道はないことを悟った魔王は魔法陣を作成し始める。周りの瘴気が魔王のもとに集まり、魔力となる。山の中の草木が魔力を吸い取られて枯れていく。魔王の力のゆえんだ。

 

「勇者のくせに生意気なんだよ。そういうことならこれで終わらせてやる」

 

 魔王の魔法陣がどんどんと広がる。

 しかし、魔王が呪文を放とうとした瞬間、魔王のすぐ横をアレクの魔法が横切った。アレクが放った光魔法だ。その攻撃は魔力の流れに軌道をそらされて、魔王のそばぎりぎりで外れることになる。

 攻撃自体は大したことではなかった。しかし、その攻撃が横切ったことで、魔王の魔法陣が乱れ、結局魔法はアレクたちに当たることなく、空へと黒い光線と打ち出されることになった。

 

 それは魔王が不意の攻撃に驚いたこともあったが、それ以上に、魔王の中で急に恐怖が芽生えていた。

 

「なあ、アレク。あの魔王動きが止まったな」


 いち早くその変化にロゼが気付く。


「というよりも震えているように見えますね」

「なんか、ちびってませんか?」

 

 シモンが何かをひらめいたのか、悪い笑みを浮かべる。

 

「きっと先代の記憶を継承してしまっているのではありませんか?」

「先代の?」

「ええ、ひどく懲らしめたじゃないですか。その時記憶がまだ受け継がれてるんですよ」

「まあ、あの時は容赦なく倒しましたもんね。魔王城跡形もなくなっちゃってましたし」

 

 魔王を前にしながら、のんきに話し出すアレクたち。

 しかし、魔王はその隙をつく事も出来ぬほどに体が震えていた。彼は確かにアレクと出会うのは初めてであるのに、彼の顔がしっかりと記憶の中に焼き付けられていた。それも絶望的な印象と共に。

 

 それは先代の魔王の記憶だった。そこに映っているのは、先代の魔王がアレクに完膚なきまでにボコボコにされる映像だ。


 魔王城に乗り込んできたアレクは、その手に魔王の12眷属たちの生首を携えて魔王の間にまで入って来た。それらを投げ捨てると、なんの言葉もないままに襲い掛かって来る勇者たち。それはもう戦いというよりはいじめだった。


 攻撃を受けても再生する体のはずなのに、それも間に合わないほどの斬撃が彼の体を襲う。再生している最中の体には、怪しい顔をした僧侶が何かのウイルスを注入して来る。

 ようやく再生した体も瞬く間に二人の剣士に粉々にされる。魔王城は、巨大な獄炎魔法によってほぼ焼け落ちるところであった。


 魔王の視点からみても、それは地獄だった。焼けていく眷属たち。そのあっけなさを見ていると、どっちが魔王なのかがわからなくなっていた。


 ――こいつだけは相手にしてはいけない。


 それだけを次の代の魔王に伝えるべく、先代の魔王は無念にも息を引き取ったのであった。

 

 アレクの攻撃に死の予感を感じたことをトリガーに、魔王はそんな絶望的な記憶を呼び起こしてしまっていた。

 どれだけ振り払おうとしても、先代からの暗示が頭の中に残り続け、体を動かすことができない。

 

 ”あの勇者だけは相手にするな。逃げろ!逃げろ!”

 

 自分は人生をやり直すためにここまでやって来たんだ。こんなところであっけなくやられるのは嫌だ。

 

「ふっ、ふふふ、ふはははははっ!!!!」

 

 魔王は暗示を解くように大きく笑った。その声は周りの瘴気を揺らし、山の中に響き渡る。突然の魔王の声にアレクたちも体勢を取り直す。

 

「まったく面白いものだなあ。勇者とは」

「……」

「今日はあいさつに来ただけだ。いずれまた会おう、勇者アレクよ」

 

 我ながらひどい捨て台詞だと魔王は思っている。

 しかし、今は何よりも命が大事だ。逃げるしかない。アレク一人ならなんとかなるかもしれないが、こんな残虐なパーティメンバー全部を一人で相手にすることはできない。

 

 ――せっかくやって来た異世界だ。こんなあっさりと死んでたまるか。

 

 魔王は足元に魔法陣を張る。逃亡用の魔法陣だ。周りに瘴気が集まり、彼のみを隠そうとしている。魔王としての態度を最低限守りながら、それでも必死に逃げることだけを考えながら、魔法陣の完成を急かす。

 

「ぐっぎゃっあああああ!!!」

 

 刹那、魔王の腹に強烈な一撃がヒットした。

 転移魔法の上に乗っていた魔王は、そのまま大きく吹っ飛ばされる。何が起こったのかわからない魔王。腹の痛みが襲ってくるが、それ以上に得体のしれない恐怖が大きく、彼の精神を襲う。

 サクッ、サクッと枯れ葉を踏む乾いた音が魔王の耳に届いてくる。

 

 黒い影が魔王のもとにやって来る。その者たちの表情はよく見えない。ただ、魔王の目には

 アレクがしゃがみ込み、魔王の前に顔を近づける。その目は金色に輝いている。しかし、それ以外に彼を勇者だと判断する材料はなかった。はたから見れば、確実にチンピラに絡まれている図である。

 アレクは魔王の耳元で低く囁く。

 

「あんたがどこから来たのかなんか興味がねえよ。問題はあんたが魔王だってことだけだ」

「ひっ」

 

 魔王らしからぬ、高い悲鳴が出る。

 

 震える手を必死に動かして、アレクから少しでも距離をとろうとする。しかし、手はうごかない。

 気が付いた時には、どこからともなく表れたゾンビたちに体をしっかりと押さえつけられている。彼の下には謎の魔法陣が浮かんでいる。リリカのものだ。

 

「まあ、生まれてくる世界を間違えたな。俺が生きている限りは魔王の存在は絶対に許さない。いくら復活しようとも懲らしめるだけだ。何度でもな」

 

 それだけ言うと、アレクは魔王に対して剣を向ける。暗い瘴気の中で、一点だけ光り輝く。その光が天に向かって一直線に伸びる。


「二度と復活するなよ。くそ野郎」

 

 それだけ言うと、広大な光が魔王を包むのであった。

お読みくださりありがとうございます!


魔王様の悲しい記憶……


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